皆さん、こんにちは。たいらーです。

 

映画館が休業しているということでランキングや前回の「セントラル・インテリジェンス」感想を書いたりしましたが、着実にテレビにもその影響が回ってきてますね……。

日曜朝の子供向け番組枠(通称「ニチアサ」)が制作中止、新規放送分のストック切れを起こしたようで、プリキュア、仮面ライダー、戦隊と全ての枠が過去の映像を扱った特別枠を放送することになりました。

今は全ての業界が苦しい時期だと思いますが、エンタメ界隈は映画の撮影も止まったり大変なことになっていますね(そもそも「ソーシャル・ディスタンス」が定着した現状、再開しても従来通り撮影ができるのかと思いますが)。

実家にいると両親が常にワイドショーにチャンネルを合わせているのが地味に辛かったりもするので、早いとこ収束して欲しいです。

 

さて、今回話題にしたいのは、今週で一旦区切りのついた仮面ライダーシリーズ最新作、「仮面ライダーゼロワン」についてです。

初期のエピソードについては個別に感想を書いていましたが、途中から個人的に忙しくなったこともあり止めていました。

……ですが、年始に入ってからあまりにも杜撰な展開が続いており、ここ最近はそれが看過できないレベルでメチャクチャになってきているので、ちょっとこの機会にそれらを整理しておこうと考えました。

 

(ここで自戒を込めて断っておきますが、この記事は何かを貶すことが目的ではありません。あくまで個人的に「ゼロワン」の展開にノレないポイント、問題だと思うポイントをまとめていくのが目的です。

お仕事五番勝負編が好きだという方はここで止めておいてください)

 

今年に入ってからの「ゼロワン」は1月~3月までの「お仕事五番勝負編」、4月から現在までの「飛電製作所編」(東映公式サイト曰く「第3章」)の2つに分けられます。

今回は「お仕事五番勝負編」(17話~29話)に話を絞ってそのポイントを書いていきたいと思います。

 

ポイント①「お仕事勝負」をやる動機が薄い

 1クール(13話)の大半を費やして展開された飛電インテリジェンスとZAIAエンタープライズジャパンによる、「お仕事五番勝負」。

勝負のお題に対し、優秀な学習機能を持つヒューマギアとその道の一線級のプロが対戦を行うという内容で、一つの勝負につき平成ライダー以降のフォーマットとしてよく用いられる2話完結方式がとられました。

 

この「人間とヒューマギアが勝負をする」という展開自体に変なところはありません。

2019年内の展開が概ねヒューマギアを通した「お仕事紹介」だったことも含め、勝負という更に踏み込んだ形で対比させることそのものは決して突飛な発想でもないと思います(実際それができている話もあります)。

 

なのですが……、劇中でわざわざこれをやる必要性があまり伝わってこないという状況設定の問題があります。

この勝負が話の上で浮上した背景を解説すると、まず年末の16話の最後にZAIAの社長・天津垓が、飛電インテリジェンスを買収すると宣言します。

そして天津垓は17話冒頭で飛電インテリジェンスの社長にして本作の主人公・飛電或人を呼びつけ、自社製品である人間用インターフェース「ZAIAスペック」を更に売り上げるためとして、ヒューマギアとどちらが優れているかを競い合う「お仕事五番勝負」を提案してきます。

この時提示された条件は、

 

飛電が勝った場合「買収を取り下げ、ZAIAが所有する飛電の株を或人に譲渡する」

ZAIAが勝った場合「買収を続ける」

 

というもの。

或人はあっさり承諾しますが、こうなった経緯を考えるとまず受けること自体がおかしいのです。

そもそも飛電インテリジェンスが買収される流れになったのは、1クール目で起きた出来事で「社会的信用を失ったから(会社として株を落としているから)」。

その原因を作ったのはヒューマギアを暴走させる「滅亡迅雷.net」であり、或人は会社と人類を守るために戦い彼らを倒すのですが、結局ヒューマギアの暴走事件は後を絶たず飛電インテリジェンスは社会的信用を失うことになります。

この時点で片付けるべき最重要課題として「ヒューマギア暴走」が再浮上する筈が、そこは無視したまま話が進んでいます。

「買収を食い止める」というのは会社モノ(そんなジャンルがあるのはともかく)として大きなテーマだと思うのですが、これではそうなった「原因」には特に触れず「結果」だけ取りに行くという形になっていて、非常に不自然な話運びになっているわけです。

この結果「勝負をやる」という動機付けが薄ければ、問い直されもしないまま1クール(3ヶ月)の間漠然とお仕事勝負が続いているというのは、なかなか度し難いポイントでした。

 

ポイント②勝負の内容・進行が滅茶苦茶

勝負をする前提にまず無理があるこの「お仕事五番勝負編」ですが、肝心の内容に関してもツッコミどころは多いです。

勝負のテーマと対戦カードは以下の通り

 

