[顎関節症の原因]

なぜ音がしたり、カクンとしたりするのでしょうか。
前述したように関節は、回転だけではなく滑走運動をします。
そのときに、関節円板と呼ばれているクッションが関節(下顎頭)
と一緒に移動します。
それで、関節はスムーズに動くことができます。
また、このクッション(関節円板)が過大な咬む力から関節を
守ってくれます。
ところが、後述するいろんな原因の為に強い力が長時間かかる
と、関節円板が変形をして動きを悪くしてしまうのです。
ひどい状態になると、関節からクッション(関節円板)が
はずれてしまい、ほとんど口が動かなくなってしまったり、
クッション関節円板からはずれたり乗ったりするときに、音が
したり、痛みが出たりします。

ところが、そのようなひどい状態が続くと、関節やクッション
や筋肉をつないでいる部分がゆるんできて、だんだん痛みが
取れて顎が動くようになります。
一見治ったように思われるのですが、関節の周りの異常は
ますますひどくなり、治すのはさらに困難になります。
ですから、関節に症状が出たら、なるべく早く治療することが
大事になります。

それでは、なぜ関節円板が変形するほどの過大な力がかかる
のでしょうか。
交通事故やスポーツ等で顔や顎に強い力が加わると当然関節に
その力は伝わります。
最近コンタクトスポーツでは、歯や顎関節を守る為にマウス
ピースの着用を義務づけることが増えています。
しかし、これらは一部の人に起こる話です。
他にどのような原因があるでしょうか。



[噛み合わせ]

先ほど顎の動きを車に例えました。
歯の噛み合わせ、特に前歯の噛み合わせが狂っていれば、当然
顎の動きは異常なものになります。
すなわち、顎を動かす筋肉つまり咬む筋肉が狂う訳ですから、
関節に異常な力が加わってしまいます。
しかし、噛み合わせや歯並びが悪い人は大勢いますが、全ての
人が顎関節症になる訳ではありません。



[ストレスと噛み合わせ]

ストレスがあると歯ぎしり(ブラキシズム)、くいしばり
(クレンチング)をすると言われています。
歯ぎしりの音を聞いたことがありますか。
あれだけの「きりきり」した音を歯をこすって出すわけですから、
このときに前述した100キロ前後の力が歯に加わっているのです。
きりきり音のする歯ぎしりをしない人でも、クレンチングは
歯をもっている人ならだれでもしています。

このことは「睡眠」と大きく関係しています。
睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠があります。
レム睡眠は眼球運動をしている状態で、浅い眠りのことです。
我々は、一晩眠っている間に、深い眠りのノンレム睡眠と浅い
眠りのレム睡眠を交互に繰り返しています。
レム睡眠のときに、夢を見て、ブラキシズムやクレンチングを
行います。
例えば、8時間たっぷり寝たはずなのに起きたときに「目覚め
が悪い」「首の周りがこっている」「昼間に眠くなる」という
経験は誰もがあると思います。
これは、ノンレム睡眠が少なくレム睡眠が多いので、脳の疲れ
がとれていないだけでなく、クレンチングをしているので筋肉
を使いすぎてしまうからです。
それでは、ストレスがあるとなぜ人間は”咬む”ということを
するのでしょうか。



