「オグリキャップ」と言う競走馬を知らない日本人はいるのだろうか?
少なくともオレと年齢の近い人は男女問わず知っているだろう。
ナガシマさんやイチローや田中角栄やガンダムやピンクレディーや金八先生やドラゴンクエストのように有名だ!
今から約20年前にオレが競馬に出会い、それして惹かれていく過程において欠かせない馬「オグリキャップ」。
以下の文章は、そんな「オレとオグリ」、2人(ひとりと1頭か?)の関係を完全ノンフィクションで描いた作品です。
『競馬の虜、ここに誕生!』
専門学校で出会った森田という男は、いつもおっさんのように競馬新聞を見ていた。
「馬が走る」→「どれが勝つかを当てる」→「お金が増える」
競馬の事はよくわからなかったが、それは十分魅力的で大人な臭いがした。
森田はそんなオレに競馬の仕組みを教えてくれた。オレは森田を「師匠」と呼んだ。
森田はいつもオグリキャップで馬券をとっていた。「オグリ様」とか言っていた。
その年の有馬記念。暮れの大一番。このレースが日本一決定戦らしい・・・。
1番人気のオグリと2番人気のスーパークリークが注目されていた。
でもそんな人気の2頭を抜きさって勝ったのはイナリワンと言う馬だった。
それを見たオレはなんだかわからないけど興奮し、スカッとした気持ちになった。
天邪鬼なオレはどうやら「アンチオグリ」になってしまった。
オグリキャップはその時既に競馬界のアイドルホースとして君臨していた。
アンチオグリとなったオレの事を師匠の森田は「馬券を買うのにに好きも嫌いもない」と言っていた。
オレは反骨心むき出しでオグリを倒す馬を探した。
「オグリヲ タオセバ スカット スルゾ」
翌年、オレの競馬人生が始まった。
競馬界もオグリを中心に回っていた。
安田記念。
オグリは圧倒的1番人気であっさり勝った。
オレの刺客バンブーメモリーはオグリの影さえ踏めなかった。
「憎っくきオグリ」オグリに対する憎悪が増幅した。
宝塚記念。
オグリは圧倒的1番人気で負けた。
オレの刺客イナリワンはもっと負けてたけど・・・。
「競馬に絶対はない!」と知った。
秋の天皇賞。
オグリはやっぱり1番人気だった。でも負けた。
貧乏でプライドを捨てたオレはオグリの馬券買ったのに・・・。
オレが馬券買ったら負けるなんて・・・ 「あー、憎らしい。オグリめ!」
ジャパンカップ。
連敗したオグリは人気を下げていた。結果も大負けだった。
森田が言った。「オグリはもう終わったかもな・・・」
オレは、強いオグリが嫌いだった。
だからひとりごちた、「なんだよー。しっかりしろよ。憎たらしいオグリ・・・・チェッ。もう、終わりかよー。」
競馬界はサイクルが早い。
野球なんかだとスターは10年くらいいるもんだ。
しかし競走馬は長くて3年くらいしかトップスターに君臨してはいられない。
だからみんなオグリの次のスターを探しはじめた。
1年間競馬を見てきたオレはメジロライアンと言う若駒を「おらがヒーロー」と位置づけた。
そして、有馬記念 。
1番人気、次代の芦毛スター:ホワイトストーン
2番人気、メジロの強豪:メジロアルダン
3番人気、おらがヒーロー:メジロライアン
5番人気、宝塚記念でオグリに勝ってる:オサイチジョージ
6番人気、天皇賞秋でオグリに勝ってる:ヤエノムテキ
オグリは、4番人気。
このレースで引退を表明していた。一時代を気づいたアイドルホースへの同情票的人気は明らかだった。
「なんだよぉ。。同情されてんじゃん。ホントにもう終わったんだよ。」
ゲートが開く、レースが進む。
オサイチ先頭。有力どころは前。アルダン、ヤエノが行く。
ストーンは好位につける。ライアンはいつものポジション。
オグリは・・・・・・・・・知らない。。
4コーナー。オサイチ先頭。アルダン続く。ヤエノは後退。ストーンもライアンも絶好の手ごたえ。
あれ?オグリもいる。「ふ~ん、さすがユタカ。見せ場だけは作るんだなぁ」
最後の直線。
オレは叫ぶ。大川慶次郎と一緒に叫ぶ。
「ライアン!」「ライアン!」「ストーンに負けるな!」「ライアン!!」
ライアンに向かって叫ぶオレ。
ライアンはいい脚。勝つ勢いでゴールに向かう。
でも・・・、でも・・・、
オレの目は、心は、脳は、
ライアンを見ていない・・・。
アイツが・・・アイツがきてる。
「まさか。まさか。」
もう、アイツしか観てなかった。考えてなかった。感じられなかった。
ゴールの瞬間、
オレは全身全霊を込めて絶叫していた・・・。
「オグリーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
汗だくの拳。クチャクチャの競馬新聞。騒ぐ仲間。
そして・・・オレの涙。
涙は止まらなかった。
オレは無意識に唱えていた。
「すげぇ。すげぇぇ。オグリ。すげぇ。オグリ。オグリ。」
「競馬って、競馬って、すげぇ。すげぇぇ。」
この瞬間、競馬の虜になった男が一人誕生した!
あれから20年。
オレは息子たちと地元の笠松競馬場に行った。
ここ笠松競馬場はオグリがデビューから1年近く走った所。
ここから伝説が始まったオグリ発祥の地。
そこには地元の英雄オグリの銅像が出来ていた。周りにはおっちゃんたちがウロウロしてた。
オレは横目にその銅像を見ながらも、次のレースの予想に夢中になっていた。
レースの時間が近づくと英雄の周りに誰もいなくなった。
おっちゃんたちは英雄よりも小銭が好きなのだろう。
オレ達もレースを観に本馬場の方に歩き出した。
オレはふと踵を返してオグリキャップの元に走った。
オグリがいる。
目の前にオグリがいる。
あの憎かったオグリがいる。
感慨深げにオグリを見上げる。
その時、笠松独特のヘンなファンファーレがなった。
「レース見なきゃ。」
オレはオグリの鼻面を拳で軽くコツンとした。
そして、急いで本馬場へ駆けていった。
「サンキュ、オグリ。」
おかげであれから20年。オレはずっと競馬の虜だ!