1.生け花対決(華道の家元VSお花屋さんヒューマギア)

2.住宅販売対決(大手不動産会社勤務の営業マンVS販売員ヒューマギア)

3.裁判対決(検事VS弁護士ヒューマギア)

4.人命救助対決(ベテラン消防士VS消防士ヒューマギア)

5.選挙対決(政治家VSラッパーヒューマギア)

 

この座組みについて言いたいことも色々とありますが、僕は生け花対決は話の展開も落としどころも良いと思うのであまり触れません

指摘したいのは2.の住宅販売対決以降です。

 

2.「売ろうとする物件が破壊される」という斜め上の営業妨害から始まり、勝敗の基準が「売上」なのか「件数」なのか前半のエピソードでは分かり辛すぎる「家を巡るドラマ」では人間側が負けているのに「勝負」としては人間が勝っているという図式が余計分かりにくいと、理解に苦しむ描写が多々ありました。

3.「そもそも勝負にするものじゃない」と劇中で指摘されており、この勝負はヒューマギア側が勝つのですが逆転の仕方が「逮捕した刑事が真犯人なので裁判をやり直す」という形で行われると、何を見せられてるのかよく分かりません。

4.最初は「火災訓練」でその後思わぬ乱入行為で「本物の火災」になるという変則パターン。当然勝負などやっている場合ではないのですが勝敗基準を変えてまで続行されます。

5.賄賂を行った政治家が特に追及されない。ラッパーヒューマギアが暴走して破壊された後復旧されず終わる(これまで破壊されたヒューマギアは復旧して勝負に復帰していた)。

 

……こう書くだけで分かると思いますが、このお仕事対決、根本的に勝負として破綻している点が多すぎます

「なんで?と思うような理不尽な展開が続いた末、よく分からない方向に着地する」という話がひたすら続き、肝心の「仕事」もちゃんと描けていないと全てが上手くいっていません。

こうなっている原因は、主に次とその次のポイントにも原因があります。

 

ポイント③「人間の悪意」問題

この「お仕事五番勝負」を通して提示されているものとして、「人間の悪意」というものがあります。

①で挙げた滅亡迅雷.netが消えてもヒューマギアが暴走するという問題において、18話でそのメカニズムが説明されます。

「ヒューマギアのAIは人間と接することでシンギュラリティに達し、自我に目覚める」という前提で「ゼロワン」の物語は進行しますが、そこには「負のシンギュラリティ」が存在すると言います。

ヒューマギアが人間の悪意に触れることでこれを起こすと、悪意をラーニングし人類滅亡の結論を導いた人工衛星アークと無線接続し、「アークマギア」として暴走する、というもの。

 

人間がヒューマギアに敵意などを抱き、それをぶつけることがヒューマギアの暴走を招くのだということですが、本質的には普遍的なものである筈の「人間の悪意」の出方が、「家を壊す」、「データを捏造して冤罪を起こす」、「賄賂」などの犯罪行為、「客観的な悪事」として描かれるので問題としてひどく矮小化されています

一番悪意の出方として小さい生け花対決回の、「負けそうという劣等感から相手の作品を台無しにする」というもので、これがちゃんと糾弾されて再戦という運びになっている一方で、他の犯罪行為は全部スルーされたまま勝負が続行されるというのもまあなんともエキセントリックな展開です。

 

結局「人間の悪意」をどうすべきなのかという方向にも話が進まず現状では言いっ放しの感すらありますし、この辺はいくらなんでも不誠実としか言いようがありません。

 

ポイント④天津垓

そしてこの「お仕事五番勝負編」を語る上で外せない、最も難解な男こそが、天津垓/仮面ライダーサウザー

1クール目ではスポット的に登場し、「意味深な台詞を吐くキャラ」として存在していたこのキャラ。

16話で滅亡迅雷が壊滅した後、実は自分こそがアークに「人間の悪意」をラーニングさせ、全ての事件を引き起こしたのだと唐突に語り、表舞台に上がってきます。

 

その時点では何がしたいのかよく分からなかったこの男、「お仕事五番勝負編」全体を見渡しても結局何がしたいのかよく分かっていません

 

一応彼について語られていることは

「飛電インテリジェンスの先代社長、飛電是之助を尊敬していた」

「AIは人間を進化させるためのもので、共存するものではないと考えているアンチヒューマギアである」

「アークに人間の悪意をラーニングさせた」

「ライダーシステムを応用して兵器ビジネスがしたい」

 

大まかに書き出すとこんな感じですが、まずこれら全てに「なぜそうなったのか」といった掘り下げが殆どと言っていいほど無い(因みにこれは「ゼロワン」のキャラクターの多くに言える)ため、「最終的に何がしたいのか」というビジョンが全く見えてこないのは大きな問題です。

特にアークに何があったかとかの話は、冬の映画からしてゼロワン世界の歴史とも大きく関わる話だと分かっているのになぜか放置されている始末。

 

