1996/02/23
◇誕生は「ガレージ工場」、利益より10年後の開花
米のパソコンメーカー、アップルコンピュータが揺れている。低価格戦争のあおりで赤字決算を出し、マイケル・スピンドラー社長は解任され、身売り話が出た。結局、自立再建の道を選んだが、余計なお世話は百も承知で、「アップル再建私案」を提出する。なにしろ、私はアップルのパソコン「マッキントッシュ」(マック)のユーザーであり、これからもずっと付き合いたいと思っているからだ。
▼案1▲合併話に耳を貸すな
アップルの新会長には、「ミスター再建」の呼び声高いギルバート・アメリオ氏が選ばれた。アップルは昨年、孤立路線を捨て他社に基本ソフトなどの技術を公開したものの、業界の巨人・マイクロソフトとインテルの連合軍(ウインテル)は、昔から業界の囲い込みに走っていた。アップルの純血主義が今日の苦境の原因だ。WEBサイト制作
アップルの買収問題を振り返ると、取りざたされたのはワークステーション大手の米サン・マイクロシステムズだが、IBMが合併に乗り出すとの情報もあった。しかし、「いいところまでいったが、金銭的な条件も折り合わなかった」(IBM幹部)ため、破談になった。サンとの合併話が持ち上がった際、社内には「いままでの『結婚話』で一番いい相手」と喜ぶ声もあった。買収額がまとまらず見送られたようだが、ユーザーも「バナナのたたき売り」は支持しない。問題は、リンゴのマークが入ったマックと死ぬまで付き合えるかどうかだ。
▼案2▲もっと夢を売れ!
アップルは一九七七年四月、事実上世界初のパソコン「アップル2」を発売し、IBMの大型機路線に殴り込みをかけた。このモデルの開発には高校生も加わっていたといわれる。夢を抱えた若者が、民家のガレージを工場代わりに、ワイワイ騒ぎながら社業を拡充していった。ユーザーは、一般家電並みに小遣いをためれば買えるようになったコンピューターに万歳し、マックで夢を買ったのだ。
果たして今の社風はどうだろう。「ウィンドウズ95は当社のOSよりできが悪い」とPRするのもいいけれど、アップルに負けじとIBMがパソコンに初参入した八一年八月、アップルはわざわざ「ウエルカム IBM シリアスリー」(本気で歓迎します)と題した新聞広告を出すほど大らかだった。利益も大事だが、半導体メモリーやハードディスクを大量に消費して、ソフトがきびきびと動くだけの昨今の新製品を見るにつけ、「もう夢を売る気はないのか」と言いたくもなる。
▼案3▲株主、経営陣は目先にとらわれるな
赤字が出ないに越したことはないが、経営陣を攻め続ける株主たちはもう少し大らかになってもらいたい。技術本意の社風が支持されて大きくなったのに、近視眼的な利益優先体質になっているとしたら、残念というほかない。アップルはIBMやNEC、富士通などのメーカーと違い、大型コンピューターを造らない生粋の「パソコン屋」だ。大型機は利益が大きいから、低価格競争でパソコン事業の利幅が下がっても、会社全体でフォローできるが、アップルはひたすら耐え忍ぶしかない。発想を転換し、赤字幅が膨らんでも、技術に投資して十年後に花開けばいいではないか。
もっとも、株主を怒らせるだけの失点もある。日本で最も売れているモデルは、利益の小さい初心者向けで、年末商戦時期は利益が高い高級モデルの二倍も売れる。商売下手といったらそれまでだが、「売れるマック」と「もうかるマック」のバランスがよくない。
▼案4▲可愛いマックに徹する
パソコン界の先進技術を満載したマックは以前、一台七十万―百万円もするというのがザラだった。よほどのマニアか出版、音楽、デザイン関係などのプロぐらいしか買えず、「パソコン界のポルシェ(ドイツ製の超高級スポーツカー)」とも、「シャッキン(借金)トッシュ」とも呼ばれた。
日本国内の値引き競争に参入できるようになったのはここ二、三年のことで、古手のユーザーはなぜか、「昔と比べて、いまのマックは可愛くないね」とぼやいている。
実はディスプレーとコンピューター本体がくっついた、割安の「一体型パソコン」は、アップルのお家芸だった。小さなボディーに白黒ディスプレーをはめ込んだ、八九年発売の「SE30」という機種は今でも現役で、美品になると中古市場で十万円ぐらい。処理速度は最近の高速マックとは比べものにならないが、とにかく「可愛い」と女性に人気がある。
▼案5▲誇りを持って技術で勝負
パソコン市場の主戦場である東京・秋葉原には、SE30を改造して、インターネットやデジタル音楽を楽しめるように変身させる業者まである。「アップルがやってくれないことをやる」というのが営業方針で、マック一筋の頑固者が多いユーザーの関心事は、黒字額でも新会長の名前でもない。
マックは不思議なパソコンで、買い換えを検討すると突然、調子が悪くなってハードディスクが動かなくなることがある。私の知人にも経験者が多いし、「オレを捨てる気か」と訴えているようで、そこがまた何とも機械らしくなくていい。先進技術をもってIBM支配の業界に挑んだ昔、ベンチャーのアップルに失うものは何もなかった。逆風真っ盛りの今こそ、世界をアッと言わせる好機だと思ってほしい。