肝細胞がんとは


肝臓は腹部の右上にある、成人で800~1,200gと体内最大の臓器です。その主な役割は、栄養分などを取り込んで体に必要な成分に換えたり、体内でつくられたり体外から摂取された有害物質の解毒・排出をすることです。

肝臓のがんは、肝臓にできた「原発性肝がん」と別の臓器から転移した「転移性肝がん」に大別されます。原発性肝がんには、肝臓の細胞ががんになる「肝細胞がん」と、胆汁を十二指腸に流す管(くだ:胆管)の細胞ががんになる「胆管細胞がん」、ほかには、小児の肝がんである肝細胞芽腫(かんさいぼうがしゅ)、成人での肝細胞・胆管細胞混合がん、未分化がん、胆管嚢胞腺(たんかんのうほうせん)がん、カルチノイド腫瘍などのごくまれながんがあります。日本では原発性肝がんのうち肝細胞がんが90%と大部分を占め、肝がんというとほとんどが肝細胞がんを指しますので、ここでは「肝がん」と記して「肝細胞がん」について説明します。


肝がんと肝炎ウイルス


肝がんは、肺がんや子宮頸がんと並び、主要な発生要因が明らかになっているがんの1つです。最も重要なのは、肝炎ウイルスの持続感染です。ウイルスの持続感染によって、肝細胞で長期にわたって炎症と再生が繰り返されるうちに、遺伝子の突然変異が積み重なり、肝がんへの進展に重要な役割を果たしていると考えられています。肝炎ウイルスにはA、B、C、D、Eなどさまざまな種類が存在しています。肝がんと関係があるのは主にB、Cの2種類です。

世界中の肝がんの約75%は、B型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染による慢性肝炎や肝硬変が背景にあります。日本では、肝細胞がんの約70%がHCVの持続感染に起因すると試算されています。このため、日本の肝がんの予防としては、肝炎ウイルスの感染予防と、持続感染者に対する肝がん発生予防が柱となります。C型、B型肝炎ウイルスに感染している人(肝炎を発症していないキャリアも含む)は、肝がんになりやすい「肝がんの高危険群(ハイリスクグループ)」といわれています。リスクの高い人は、肝がんが発症しても早期に発見して治療することができるように、定期的に検査を受けることが必要です。また、B型やC型肝炎ウイルスに感染している人は、インターフェロンなどによる抗ウイルス療法やグリチルリチンなどによって発がんの可能性を減少させることが明らかになってきています。アルコールのとり過ぎは発がんの可能性を高めますので、注意が必要です。

肝細胞がんの多くは肝炎ウイルス感染が背景にあります。通常の生活でほかの人に感染することはありませんので、気にし過ぎる必要はありませんが、いくつか知っておくとよいことがあります。

●血液が付きやすいカミソリや歯ブラシなどは共有しないようにします。
●食器やタオルを別にする必要はありません。
●B型肝炎ウイルスの感染はワクチンで予防できます。
●ウイルス肝炎には、抗ウイルス療法による治療を行うことがあります。
わからないことがあったら、担当医に相談することをお勧めします。

前述の「肝がんの高危険群」に該当しない人については、肝がんになる確率は極めて低く、肝がんを意識した定期検診は通常行っていません。職場・地域などの一般的健康診断をお受けください。

肝炎ウイルスに感染すると多くは「肝炎」という病気になります。その症状は、全身倦怠(けんたい)感、食欲不振、尿の濃染(尿の色が紅茶のように濃くなる)、さらには黄疸(おうだん)などです。しかし、自覚的には何の兆候もなく、自然に治癒することもあります。また、肝炎ウイルスが体に侵入しても、「肝炎」という病気にならず、健康な人体と共存している場合もあります。このように、体内に肝炎ウイルスを持っていても健康な人のことを肝炎の「キャリア」といいます。