そして大きな問題としてもう1つ、五番勝負の運営を彼が一手に引き受けているという点があります。

それで公正な運営ができていれば問題ないのですが、お出しされるのは既に書いたような滅茶苦茶な試合進行とジャッジ、彼の胸三寸で全てが決定されていくという横暴すぎる運営状況。

しかも「ヒューマギアを或人達の目の前で暴走させる」といった明確な犯罪行為に出ているにもかかわらず、何の法的措置やイメージダウンも受けないまま彼のワンサイドゲームで話が進んでいく上、誰もそのことに言及しないというおかしさ(よりによって犯罪行為に出たのが裁判の話という)。

そこまでやったら普通に逮捕だろ!というラインを越えても問題ない辺り、人工知能特別法以外の法律も現実と違うようです

 

こういった問題点がある中で、彼は色々と主張をするわけです。

「自我に目覚めたAIは理性を持たないから危険だよ」とか、そんな感じのことを。

 

火に油を注ぐことしかしてないキャラに言わせて説得力が生まれると思いますか?

僕は全く思いません。

 

ポイント⑤対立構造の欠陥

既に色々と問題があると指摘していっていますが、このポイント⑤が結構その全体に跨るかなり重要な問題な気がしています。

 

まず基本的な問いとして、「仮面ライダーゼロワン」、ひいては「仮面ライダー」というのはどういうジャンルの番組でしょうか。

言うまでもなく「ヒーローもの」ですよね。

「ヒーローもの」というのは、基本的には「戦い」を描くものなので、「善と悪」に代表されるようにどういう形式であれまず「対立構造」があって成立する「バトルもの」の要素を内包しているジャンルです。

イデオロギー的な闘争から、命を脅かす者VS守りたい者といった非常に単純化された戦いまで、「何と戦ってるのか」さえ分かれば、ある程度「ヒーローもの」の構図は成立するわけです。

 

……なのですが、「お仕事五番勝負編」は「何と、何を巡って戦ってるのか」がイマイチよく分からない、あるいはヒーロー側が全く役に立たないという状況が発生しています。

これはとどのつまり、それだけでヒーローものとして機能しうる「ヒューマギア暴走問題」を放置したまま、ヒーローものとしては機能し辛い「お仕事五番勝負」という別の対立を描いてしまった結果、話が不必要なレベルで複雑になってしまっているせいだと思います。

 

そしてこの「何を争ってるか分からない」問題が、キャラクターの掘り下げにまで伝播しています

本来「お仕事五番勝負」は、AIを巡る思想的な対立を描くものとして機能しうるものなのですが、そもそもAIが暴走する直接的な原因を作っているのがその勝負の相手にして運営(天津垓)なので、「お前のせいじゃん!」で話が前に進まないという③と同じ矮小化がここで発生してしまいます。

 

結果どうなったかというと、「お互いAIをめぐる極端な主張を一方的にぶつけ合い、特に議論が深まる様子も無く無駄に話数を費やしてしまう」という……、本当に誰が得をするんだろうという現象がこの「お仕事五番勝負編」で起きてしまっています。

 

ポイント⑥世界観問題

最後にして一番引っかかってるポイントです。

ヒューマギアが人間と共に仕事をし、病院などの施設では人手不足を補っていることが1クール目から散々描かれている「ゼロワン」。

しかしながら「五番勝負編」で、時々「え、今更?」と首を傾げたくなる問題提起が行われ始めました

 

「将来ヒューマギアが人間の仕事を奪ってしまうのではないか?」

 

……人型ロボットが普及してる世界だったらむしろそこは解決してるんじゃないのか、監修として結構権威のあるところがついてるんじゃないのか、改めてこの世界どうなってるんだ?と、世界観そのものに疑問を抱かせてきます。

これまでのライダーシリーズにそういう世界観的な粗が無かったとは言いませんが、いくらなんでもこれは致命的だと思いました。

しかもこれも例に漏れず、何か解決案を出すわけでもなく言いっ放しで終わるという……。

 

 

……はい、以上が個人的に気になった、ゼロワン「お仕事五番勝負編」のポイント6つでした。

勢いで書いているので分かりにくい部分も多々あると思いますが、整理してみて改めて思ったのは「言いっ放しが多すぎて1つの話としても完結していない」ということですね……。

3ヶ月追いかけて、「結局何がしたかったんだろうな」、というモヤっとした気持ちだけが残る話でした。

プロデューサーの名前がよく取り沙汰されますが、僕は同じ脚本・プロデューサーの「エグゼイド」は大好きです。逆にこれぐらい全体の構造がシンプルだったらな……と「エグゼイド」を見て懐かしんでいるくらいです。

 

まあもっと「何がしたいの?」となっているのが今の「飛電製作所編」なんですが。

 

それでは後編でまたお会いしましょう。

ここまでのお相手は、たいらーでした。