[あなたは、「はぎしり」や「くいしばり」をしていますか?]

睡眠時に起こるいわゆる「はぎしり」、昼間無意識に起こる
「くいしばり」の出現率は、研究者によって様々ですが、
皆さんの想像よりはずっと高い確率です。

あなたは、「はぎしり」や「くいしばり」をしていますか?
この問いに対して、多くの方がしていないと答えることで
しょう。
 ・気にならない
 ・家族に言われない
を理由に上げる方がほとんどだと思います。

次のようなことはありませんか?
 ・歯が冷たいものに、しみませんか?
 ・起床時、顎や首筋に疲労感がありませんか?
 ・仕事や勉強に夢中になっている時に、歯を咬んでいる
    ことはありませんか?
 ・睡眠中にに歯を擦り合わせて、カリカリと音を立てて
    いませんか?
1項目でも当てはまる人は、かなりの確率で、「はぎしり」や
「くいしばり」をしています。



[咬耗]

咬耗(こうもう)は多くの場合、まず犬歯に出現します。
犬歯=糸切り歯は、元来牙ですから歯の先が尖っています。
その犬歯の先端が擦り減り、平らな歯先になった状態が咬耗
です。
咬耗した歯は、
 ・歯がしみる
 ・咬むと痛い
 ・歯ぐきに炎症が起こる
などの症状を引き起こします。



[顎関節症]

顎関節症<別項参照>と言う名前は、最近よく紙面で見かけ
ます。
「はぎしり」や「くいしばり」によって、顎関節に強い力が
作用し続けると、
 ・口を開けにくい
 ・口を大きく開けられない
などの障害が生じますが、これが顎関節症の典型的な症状
です。



[頭部・顔面部・頚肩腕部の疼痛]

はぎしり・くいしばりは、頭部・顔面部・頚肩腕部に痛みを
起こす原因にもなります。
歯を強く、長くくいしばることによって、頭部・頚部の
筋肉に負担がかかりストレスになって、疼痛を引き起こします。
首や肩の凝り・側頭部の不快感・耳鳴りも、はぎしり・
くいしばりが引き金になって起こることがあります。

これら上半身の不快は、様々な症状になって現れるために、
患者さんは、整形外科や耳鼻科、消化器内科、神経内科など
いろいろな科を受診することになります。



[「はぎしり」・「くいしばり」の治療法]

はぎしり・くいしばりの治療法には、咬み合わせの調整や
マウスガード作製などがあります。
健康保険が適用されます。

マウスガードはマウスピースやナイトガードとも呼ばれます。
一般的に、夜間就寝時に使用します。
特に、はぎしりの症状が強い時に間欠的に使用することも
あります。
夜間だけでなく、日中の使用も有効なことがあります。
仕事や勉強に夢中になっている時に、歯を咬んでいるような
人は仕事中や勉強中に使用します。
噛みしめ・くいしばりが多いゴルフの際にも効果的です。

マウスガードの作用は、上下の歯を直接触れさせないことに
よって、はぎしり・くいしばりを軽度にし、歯と歯周組織・
顎関節を保護します。
さらに、頭頚肩腕部の筋肉へのストレスを軽減します。

マウスガードの材質・硬さ・大きさ・形状については各種
ありますので、主治医の先生とご相談ください。


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[顎関節の仕組み]

顎の関節は耳の穴の前にあります。
耳の前に、両手を当ててみて下さい。それから、大きく口を
開けて下さい。
顎の動きとともに関節が動くことを感じることができると思い
ます。
関節に異常がなければ、左右の関節が一緒に動くことが分かる
と思います。
もし、このときにがくんと感じたり、音がすれば、顎関節症が
疑われます。

関節は骨と骨の間に存在し、その形態により動く方向等が決め
られます。
身体にはたくさんの関節が存在していますが、その中で顎関節
は非常にユニークな構造になっています。
そのために、非常に複雑な動きが可能になり、物を食べたり、
話をすることができるのです。
図1<準備中>を見て下さい。
耳の穴の前に関節の受けとなる部分(関節窩)があります。
そこに、下の顎の関節(顆頭、下顎頭)が入り込んでいます。
そして、その間に関節円板と呼ばれているクッションのような
物があります。



顎の関節ははずれるのが正常

普通の関節は、動くときは回転運動をします。
そして、関節がはずれることを脱臼といいます。
ところが、顎の関節の動きは、回転しながら滑走運動をします。
つまり、関節がはずれて前方に滑りだし、関節隆起を超える
ところまで移動します。
このときに、関節円板も関節と一緒に動きます。(図1、2)
<準備中>

たまに、顎がはずれてしまった患者さんがお見えになりますが、
正常な人は常に顎ははずれるようになっています。
顎がはずれてしまった人は、正確には「顎が元に戻らなく
なったしまった人」です。
このような方は、関節隆起から
関節を元の位置に戻すだけなので、比較的容易に直すことが
できます。

重篤なのは、滑走運動ができなくなってしまった場合、つまり
関節がはずれなくなった場合です。
口がわずかしか開かなくなり、話すことや食べることが非常に
困難になります。
これは、関節円板が変形したときに起こります。
治療は非常に難しくなります。



[左右の関節がつながっている]

顎の関節は、下の顎(下顎骨)の一部ですから、左右の関節が
ひとつの骨でつながっています。
ということは、必ず両方の関節が動きます。
右の関節に異常がある場合、左の関節にも影響があり心配を
する必要があります。
また、左右の関節をつなぐ下の顎の骨には歯が並んでいます。
ですから、普通の関節炎と違い、病気ではない反対側の関節や
歯も調べたり治療の対象になることが多いのです。


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[顎の動きの役割は、車と一緒]

私は、顎の動きを説明するときに良く車に例えます。
まずタイヤにあたるのが奥歯です。
車はタイヤが動いて動くように、顎も主に奥歯で食べ物を咬み
ます。

次にエンジンに当たるのが、筋肉になります。
咬む筋肉は、主に咬筋、側頭筋、外側翼突筋、内側翼突筋の
咀嚼筋と呼ばれている4つの筋肉が行います。
その他に顎の下から首の回り肩にかけての筋肉も協調して動き
ます。
これらの筋肉の力は、100キロ前後の力をだすことができます。
ただし、食事のときはそんなに大きな力を出している人は
少ないでしょう。
10~20キロの範囲で咬んでいると言われています。

さて車では、タイヤ、エンジンをコントロールするものとして、
ハンドル、アクセル、ブレーキがあります。
顎では、その役割を前歯と神経が行います。
上下の歯を軽く咬んだまま、前や横に自由に動かして下さい。
理想的な噛み合わせをしている人は、前歯だけが当たるはずです。

例えば出っ歯の人であれば、前歯に沿って下の顎は、前の方に
動くはずです。
ところが、ウサギの歯のように、前歯が内側に傾いている人は、
下の顎は下の方に動きます。このように、前歯の角度や噛み
合わせによって、顎の動きが制限されます。
前歯は、奥歯に比べて構造上弱い形態をしています。
しかし、根と顎の骨の間に歯根膜と呼ばれる繊維に神経の
センサーがたくさん存在しています。
そこで、少しでも大きな力が弱い前歯に加わると、その
センサーにより神経を介して脳に伝わり、咀嚼筋を弱める
ように指示が出ます。
いわゆるアクセル、ブレーキの働きをするのです。
このようにして、我々は、硬い物や、柔らかい物を瞬時に判断
し適切な力で咬んでいるのです。
そして、過大な力から、歯や関節を守っているのです。


<著作権はWDSCが有しています>  <つづく