肝炎ウイルスの感染経路としては次のようなものがあります。

1)妊娠・分娩による感染

妊娠・分娩を介して「肝炎ウイルスを持った母親」から子供へウイルスが感染する経路があり、これを垂直感染といいます。この垂直感染は、主にB型肝炎に多く認められ、同一家族・家系に何人もの肝炎ウイルス感染者が存在することがあり、これを肝炎の「家族集積」といいます。現在では、B型、C型の肝炎ウイルスは検出可能で、妊娠中の母親は血液検査で肝炎ウイルスの有無を必ず調べます。母親がB型ウイルスのキャリアと判明すると、垂直感染を防止するために、新生児には直ちにワクチン治療が行われ、B型肝炎の発病を防止する措置が取られています。

2)血液製剤の注射による感染

肝炎ウイルスを含んだ血液の輸血を受けると、輸血を受けた人の体に肝炎ウイルスが侵入します。輸血が必要な場合は、病気・けがなどで体の抵抗力が低下していることが多く、肝炎が高率に発症します。「輸血」にはいろいろな製剤がありますが、血液中の赤血球、血小板だけでなく、上澄み部分(血漿)などの「ある成分」だけを注射しても、肝炎ウイルスに感染する可能性があります。現在は、輸血に用いる血液は全て厳重な品質管理が行われており、特にB型、C型についてはウイルスの有無を検査して、ウイルスの存在する血液は輸血には使わないという体制が確立しています。そのため、現在では輸血による肝炎は激減しています。しかし、B型にもC型にも検査で見つけられない場合がわずかながらあることも事実で、輸血による肝炎が完全にゼロになったわけではありません。輸血は生命を救う唯一の治療である場合も多く、輸血をしなければならないこともありますが、「どうしても必要な輸血」以外は慎むべきですし、この考え方は広く医師に定着してきています。

3)性行為による感染

性行為もウイルス感染の経路となる可能性があります。しかし、B型肝炎やC型肝炎の夫婦間感染率は低く、通常の性行為では感染する危険性は低いことが報告されています。ただし、B型肝炎でHBe抗原が陽性の場合は感染力が強いので、専門医に相談することをお勧めします。

4)針刺し行為による感染

これは、医師・看護師などの医療従事者が、採血時や検査・処置・手術中などに肝炎ウイルスを持つ人の血液が付いた針を誤って自分の皮膚に刺すなどの針刺し事故や、集団予防接種での針の再利用、入れ墨・針灸治療などに使った針の使い回し、麻薬注射の回し打ちなどで起こる感染のことです。事実、入れ墨を入れた人や、麻薬常習者では肝炎ウイルス感染が高率に認められています。しかし、集団予防接種での感染の問題は、現在では使い捨て注射針を用いていますので、心配ありません。

以上、肝炎ウイルスの感染ルートについて、現在わかっているものについて解説しました。しかし、1)~4)の感染ルートのどれにも思い当たるものがないという場合も多く、「このルートだ」と断定することは必ずしも容易ではありません。1)~4)以外の未知の感染ルートがあるかもしれません。従って、肝炎ウイルスの感染は個人の意識・知識によってある程度予防できますが、防止できない部分があることも事実です。肝炎ウイルスに感染してしまったら、即、肝がんになり、生命が脅かされるわけではありませんが、「肝がんの高危険群」と考えて対処すべきです。


肝炎ウイルスに感染していることが判明するのは、a. 体に変調をきたし、医師を受診してウイルス性肝炎と診断される、b. 職場や居住地域の健康診断の血液検査で発見される、c. 献血をした際に血液が輸血に適するか否かの検査で後日連絡を受ける、d. ほかの病気で医師を受診して手術や検査を受ける必要が生じた際の血液検査で判明するなどの場合があります。また、家族の一員が肝炎ウイルスに感染していることが判明すると、医師は「家族集積」性を考慮して家族のほかのメンバーの血液検査も勧めます。

肝炎ウイルスに感染していることが判明したら、次には「キャリア」であるのか「肝炎」という病気になっているのかを調べる血液検査が必要です。ともに肝がんにかかりやすいリスクがあると心得るべきで、「肝がんの高危険群」といいます。


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