愛想無しガール+ひねくれボーイ xxxI thought nothing and he neglect xxx -4ページ目

愛想無しガール+ひねくれボーイ xxxI thought nothing and he neglect xxx

みっじかーい小説やらポエムやらネコ噺を並べてます。
コンセプト、思いつき。
虚構と事実のあいだを行ったり来たりしてる話が殆んど。
苦笑いの練習にでもご活用ください。楽しんでもらえたら、棚ぼたです。

 再び玄関でライトを待機させた。青い紙もしわくちゃの紙もスウェットのポケットに入れ、急いでテーブルの空き缶と皿を片付けた。改めて部屋を見渡してみると、殺風景な部屋と評されても仕方ない。茶色を基調とした家具のおかげで、今なら辛うじて視覚に温かみをもたらしている気はする。
 さて、空間をどう分け合うか。突っ立って思案していると、急に脳がずれる感覚に襲われた。あくびで出た目の水分を指で拭い、もうひと踏ん張りと自分に暗示を掛けた。
 玄関の様子を窺うと、またもや後ろ姿が目に入る。

「あの、上がっていいですよ」

 足元のリュックを手に取ったライトはこちらへ振り向いた。
 先程は気づかなかった。横顔があまりに美しくて、私はコンマ何秒の瞬間を巻き戻し再生していた。

「あおいさん」

 呼び掛けで我に返った私はライトに背中を向け、足早に部屋へ入った。

「荷物はそのリュックだけですか?」

「はい。着替えの洋服とその他諸々です」

「へー。狭いけど、ガランとしてるでしょ。物をあんまり置かない主義で…」

 本当は、凝ったデザインの家具や非実用的な可愛らしい小物で飾った明るい色の空間に身を置きたかった。
 部屋の様子を知っても何ら変わらない顔と声。それが歪まないうちに一方的に話した。使っていい物、触れてはいけない物、そして1日の生活の流れを伝えた。人をスマートにリードする術を知らない素の私だから、早口も態度のぎこちなさも否めない。でもこの頃には口にする言葉から丁寧語が抜けていた。

「普段、は、学生?」

「博士の助手です。不定期ではありますが、個別でも仕事を。依頼があれば、研究機関に出向いてます」

「じゃあ基本は家ってこと、ね」

 居候を認めたものの、寝息を立てる自分のそばで見知らぬ人間が暇を潰している姿を想像すると身震いがした。

「さっき説明したと思うけど、この時間はたいてい寝てて、あたし」

「はい」

「今から2時ぐらいまで寝るから、あなたはどこかで時間を潰す?」

「はい。ぼくはここを拠点にします」

「えっ」

「だめですか?」

「いやぁ、別に」

 屈んだライトはリュックからおよそB4サイズの四角い袋を取り出し、ホックのような物を外すと、台形の簡易テントがモワァッと瞬く間に姿を現した。人生で初めて<呆気にとられる>を体感した出来事だった。

「テント…」

「伺う前に野宿の可能性も視野に入れて準備をしていました。こちらでお世話になることになって不要かと思いましたが、役立ちそうですね」

 微笑んだライトは膝を突き、テントの中に荷物を入れ始めた。その他諸々にはどんな物が含まれているのか多少気になったけど、私は脳内で自分の行動をシミュレーションしてみた。この異空間がさほど邪魔にならない。まるで私の動線を避けたかのような設置場所。
 整頓を終えたライトは、テントに入り、正座してこちらを見上げていた。

「あおいさんは眠って下さい。ぼくが起こしますね」

「いや、いいいい…自分で起きられるから。いいいい」

「分かりました。では、ぼくはこの中にいるので何かあれば言って下さい」

 私は無言で頷いた。彼を退かして私がテントに隠るべきか。一瞬過った案を胸に押し込み、そのまま布団に潜った。

「おやすみなさい」

 きっと笑顔で呟いたのだろう。まだ会って間もないから、脳内で彼を自由自在に動かせるほど中身は知らないけど、そこは想像できた。でも私は1文字も返せなかった。心の中ではおやすみと返せるのに、染みついた嫌な性格だ。
 今日に限って外界と遮断した世界が早くも息苦しくなってきた。そっと布団の下に指を挿し込み、隙間を作った。そこから流れてくるひんやりした空気に顔を寄せる。
 ゆっくりとファスナーが閉まっていく音がした。打っても響かない目の前の塊をかまくらかおっきなカメとでも思っただろうか。
 体勢をうつ伏せにした私は、目を瞑り、鼻でスーッと酸素を吸った。