私は広告業界に身を置いて35年、
テレビコマーシャルの企画制作を生業としてきました。
かつて外資系広告会社に勤めていた頃、
外国人の同僚たちとCMのアイデアを練っていると、
ある違和感を強く感じる瞬間がありました。
それは、日本のCMとアメリカのCMの「伝え方の違い」です。
例えば、日本では贈り物を渡す際に「つまらないものですが…」と言う文化があります。
しかし、これは決して本当につまらないものを渡すわけではなく、
「あなたのような立派な方にはふさわしくないかもしれませんが」という
謙遜の気持ちが込められています。
日本人にとって、へりくだりながら贈る姿勢こそが美徳であり、
相手への敬意を表すものなのです。
一方、アメリカでは「あなたのために素晴らしいプレゼントを選んできたよ!」と
堂々と渡す文化が根付いています。
彼らにとっては、自信を持って価値を伝えることが当たり前。
だからこそ、日本的な「へりくだり」は彼らには理解しにくいことがありました。
日本の広告表現は、商品そのものを直接的に褒め称えるのではなく、
「その商品がもたらす心地よさ」や「幸せな雰囲気」を間接的に伝えることが好まれます。
しかし、これを見たアメリカ人上司からは、よくこう言われたものです。
「なぜ日本の広告は、良いものを良いと言わないんだ?」
こうした文化的背景の違いが、日本と海外の広告にどのように影響を与えているのか。
それを象徴する出来事が、昨年から今年にかけて
日本マクドナルドのアニメCMが海外で話題となっているというニュースです。
日本発信のなにげないアニメCMがなぜ海外でニュースになるほど注目されることになったのか、
そして日本と海外の広告の違いについて掘り下げていきます。
◆日本マクドナルド広告の内容と特徴
2023年9月、日本マクドナルドが公式SNSで公開したアニメーションCMが
海外で大きな話題となりました。
この広告は、可愛らしい絵柄と日常の温かさをテーマにした映像で
多くの人々の心をつかんだのです。
https://x.com/McDonaldsJapan/status/1704420133140132045
この動画は2024年12月現在で、
1.5億回の表示、まもなく8000件に届くであろうコメント、13万のリポストという、
もの凄いバズリ方をしたのですが、
そのほとんどが海外からの反応だったのです。
そしてその後、日本マクドナルドのアニメーションCMはシリーズ化され、
より多くの海外ファンを熱狂させていきました。
このCMの内容は至ってシンプル。
例えば、家族3人がマクドナルドのテイクアウトを囲んで笑顔で食事をする風景や、
中高生くらいのカップルが照れながら一緒に食事を楽しむシーンなど、
誰もが共感できる「普通の幸せ」が描かれています。
この「普通」という要素こそが、今の時代において新鮮に映り、
人々の心を動かした最大の理由かもしれません。
特筆すべきは、その自然なストーリー展開です。
派手な演出や過剰なメッセージ性は一切なく、
「特別じゃない幸せ」 を静かに、しかし確かに届けています。
たとえば、少女がフライドポテトを手にして喜ぶ笑顔や、
男の子がストローで慌てて飲み物をすすってしまう照れ隠しなど、
どれもリアルな感情が描かれ、視聴者は思わず「自分にもこんな時間があったな」と
懐かしさや温かさを感じるのです。
また、日本らしいアニメ文化の活用も、
海外での反響につながった要因でしょう。
柔らかく繊細なタッチで描かれるキャラクターたちや、
BGMに流れる穏やかで郷愁的なメロディが、
日常の何気ない幸せをより際立たせています。
このCMは、単にマクドナルドの商品を紹介するのではなく、
「家族や友人との時間を大切にすること」というメッセージを、
自然な形で届けたのです。
視聴者に強い共感を呼び起こし、
結果としてSNS上で大きな反響を生んだ理由がここにあります。
◆海外のCMの現状
一方、アメリカを中心とする海外のCM事情は、
広告の目的や内容が日本とは大きく異なります。
特に近年、アメリカの広告には「多様性」や「社会問題」への配慮、
いわゆる「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」が強く反映されているのが特徴です。
例えば、アメリカのマクドナルドが2020年に公開した広告は、
黒人のトランスジェンダー女性が登場し、
非常にシンプルなメッセージを発信するものでした。
そのメッセージとは「私たちを殺さないでください」というもの。
広告の内容は、マクドナルドの製品やサービスとは直接関係なく、
社会的な訴えに終始しています。
こういった広告は、背景にある深刻な社会問題への理解や配慮を示す意図がありますが、
視聴者には少なからず重たい印象を与えてしまうことも否めません。