[人が生まれるときのストレス]
人は、生まれる前は母親の子宮の中で育ちます。
羊水に満たされた子宮の中で、赤ちゃんは臍の緒を通じて母親
から栄養をもらいます。
そして、母親の心臓の音聞いて育つ訳です。
さて出産です。
母親の産道を通り、赤ちゃんは外の世界にでます。
そのときに初めて空気が肺に入り呼吸を始めるのです。
”おぎゃー”と赤ちゃんが泣くことで、周りの人間は元気な
赤ちゃんであることを確認します。
このときの赤ちゃんの状況はどうでしょうか。
始めて肺に空気が入る、たぶんかなりの痛みを伴うでしょう。
普段聞いていた母親の心臓の音が聞こえない。寒い。
野生の動物と違い目もほとんど見えず、身体を動かすこと
すらもできない。
人生最大のストレスといえるのではないでしょうか。
そこで、母親は赤ちゃんを抱いて母乳を与えます。
赤ちゃんは、いつも聞いていた母親の心臓の音を聞きながら、
あたたかい母乳を飲み安心して眠ります。
ところで赤ちゃんはどうやって母親の母乳を飲んでいるので
しょうか。
「おっぱいを吸う」といいますが、赤ちゃんはストローを使う
ように吸っている訳ではありません。
歯ぐきでおっぱいの乳輪の部分を咬んで飲んでいるのです。
まさに顎を動かして咬んでいるのです。
つまり、人生最大のストレスを経験した後に、それを補う
程の「快感」が咬むことなのです。
我々は、出産時のことを忘れてしまいます。
でもその経験は、
大脳の深いところに記憶として残されるのです。
赤ちゃんから成長し、はいはいしたり歩くようになると、
いろんな物を口に入れようとします。
離乳がすすむと指しゃぶりをしたり毛布を咬んだりします。
学校に上がると鉛筆をかんだり、大人になっても爪を噛んだり
する癖が残る人もいます。
煙草をやめようと思っても口元が寂しくて、なかなかやめ
られない人がいます。
歯を含め口には、食べる、話すだけではなく、ストレスを
コントロールする働き、つまり人間しかない高度な神経
システムと密接につながっているのです。


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[顎関節症の治療法]

では顎関節症になってしまったらどのような治療をするので
しょうか。
 1.自己管理のアドバイス
 2.行動認識療法
 3.心理療法
 4.薬物療法
 5.理学療法
 6.整形的装置療法(スプリント)
 7.咬合療法
 8.観血的療法(外科手術)
これらの治療法が現在おこなわれていますが、患者さんの実態
に合わせて、これらを組み合わせて行われることが多いです。
この中で良く行われる方法として、整形的装置療法(スプリント)
と理学療法について説明をします。



[整形的装置療法(スプリント療法)]
前述したように顎関節症は、ストレス等によって過度な力が
顎関節(関節円板)に加わることが直接的な原因となります。
この顎関節に加わるを過度な力を簡単に除去する方法として、
上下の歯の間にプラスティックで作られた板を装着します。
そのことにより、過大な力で噛みしめても関節には力が加わり
にくくなり、歯ぎしりから歯を守ることもできます。
上の歯につけるタイプが主流です。
主に夜間の装着になりますが、急性症状がある場合は、1 日中
つけることもあります。
この方法のいいところは、調整をプラスティックの板の上で
削ったり足したりしますので、直接歯を触りません。
また自分で自由に取り外すことができます。
ただし長期間使い続けると歯の位置が変わったりすることも
報告されていますので、使用期間は主治医の指示に従うことが
大事です。
また、最近インターネット等で通販のスプリントも宣伝されて
います。
ところがスプリント作製の大事な点は、上の歯(顎)に対しての
下の歯(顎)の位置になりますので、実際の関節の状態、
上下の歯の位置を診断しないと効果がある物は作れません。
この装置を作るには、歯の型を取らないといけないのですが、
ひどい顎関節症の場合口が開きません。
顎関節症になっている人の筋肉は過緊張しているので、
そのままでスプリントを作製しても効果は低いものとなります。
そこで、次にあげるマニュプレーションを作製前にすることが
大事になります。



[理学療法(マニュプレーション)]
顎関節症により口がほとんど開かない人は、関節円板に
向かって下顎頭が非常に強い力で押し込まれているので、
それを患者さんの咬む力を利用しその力の方向を変えて下顎頭
を下方に引き下げます。
その後可能であれば下顎頭を関節円板にのせて、顎の動きが
スムーズになるように運動をさせます。
約15分から30分で口が大きくあけるようになりますので、
そこで型を取りスプリントを作製します。
ある程度口があける人であっても、顎関節症の方は、関節円板
に強い圧力が加わっているので、簡単なマニュプレーションを
行ってからスプリントを作製します。
このマニュプレーションにおける顎の動きを患者さん自身が
理解できるようになると、自分で顎のトレーニングができます
ので、治癒が早まります。


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[顎関節症の予防方法]

直接関節に強い力が加わることはなるべく避けます。
 1.硬いものを長時間咬まない。
 2.左右の歯を使って咬む。片がみをしない。
 3.頬杖をつかない。
 4.うつぶせ寝をしない。
 5.高い枕を使用しない。
 6.重い物を持つときや力を入れるときに奥歯を咬まない。
 7.ストレスのコントロールをする。


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