シンガポール~熱帯先進国から見る世界 -17ページ目

シンガポール~熱帯先進国から見る世界

シンガポールで進出支援・会社設立・資産管理をお手伝いする代表者ブログ
常夏のシンガポールから、つれづれなるままにコラムをお届けしています

世界的に経済の停滞がささやかれています。
シンガポールもご多聞に漏れず、今後の経済見通しについて慎重な見方が増えています。GDPの予想成長率も下方修正されました。内需の限られるシンガポールは、世界経済の混乱の影響をダイレクトに受ける国です。特に国の基幹産業となっている貿易、運輸、金融は他国の動向が大きく影響します。
このような書き方をすると、典型的な日本人は「好事魔多し。やっぱり日本がかつて経験したような不景気が来るんだ」と悲観論を先取りしようとし、メディアも「リーマンショックの再来か」と煽りに入ります。人は他人から賢いと思われたい動物ですので、「いつまでもうまく行く」と言っていると愚かに見えますが、「良いことは長くは続かない」と言うと賢く見えるという習性があります。ですから、おそらく日本のメディアではかなりの経済危機がささやかれていることでしょう。しかしイコール、シンガポールに大きな変化が起こっていると考えるのは早合点です。こちらに暮らしていて、今のところ目に見えて大きな変化を感じることはありません。

シンガポールでは9月の終わりにF1が開催されています。世界中からセレブが集まり、ライトアップされて夜通し騒いでいる様子を見ると、不景気とは無縁のように感じられます。マリーナ・ベイ・サンズにはルイヴィトン島「Louis Vuitton Island Maison」がオープンしたばかりです。しかし国内ニュースや経済指標は、好調を維持していたシンガポール経済が減速する可能性を少なからず示唆しています。
これからシンガポールがどうなって行くのか、もちろん私には確たることは申し上げられません。ただ、前回のコラムに書いたような外国人労働者の受け入れ厳格化の問題、若年層の意識低下、インフレ・物価高、利己主義の横行など、国民の中に社会的不満が高まってきていることも否定出来ません。変化はゆっくりと、しかし着実に進んでいくでしょう。
私個人はシンガポール経済の先行きには楽観的です。その理由の1つはシンガポールが金融的に既に大きなアドバンテージを有していることです。シンガポールは憲法で政府に収支の均衡を義務付けており、健全な財政黒字国です。アメリカの債格下げ後も北欧諸国などと並んでアジア唯一のトリプルA国として、債務問題とは無縁の存在です。また、優秀な技術や人材を世界中から誘致することに関して手を緩めておりません。他国との良好な関係をもとに政治主導で自国の成長シナリオを進める戦略は、まだまだ有効に機能しているように思えます。

企業・個人の進出に関する話を申し上げますと、私たちは他人の芝生が青く見えるという特性と、未知のものに対しネガティブな情報を受けると必要以上に警戒してしまうという、二面性を常に持っています。シンガポールへの進出を考える時はそのどちらも正解ではありません。今、たくさんの日系企業がシンガポールを訪れており、私も進出をサポートする立場から日々アドバイス致しておりますが、進出を判断するうえで真に大切なことは景気や環境といった客観的・外的要因ではなく、「何のために進出するのか」という強い目的意識です。それは経営者の心の中に答えがあります。大行は細謹を顧みず。不況と言われる日本で成功したノウハウと確固たる信念があれば、必ずやシンガポールでも大きなチャンスを生み出せるでしょう。
今年1月から政府は就労ビザの取得基準を引き上げました。
今のシンガポールを考えた時、外国人労働者の問題を避けて通る訳にはいきません。

先日、タクシーに乗っているとドライバーが話しかけてきました。「おう、どこの国の出身だ? 韓国? 中国? 最近は本当に人の数が増えたもんだ。シンガポールにはオフィスワーカーがたくさんいるだろう? 俺がもしオフィスで働いたらどうなるか。たいした教育も受けていないし、お前たち外国人もいっぱいいることだから、安い給与でこき使われるだけだ。しかし、俺達-タクシードライバーの仕事は違う。オフィスで働く奴は毎日定時に出勤して、いくらもらえるんだ? せいぜいS$3000くらいの給与だろう? 俺は自分で自分の食いぶちを稼いでるから、休みは少なく勤務時間も長いしそりゃ大変さ。でも月にS$6000は稼げる。タクシードライバーはシンガポール人しかなれないし、働いただけ儲けが出るんだ。頭を使って努力すれば、人より儲けられるのさ」。
ほんの5分くらいタクシーに乗っただけで得たこの会話から、彼のオフィスワーカー(いわゆるホワイトカラー)へのコンプレックスとハングリー精神、そして外国人労働者への不満を感じることができました。