現代アメリカのCMは、
こうした「社会的メッセージ性」を前面に出す傾向が強くなっています。
LGBTQや人種的マイノリティ、ジェンダー平等といったテーマを広告に取り入れることで、
社会的な意識の高まりに寄り添う形を取っています。
しかしその一方で、製品そのものの魅力や、
視聴者が純粋に「共感できる物語」を届けることが難しくなっているのも事実です。
たとえば、伝統的な家族像や「普通の幸せ」を描こうとすれば、
すぐに「多様性に欠ける」「固定観念を押し付けている」と批判を受けるリスクがあります。
これが、 自然体の広告が作られにくい背景になっているのです。
結果として、アメリカの広告は「社会問題の啓発」に傾倒しすぎてしまい、
製品の魅力や「見ていてほっとする映像」とはほど遠い内容になりがちです。
もちろん、多様性や社会的配慮は重要なテーマです。
しかし、アメリカの広告業界では、
それが「広告の本質」を置き去りにしてしまっている、
そんなジレンマがあるのかもしれません。
こうした現状に対して、日本マクドナルドのCMが描いた「自然で幸せな日常」は、
逆に海外ユーザーにとって新鮮で理想的なものとして映ったのです。
◆日本と海外のCMの違い
日本とアメリカのCMには、いくつかの大きな違いがあります。
表現手法やテーマ、
そして広告に込められたメッセージの方向性が大きく異なっているのです。
日本のマクドナルドのCMは、
視聴者が自然と共感できる「日常の幸せ」を描いています。
家族がテーブルを囲んで笑い合うシーンや、
学生時代の微笑ましい青春風景は、
誰もが一度は経験したことのある瞬間であり、
視聴者の心に直接届く温かな物語です。
ここでは「共感」や「癒し」が重視され、
特別な主張や社会的メッセージは存在しません。
一方で、海外のCM(特にアメリカ)は、社会的メッセージや多様性への配慮を前面に押し出しています。
広告はしばしば社会問題への啓発活動や訴えの手段となり、
「商品紹介」ではなく「企業としての価値観や姿勢」を示す内容が増えています。
例えば、アメリカのCMではLGBTQのカップルやマイノリティの出演が求められたり、
特定の人種やジェンダーに配慮する必要があり、その結果、
「自然体の家族像」 が表現しづらくなる傾向にあるのです。
日本の広告はアメリカのCMよりも自由度が高いと言えるかもしれません。
アメリカほど多様性や社会的配慮が強要されることはなく、
ストーリーや映像の中で シンプルに感情に訴えることが可能です。
一方、アメリカでは「多様性への配慮」が強く求められるため、
広告制作には一定の制約が伴います。
特定の人種や家族構成を描くだけでも、
「排他的だ」「価値観を押し付けている」といった批判を受けかねません。
そのため、広告は慎重に作られ、
結果としてメッセージが不自然に感じられることもあるのです。
最近の海外のCMは 「社会的メッセージ」「多様性の配慮」を重んじるあまり、
本来の広告の役割である「商品を魅力的に伝える」ことが二の次になりがちです。
この対比が、日本マクドナルドのCMが海外で新鮮かつ魅力的に映り、
「理想の広告」として受け入れられる理由なのかもしれません。
◆海外ユーザーの反応
日本マクドナルドのアニメCMが海外で話題になった背景には、
広告そのものの魅力だけでなく、
海外ユーザーが置かれている社会的な状況や感情が大きく関係しています。
SNS上に寄せられた声を見てみると、
その反応は好意的なものと批判的なものに分かれています。
好意的な反応
日本のCMを見た多くの海外ユーザーは、
その自然体の温かさに感動し、
羨望の気持ちを抱いているようです。
「日本のCMは見ていて心が温まる。こういう広告がアメリカにも必要だ。」
「こんな家族の団らんや青春の時間が羨ましい。日本の広告は私たちの心に響く。」
家族が笑顔で食卓を囲むシーンや、学生カップルの微笑ましいやりとりは、
まさに「日常の幸せ」を描いています。
こうした映像は社会的メッセージに疲弊した人々にとって、心の癒しとなり、
現実から少し離れた「理想の世界」のように映ったのでしょう。
また、
「25年前、こんな青春を送りたかった」
「日本に移住したい理由がまた一つ増えた」
といった声も多く、
CMが単なる広告を超えて
視聴者の過去の思い出や理想像を呼び起こしていることがわかります。
批判的な反応
一方で、一部のユーザーからは
「多様性への配慮が足りない」という批判の声も上がりました。
「なぜLGBTQカップルや多様な人種が描かれていないのか?」
「黒人やトランスジェンダーの登場人物がいない広告なんてありえない。」
現代のアメリカやヨーロッパでは、
多様性への意識が強いため、
広告の中でも様々な背景を持つ人々が登場することが求められます。
