2005/01/04

 ◆簡単に「早送り」

 録画時にビデオテープを入れ替える必要のないハードディスクドライブ(HDD)内蔵型DVDレコーダーの売れ行きが好調だ。このレコーダーが普及すれば、テレビを録画で見る生活スタイルが進むことも予想される。民放にとって経営の根幹となるCMが再生時に早送りされてしまうともいわれ、新たな課題になっている。

 家電量販店には現在、各メーカーのHDDレコーダーが所狭しと並んでいる。東京・秋葉原の石丸電気によると、売れ筋は7万円から10万円のタイプで、アテネ五輪直前から人気が出始めた。特に、十二月二十日からNHK衛星第2で始まった韓国ドラマ「冬のソナタ 完全版」が後押しし、ボーナス商戦の主役に躍り出た。

 HDDレコーダーには、テレビ画面上の番組表から見たい番組を選んでリモコンで予約する電子番組ガイド(EPG)や、番組の頭出しが瞬時にできるなど、便利な機能がある。しかも、録画可能時間はほとんどの機種で二百時間を超える。EPGは、機種によってジャンル、人名、キーワードによる番組検索も可能で、一度セットすれば、好きなタレントの出演番組も自在に録画することができる。

 大半の機種の番組表は、各局からの資料を基にインタラクティブ・プログラム・ガイド社(東京・中央区)が製作。視聴者が録画でテレビを見る機会が増えることを見越し、同社はEPG自体が新たな広告媒体になると判断、独自の広告を番組表の中に入れている。

 視聴者にとっては便利な半面、民放にとっては録画視聴の増加でCMが早送りされる恐れも出ている。「CMスキップボタン」がリモコンに付いている機種もあり、CM放送時間を飛ばすことができる。その結果、広告の中心がテレビから衛星サイトにシフトする動きが加速する可能性がある。

 ■民放連が対策検討

 日本民間放送連盟の日枝久会長(フジテレビ会長)は、「CMも著作物の中に含まれるという考え方がある。そうした著作物を簡単に加工するような手段を講じて良いのかという議論もある」と指摘。メーカーへの申し入れも視野に入れながら、プロジェクトチームを設置して対応策を検討している。

 ただ、速報性に魅力があるニュースやスポーツ中継は別として、ドラマやバラエティーの場合は、録画した後、CMを飛ばして視聴されることが多いのも実情だろう。日本テレビの間部(まなべ)耕苹(こうへい)社長は「民放にとっては死活問題だが、対策は立てられるので恐れることはない」と強調。テレビ朝日の広瀬道貞社長も「(放送の)本編にCMを入れるなど、局内で研究もしている。さしあたり深刻な問題ではない」と余裕を見せる。

 これに対し、フジテレビの稲木甲二・営業局次長は「HDDレコーダーが普及したとしても、番組をすべて録画した後でないと見ないような時代になるだろうか。録画した番組を見るために、視聴者が一日の中でどんな時間を削るのかといったことも考えなければいけない」と、視聴形態の変化を慎重に見極める必要性があることを強調する。

 ◆制作者ら「結局は質の問題」

 HDDレコーダー普及に伴う“CM飛ばし問題”への受け止め方は、広告主と広告代理店の間では温度差がある。一方、CM制作者らは「良質な作品を作るしかない」と訴える。

      ◇

 「“CM飛ばし”は一つの問題として認識している。だが、DVDやブロードバンド(大容量・高速通信)が普及し、テレビ視聴の環境が変化してゆく中での数ある課題のうちの一つ」と、広告代理店・電通の田中剛テレビ局計画推進部長はあくまで冷静だ。

 HDDレコーダーを含めたDVDレコーダーは、今年度末で全視聴世帯の一割に普及すると予測されている。電通では、このうち“CM飛ばし”をする視聴世帯はその一割程度とみており、大きな問題にはならないとしている。

 しかし、広告主側の見方はもっと深刻だ。日本広告主協会の小林昭専務理事は「現在でさえ番組間のCMは、テレビをつけている人の二割にしか見られていない。“CM飛ばし”が広まれば、視聴状況がさらに悪化する可能性がある」と話す。

 企業側は、CMが以前より見られなくなっているにもかかわらず、広告費が依然として高いことへの不満が根強い。インターネットのホームページに宣伝活動の主体を移す企業も出ており、“CM飛ばし”が広告におけるテレビの位置を低下させる一因になると危惧(きぐ)する声も上がっている。

 一方、全日本シーエム放送連盟(ACC)の酒井俊博専務理事は「行き着くところは質の問題」と強調する。

 日本のCMはかつて高く評価されていたが、最も優れたCMを決める「カンヌ国際広告映画祭」のグランプリは、「ハングリー?」で有名な日清食品・カップヌードルが一九九三年に受賞して以来、日本の作品は一度も獲得していない。

 三十秒や六十秒など比較的長めのCMが多い外国と比べ、日本の場合は十五秒が主流。短時間で商品を記憶してもらうため、有名タレントを起用したり、商品名を連呼したりするタイプが増え、ユニークな作品が減っている。

 元サントリー宣伝部員でもある酒井専務理事は、「昔は『あのCMはいつ流れますか』と問い合わせを受けることがあった。しかし、今は番組の途中にはさまれる“嫌なもの”になっている。今こそ良質なCM作りを真剣に考える必要がある」と訴える。