シンガポールにおける外国人に対する不満の大きな要因は、外国からの労働者がローカルの仕事を食ってしまっているというものです。どの国でも、外国人が来ることによって、その国の労働者の賃金が下がったり、失業が増えるのは社会的な不満となります。それが選挙にも影響し、5月にあった選挙で与党PAPはかつてない敗北を喫しました(といっても87議席のうち6議席を失っただけですが)。リー・シェンロン首相をはじめとする政府首脳は、国民の不満をそらすことに懸命にならざるを得ません。就労ビザの取得基準引き上げも、そういった社会的背景の下に行われています。

翻って、シンガポールにおける日本人労働者の賃金は、高いとはいえない状況です。私のまわりの経営者でも、下手に要求の高いシンガポール人を雇うより日本人を雇った方が、給与の面でも安く済むという意見が増えております。このような傾向は弊社のような企業にとっては良いことですが、全体としては決して良くありません。日本の不景気を反映し日本人が安い給与で多く働くようになれば、前述のようなローカルとの雇用の食い合いが頻発するからです。

つまり我々日本人は外国人である以上、ローカルとの圧倒的な差別化が必要と言うことです。シンガポールではその基本が失われつつあります。日本が活力を失っているために、あまり高いモチベーションを持たずとも、こちらに来て仕事をする日本人が増えてきています。今回のテーマから逸れますのでここでは取り上げませんが、「日本人よ、海外に出よ」と言っても、理想を高く持たない日本人労働者がたくさん外国に来ることは、決して望ましいことではありません。

シンガポールから”NO”を突きつけられないために、自分も含めた日本人はもっとたくさん稼ぎ、現地社会に貢献しないといけない、そう痛感しています。
前回はシンガポールが管理された国でありながらフェアな環境を提供している点に触れました。今回はシンガポールという国が根底に持つ価値観について少し掘り下げます。

シンガポールは大きさでいうと淡路島と同等、東京23区程度しかありません。「島」ではありますが、日本の島国精神とは大きく違う背景と考え方がここにあります。

国が狭い為に国内産業というのはほとんどありません。日本の国土が狭い、と言ってもシンガポールの比ではありません。食品も資源も輸入に頼らざるを得ないシンガポールは、世界からそっぽを向かれれば、たちまち干上がってしまう弱い立場です。幸いにも交通の要所としての港を持つシンガポールは、世界中から船や物を集めることができます。それであればと、港をより自由に使わせることにより、他の国が喜んでシンガポールに物を運びお金を落とすという仕組みを作ることに成功しました。

次に金融、お金についてです。貨幣経済が進み金融のオンライン化、国際化が進むにつれ、世界中をお金が自由に動きまわるようになりました。お金を集めるのに広い国土は必要ありません。シンガポールはいち早く金融機関や国際的な企業の誘致を進め、税の優遇策も用意し一大金融センターを作ってしまいました。お金が集まれば、それは更にお金を生み出すインフラとなります。今や世界で最も安定した銀行はシンガポールの銀行となり、世界中の資産家が安全のためシンガポールに資金を移しています。

こうなると勝てば官軍、弱小国にすぎなかったシンガポールの存在を、各国は無視できなくなります。シンガポールは国として世界中の金融機関や国家にも資金を出し、国際的な地位を築くに至っています。マレーシアから独立してからの道のりは、多くの書籍でも紹介されていますのでご参照ください。

さて、ここまで書いてシンガポールはすごい国だな、と思われたかも知れません。実際そうなのですが、翻って日本はどうでしょうか。

日本という国は加工貿易によって繁栄した国と言えます。石油などの資源は輸入に頼っています。農業などの一次産業はある程度ありますが、それも輸入に頼っている部分が多い。高度経済成長を支えたのは製造業をはじめとする輸出品による対価で、国内で消費されているものの多くは輸入品、つまり他国との関係で成り立っている極めて国際的な国なのです。