そのため、「父・母・子」という伝統的な家族像が描かれただけで
「偏見的」「時代遅れ」といった指摘を受けることがあるのです。
また、「リア充爆発しろ!」といった皮肉交じりのコメントや、
「こんなカップルが目の前にいたら怒りを感じる」といったネタのような反応も見られ、
CMの「幸せすぎる世界観」に対する照れ隠しや皮肉が含まれていることもわかります。
◆ポリコレ疲れと「普通の幸せ」への渇望
こうした反応の裏には、
多くの海外ユーザーが「ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)」に対する疲れを感じていることが見え隠れします。
特に、日常的に社会的メッセージや多様性を押し付けられていると感じる人々にとって、
日本の「特別じゃない幸せ」を描くCMは純粋な癒しであり、
ポリコレ社会への対比として捉えられたのかもしれません。
「普通の家族が描かれていることが、今では逆に珍しい」
「こんな自然なCMが作れないなんて、アメリカはもう終わっている。」
これらのコメントは、海外のユーザーが「普通の幸せ」を求めている証拠でもあります。
日本マクドナルドのCMは、
そうした心の隙間にそっと寄り添い、
多くの人々の共感を呼び起こしたのです。
このように、日本のCMは「日常の温かさ」という
シンプルなテーマが海外ユーザーの心をつかみ、
理想と現実のギャップを浮き彫りにしました。
それこそが、この広告がこれほど話題になった理由と言えるでしょう。
日本マクドナルドのアニメCMが海外で大きな反響を呼んだ理由は、
単に「可愛いアニメ」や「美しい映像」という点だけではありません。
それは、「共感」「癒し」「自然な日常」を描いたシンプルな広告が、
海外ユーザーにとって新鮮な理想像として映ったからです。
広告の本質である「商品を魅力的に伝えること」や
「視聴者の心を温めること」が置き去りにされてしまうことも少なくないポリコレ重視の社会において、
日本マクドナルドのCMに描かれた「特別じゃない幸せ」、
家族で食卓を囲む姿や学生時代の微笑ましい青春風景は、
海外ユーザーにとって「憧れの光景」として受け止められました。
日本では当たり前のように感じられる「普通の日常」が、
海外では「理想」として映るという現象が生まれたのです。
社会的なメッセージや理想を押し付けない、
日本のCMのような「自然体の幸せ」は、
人々の心を素直に温める力を持っています。
これは、ポリコレ社会における「表現の制限」に対する
カウンター的存在として捉えられたとも言えるでしょう。
◆時代に合った「自然な表現」を探して
日本マクドナルドのアニメCMが海外でこれほど大きな反響を呼んだ背景には、
「共感」や「癒し」を重視する日本の広告文化と、
社会的メッセージに偏重する海外の広告との間にある
価値観のギャップが見え隠れしています。
そして、それを受け取る視聴者もまた、
「普通の幸せ」「自然な日常」に飢えているのかもしれません。
2024年の流行語大賞に選ばれた「ふてほど」。
「ふてほど」とはテレビドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)を略した言葉ですが、
このドラマで描かれた「粗雑だけれど自由な昭和」と
「コンプライアンスに縛られた窮屈な令和」という対比は、
多くの人の共感を呼びました。
昭和人間の主人公が現代にタイムスリップし、
価値観の衝突を通して私たちに問うのは、
「何が正解なのか?」 というモヤモヤした問いです。
私たちは今、自由と制約の間で、
どうバランスを取ればよいのかを模索しています。
それは広告の世界でも同じこと。
日本のCMは「特別じゃない幸せ」を、自由に、そして自然に描きました。
その一方で、海外の広告は「正しさ」や「多様性」を重視しています。
ただそれを意識するあまり、制約が増えて窮屈になりがちであるのも事実のようです。
ただし、「昔はよかった」と懐かしむだけでは、未来には進めません。
日本マクドナルドのCMのおこなった
「ありふれた幸せの尊さ」をシンプルに伝えることは、
時代や文化を超えて、多くの人の心に響く
「普遍的な価値」として届いたのだと思いますが、
だからといって「正しさ」や「多様性」を否定することも私たちにはできません。
昭和の自由さと令和の配慮、
どちらも大切にしながら、
時代に合った「自然な表現」を見つけていくことが、
私たち広告制作者にも、視聴者にも求められているのではないでしょうか。
皆さんはどう感じましたか?
令和の時代における広告や日常の表現に、
どんな「幸せ」を描いていきますか?
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