私のイチオシホラー映画といえば、やはり『残穢 -住んではいけない部屋-』です。
あの映画を観たときの、
じわじわと心の奥を侵食してくるような恐怖は今でも忘れられません。
そして、その『残穢』を監督したのが中村義洋監督です。
だから中村監督が『見える子ちゃん』が映画化されると聞いた時点で、
私の中では「これは劇場で観なければならない作品」でした。
公開されるとすぐに映画館へ足を運びました。
そして、この映画に関して語りたくてしかたなかった。
ただ、その頃は少し複雑な気持ちもありました。
それはちょうど同じ時期に、これまで一緒に『琉球トラウマナイト』などを
作ってきた平一紘監督の『木の上の軍隊』も公開されていたからです。
こちらも本当に素晴らしい映画です。(ぜひ見てください!)
だからこそ、仲間の大切なタイミングで
別の映画を大絶賛するのもどうなのだろうと考え、
そのまま感想を書かずに今日まで来てしまいました。
(それにしても寝かせすぎました)
でも。
やっぱりこの映画については語っておきたい。
1年経った今でも強くそう思います。
なぜなら『見える子ちゃん』は、
1年経った今でも定期的に見返すほど素敵な映画だから。
(見える子ちゃんは2025年6月6日公開でした)
最初に言っておきます。
この映画をホラー映画としてだけ語るのはもったいない。
もちろんホラーです。
ちゃんと怖いです。
でも、本当に心に残ったのは恐怖ではありませんでした。
これは『見えること』の物語ではなく、
『見えないふりをすること』の物語です。
そしてそれは、思春期の少女の話であると同時に、
私たち大人の物語でもありました。
主人公の四谷みこは、ある日突然、幽霊が見えるようになります。
普通のホラー映画なら、ここから幽霊と戦ったり、
呪いを解いたりする話になりそうなものです。
ところが彼女が選んだ方法は違いました。
無視する。
ひたすら無視する。
見えているけれど見えないふりをする。
それが『見える子ちゃん』の出発点です。
この設定がまず素晴らしい。
普通なら逃げるか戦うかです。
でも彼女は違う。
気づいていないふりをする。
その発想だけで物語が成立している。
原作が支持された理由もよく分かります。
そして映画版は、その設定を見事に膨らませています。
特に感心したのは、中村義洋監督が原作のクリーチャー的な怪異を、
Jホラーの文法へと変換していることです。
原作の怪異はかなり異形です。
どちらかと言えば怪物に近い。
しかし映画版の幽霊たちは違います。
ぼんやりと存在し、どこか現実に紛れ込んでいる。
視界の端に立っている。
気づいたら近くにいる。
こちらを見ている。
『リング』や『呪怨』以降、
日本のホラー映画が積み上げてきた恐怖表現を
きちんと理解した人の仕事だと感じました。
だから怖い。
決してグロテスクではありません。
大きな音で驚かせるわけでもありません。
それなのに怖い。
見たくない。
関わりたくない。
みこと同じ気持ちになる。
ここがこの映画の大事なところです。
みこがなぜ見えないふりをするのか。
観客がちゃんと理解できる。
だから感情移入できる。
ホラー映画としての土台がしっかりしているのです。
そしてもうひとつ。
この映画を特別なものにしているのは、
主演の原菜乃華さんです。
正直、この映画は彼女でもっていると言ってもいいかもしれません。

目の演技が本当に素晴らしい。
怖い。
困る。
焦る。
ごまかす。
安心する。
そのすべてを目だけで表現してしまう。
幽霊が目の前にいるのに平静を装う。
あの絶妙な表情は彼女でなければ成立しなかったと思います。
しかも、この映画はホラーでありながら青春映画でもあります。
友達との何気ない会話。
文化祭。
学校帰りの時間。
女子高生たちの日常。
キラキラしている。
可愛らしい。
それでいて決して軽薄ではない。
だからホラーシーンとの落差が効いてくる。
怖い。
笑う。
怖い。
笑う。
そして最後には泣かされる。
この感情の運び方が実に心地良いのです。
中村監督は昔から人間を描くのが上手い監督ですが、
本作でもそれは変わりません。
むしろホラーの皮を被った青春映画として観たとき、
その巧さが際立ちます。
そして映画は終盤、大きく姿を変えます。
ここから先は詳しくは書きません。
未見の方のためにも伏せておきます。
ただ一つ言えるのは、
この映画が本当に描きたかったものは幽霊ではないということです。
それは「無視すること」。
見えているのに見ないふりをすること。
人は生きていると、いろいろなものを見ないふりします。
面倒なこと。
向き合いたくないこと。
傷つくかもしれない現実。
そして時には、大切な人の気持ちさえも。
みこが幽霊に対して行っていたことは、
実は私たちも日常でやっていることなのです。
だから終盤になって、
この物語は単なるホラーではなくなります。
家族の話になる。
友情の話になる。
そして後悔の話になる。
ここで私は完全にやられました。
怖い映画を観ていたはずなのに、
気がつけば胸が締め付けられている。
最後は涙をこらえていました。
ああ、この映画はそういう映画だったのか。
そう思いました。
タイトルは『見える子ちゃん』です。
でも本当は違う。
この映画が描いているのは、「見える少女」ではありません。
「見えないふりをしてきた少女」の物語です。
そしてそれは、私たち自身の姿でもあります。
だからこの映画は観終わったあとに残る。
幽霊の顔よりも。
怖かったシーンよりも。
みこが抱えていた孤独や後悔の方が心に残る。
それがこの作品の凄さです。
ホラー好きの人にはもちろんおすすめです。
中村義洋監督らしいJホラーの空気はしっかり味わえます。
でも、それ以上におすすめしたいのは普段ホラーを観ない人です。
怖いのが苦手な人でも大丈夫。
むしろそういう人にこそ観てほしい。
なぜならこの映画は、ホラー映画の形を借りて、
人と人とのつながりを描いた優しい映画だからです。
主役の女の子たちが可愛くキラキラした青春映画でいて、
怖いところはちゃんと怖いホラー映画だと思って観ていたら、
最後は家族と友情に泣かされた。
感情を自然に、そして心地よく振り回される。
そんな映画でした。
『見える子ちゃん』。
私は近年観た映画の中でも、間違いなく心に残った一本です。
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ぜひ見てみてくださいね!!
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