日本というと島国で他国を排除したがるイメージがあり、実際にメンタリティーとしてはそう言えますが、経済の実態はボーダーレスに他なりません。国民が自覚する・しないに関わらず、世界中にさまざまな影響を与えています。現に世界中で日本のパスポートは高く信頼されていますから、先輩達の実績は大きなものだったのです。問題は今もこれからもその認識を持って国を維持していけるかどうかですが…。

シンガポールに話を戻しましょう。特に興国の祖、リークアンユーを含む客家系の華人には、他国の良いところを積極的に取り入れようという貪欲さと、弱みを見せれば国家と言えどもすぐに危うくなるという強い危機意識の、両方が備わっています。だからこそ徴兵制度による強い軍隊の維持、厳しい国内法の罰則といった前時代的なものも残しつつ、先進的な国家運営を続けているのです。
今、シンガポールが力を入れているのは、バイオ、科学、医療、知的財産など。いずれも国が小さくても世界をリードできる分野で、国家的な産業創出に余念がありません。昨年開業したカジノが成功して観光客もまだ増えていますが、観光局は新しいものをまだ作っています。常に弛まぬ成長を望むその姿は、さながら「シンガポール株式会社」と呼ぶにふさわしいでしょう。

小国ながら、何もないところから努力して成功をおさめた日本とシンガポール。この二国は似ている部分も多いですが、政府および個人の意識は大きく差が開きはじめているように感じます。日本の情勢が不安定となっている今、私たち企業と個人は、小さくても世界と対等に渡り合える「シンガポール的生き方」を目指す時代が来ているのではないでしょうか。
私は幼少の頃東南アジアで育った経験からアジアで働くことを志し、 シンガポールに単身で飛び込んで参りました。
そして今ビジネスをしながら、この国の持つ勢い、若さ、そして賢さ に深く感心しております。日本もかつてそうであったように、若く、 未来への希望に燃えている国は強いです。そして国の取る政策が、優 秀な人材や企業を世界中から集めることに成功しています。 リスクよ りチャンスを、安定より勢いを好む人に、この国は向いています。20 代・30代でも、第一線で活躍している人がたくさんいます。私も負け てはいられません。大きなチャンスをつかむために攻めて攻めて、ア ジアに日本パワーを見せるつもりでいます。同じように、未来志向で 世界に進出したい方を積極的に応援しています。一緒に第一歩を踏み 出しませんか。

さて、シンガポールをたとえて、「明るい北朝鮮」とよく言われます。 「明るい北朝鮮」とは言い得て妙です。あらゆるものが国家の管理下 でおこなわれています。シンガポールを訪れた人々はこの地に降り立 ってすぐ、道路脇の街路樹が等間隔に並んでいることに気づきます。 またすべての国民および在住者は番号で管理されており、新聞やテレ ビなどのメディアも国の統制下にあります。

しかし、極度に管理されることを望む人はいません。ではなぜシンガ ポールはここまで人を惹きつけるのでしょうか。

北朝鮮との決定的な違いは、資本主義が徹底されていることです。こ の国でビジネスをする際は、資本主義の原理に基づき、フェアでクリ ーンな環境での挑戦が可能です。

フェアでクリーン、この一見当たり前とも言える条件が、他の国家で はまず実現されていないのです。規制、賄賂、国家の既得権益といっ た、アジアでは特にありがちな不透明感が、シンガポールでは一切あ りません。これから事業を始めようとする人は、自分の優秀なアイデ ィアやビジネスモデルを不透明な理由で邪魔されたくなどありません 。シンガポールは多くの人に対し、フェアでクリーンなフィールドを 提供しているのです。これは外国人であっても同様です。

翻って、他のアジアの国々はどうでしょう。また日本はどうでしょう か。なかなかそのようにはいきません。特に熱帯地方で先進国といわ れる国は他にありませんから、なぜそこまで徹底できたかというのは 興味深いところです。

中国、インド、欧米、オセアニア…さまざまな国から来た人種が集ま る国で、その多様な価値観を束ねるために、合理的なルール作りが徹 底された経緯があります。他国で不条理な経験をしたことがある人に とっては、シンガポールの管理社会は心地よく感じるでしょう。

淡路島程度の面積しかない小国でありながら、世界でも類を見ないほ ど発展したシンガポール。その理由の1つは、強い政府による徹底し た環境作りなのです。