愛想無しガール+ひねくれボーイ xxxI thought nothing and he neglect xxx -3ページ目

愛想無しガール+ひねくれボーイ xxxI thought nothing and he neglect xxx

みっじかーい小説やらポエムやらネコ噺を並べてます。
コンセプト、思いつき。
虚構と事実のあいだを行ったり来たりしてる話が殆んど。
苦笑いの練習にでもご活用ください。楽しんでもらえたら、棚ぼたです。

 遠くから時間だぞと呼び掛ける声がする。反射的に手で探り、目覚まし時計の出っぱりを軽く叩くと、とても静かになった。携帯電話の機能を目覚ましとして使うことが主流だった時代からずっと、路上で300円で買ったアナログの目覚まし時計を私は愛用している。
 ネコと同じような伸びをして座り込む。頭に乗っかった掛け布団を後ろに下ろす。心の中でカウントダウンを始め、目蓋を開く準備に入った。さぁ、1日を始めるか。
 部屋を見回すと、Tシャツを吊ったハンガーを両手に持って歩く男と目が合った。

「おはようございます」

 見目麗しい盗人か。私は、自分の足に躓きながらもベッドから一目散にTシャツに駆け寄り、奪い取った。

「勝手に触んないで」

 イノシシそれとも闘牛を彷彿とさせたのだろうか目をぱちくりさせながら私から視線を外さない。そしてライトは口を開いた。

「傷つけないと約束したにも関わらず、本当にすみません」

 あまりに丁寧な反省とTシャツに描かれていた“ワットアチャイルディッシュ”の文字が目に飛び込んできては感情的に振る舞った自分の方が恥ずかしくなる。

「もう頭上げて」

 その時突然ザーという音が鳴りだした。ホワイトノイズかと思い、テレビを確認するが真っ黒。次に視界に捉えたカーテンの前に行き、数センチ捲って向こう側を垣間見る。
 天気予報のバカ。カーテンを思いっきり開けたが、ベランダには何もなかった。

「そっか」

 私は手元のシャツの経緯を悟った。視線をライトに移すと、まだ下を向いていた。ライトの前に立って肩を軽く叩くと、頭を上げたライトはまた謝ってきた。

「本当にすみません…」

「もう、気にしなくていいから」

 呆気ない私の言葉にライトは目を丸くしていた。一度感情を乱してしまうと、素直さに欠ける私は誤解と感謝を面と向かって言えやしない。その照れを隠すために出勤の準備を始めながら話しかけることにした。

「なんか食べた?」

「いいえ」

「そう。今から軽く作るけど、それでも良かったら食べる?」

 遠慮をしているのか歯切れの悪い返事が耳を掠めた。

「今減ってないならラップしておくし」

 新たに聞こえてきた返事とは逆にライトの首は左右に忙しなく動いている。そんなに私は右往左往しているのか。

「特に用がなかったら、テントの中入るかテーブルの辺りに座ってて」

 私は水を入れた鍋に火をかけた。ライトはテーブルの前に正座をした。彼の傍らに竹刀を探してしまうくらいピンと背筋が伸びている。料理の合間、何度かテーブルの様子を窺ってみたが、静止画だった。全体像から焦点を顔に合わせると、私まで静止してしまう。そんなタイムロスが多少あったもののアルデンテに仕上げられた。
 テーブルにポタージュスパゲッティと小皿に入れたミニトマトを並べ、ライトの正面に座った。
 初めて見る料理に目が点になっているように見えるのは私の気のせいか。ともかく私はいただきますと呟き、スパゲッティを啜った。

「しんぱいないさとは博士のあだ名ですか」

 明後日の方向から話題がやってきた。少し噎せるだけで済んだが、いつもの量を掬って食べていたならば、大胆に噴き出ていたかもしれない。

「それは、掘り下げなくていい。っていうか博士に言わないでよ。絶対言わないでよ」

 ライトは穏やかな表情で、はいと答えた。

「早く食べなよ」

「はい」

 不思議な料理ですね、とでも言いたげな顔をしている。

「ね、ずっと思ってたんだけど、目乾かないの?ずっと見開いたままだよね本当。正直ちょっと怖いから、適度にまばたきしてくれないかな」

「いいですか?」

「まばたきでしょ?許可取ってするもんじゃないから、どうぞ」

「はい」

 ライトはゆっくりと二、三度まばたきをした。

「で、食べないの?」

「食べられないです」

「パスタ嫌い?」

「嫌いではないです」

「じゃやっぱお腹空いてなかった?」

「わからないです」

「そんなことある?」

「ぼくは食べるという行為を行えません」

「断食中?」

「断食とは?」

「じゃ違うわけね」

「寿子さんのご説明にあった通り、ぼくは機械です。それゆえ、体内に異物を入れることが出来ないのです」

 超高速で母さんの話を思い返しても、その情報に覚えがない。

「機械?」

「はい」

 食べられないというパスタをまじまじと見つめている。

「異物…んっ?機械?ちょっと待って、思考回路が停止してんだけど」

「ぼくの目にはカメラの機能が搭載されています。撮影についてですが、まばたきがシャッターの役割を果たしています」

「ということは、まばたきしたら写真が撮れるってこと?」

「その通りです」

「ちょっと待って。じゃあさっきまばたきした時に、写真を撮ってたの?」

「はい。いただきました」

「嘘でしょ」

「印刷しますか」

 首を横に振ったのに、ライトは着ていたシャツの下からフォークをくわえた私の写真を出してきた。

「…それも連写で」

「拡大できますよ」

「むしろ消去」

 私の前に“異人”が現れた。