シンガポールにおける外国人労働者への社会的不満について | シンガポール~熱帯先進国から見る世界

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今年1月から政府は就労ビザの取得基準を引き上げました。
今のシンガポールを考えた時、外国人労働者の問題を避けて通る訳にはいきません。

先日、タクシーに乗っているとドライバーが話しかけてきました。「おう、どこの国の出身だ? 韓国? 中国? 最近は本当に人の数が増えたもんだ。シンガポールにはオフィスワーカーがたくさんいるだろう? 俺がもしオフィスで働いたらどうなるか。たいした教育も受けていないし、お前たち外国人もいっぱいいることだから、安い給与でこき使われるだけだ。しかし、俺達-タクシードライバーの仕事は違う。オフィスで働く奴は毎日定時に出勤して、いくらもらえるんだ? せいぜいS$3000くらいの給与だろう? 俺は自分で自分の食いぶちを稼いでるから、休みは少なく勤務時間も長いしそりゃ大変さ。でも月にS$6000は稼げる。タクシードライバーはシンガポール人しかなれないし、働いただけ儲けが出るんだ。頭を使って努力すれば、人より儲けられるのさ」。
ほんの5分くらいタクシーに乗っただけで得たこの会話から、彼のオフィスワーカー(いわゆるホワイトカラー)へのコンプレックスとハングリー精神、そして外国人労働者への不満を感じることができました。

シンガポールにおける外国人に対する不満の大きな要因は、外国からの労働者がローカルの仕事を食ってしまっているというものです。どの国でも、外国人が来ることによって、その国の労働者の賃金が下がったり、失業が増えるのは社会的な不満となります。それが選挙にも影響し、5月にあった選挙で与党PAPはかつてない敗北を喫しました(といっても87議席のうち6議席を失っただけですが)。リー・シェンロン首相をはじめとする政府首脳は、国民の不満をそらすことに懸命にならざるを得ません。就労ビザの取得基準引き上げも、そういった社会的背景の下に行われています。

翻って、シンガポールにおける日本人労働者の賃金は、高いとはいえない状況です。私のまわりの経営者でも、下手に要求の高いシンガポール人を雇うより日本人を雇った方が、給与の面でも安く済むという意見が増えております。このような傾向は弊社のような企業にとっては良いことですが、全体としては決して良くありません。日本の不景気を反映し日本人が安い給与で多く働くようになれば、前述のようなローカルとの雇用の食い合いが頻発するからです。

つまり我々日本人は外国人である以上、ローカルとの圧倒的な差別化が必要と言うことです。シンガポールではその基本が失われつつあります。日本が活力を失っているために、あまり高いモチベーションを持たずとも、こちらに来て仕事をする日本人が増えてきています。今回のテーマから逸れますのでここでは取り上げませんが、「日本人よ、海外に出よ」と言っても、理想を高く持たない日本人労働者がたくさん外国に来ることは、決して望ましいことではありません。

シンガポールから”NO”を突きつけられないために、自分も含めた日本人はもっとたくさん稼ぎ、現地社会に貢献しないといけない、そう痛感しています。