口腔心身症とは実際に病気がないにもかかわらず、口腔内の症状を訴える状態の事です。舌が痛い、口が渇く、顔面や顎が痛いといった症状が出てきます。症状が激しいにもかかわらず病態は深刻でありません。
私が週1回診療していた頃、長く通っていた舌痛症の女性が居ました。毎回毎回いかに舌が痛いか、という訴えがありました。特に朝が酷く、1日何も手につかないとのことでした。根底には舌癌の不安があったようです
もちろん病変はありません。ですから1時間近く話しを聞いて漢方薬を処方していました。自費診療でしたから、ある程度患者さんの希望を聞いての対応もできました。
あるとき、「漢方は効かないから薬を変えて欲しい」と言われました。誰かに言われたようです。そこで私は舌痛症で第一選択となる抗不安薬を処方したのです。それほど副作用がある薬剤ではないのですが、長期投与には抵抗もありました。他科でも多くの薬剤を処方されていたので薬を増やす事も避けたかったのです。
途中で抗不安薬をアズレンという錠剤に変更したのです。これは本来、心因性疾患に処方する事はありません。錠剤ですが、水に溶いてうがいするための薬剤です。内服薬として用いる場合もあります。
「この薬を水に溶いて、舌の痛い部分に塗り続けると楽になるよ」と説明しました。全く嘘ではありません。口内炎の患者さんに出す事もありますから。しかし舌痛症に対して、抗不安薬と比較すると効果の程は疑問でした。
プラセボ(偽薬)効果に期待したのです。正確には偽薬ではないのですが。私は絶対効果があると確信していたのです。
(小さい頃、車酔いをする私には車に乗るときに酔い止めが手放されませんでした。あるとき、親に「酔い止め」といわれて渡されて錠剤を飲みました。そして酔わずに目的地に着きました。それはラムネだったのです。)
結果として成功しました。良い薬をもらった・・と満足され、毎回14日分の薬剤を喜んで持って帰られました。しばらくして診療にも来られなくなりました。印象に残っている患者さんのひとりです。