シンガポール企業をつなぐ、という業務があります。
その際、商習慣の違いについて説明するのですが、
ほとんどの日本人はすんなりと受け入れることが
できません。私自身もシンガポールに来て日本との
価値観の違いを数多く学びました。
たとえば以前、このようなことがありました。
店舗に必要な備品を揃えたく、取り扱っている会社を
探していました。いくつかの候補先に電話して、
「商品の説明が聞きたい」
「パンフレットを欲しい」
とお願いしました。
「わかりました、送ります」
「営業担当者から連絡させます」
という答えをもらうものの、だいたいその後、
なしのつぶてです。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか
日本人はこれらの事例だけ見ると、
「シンガポール人は適当だ」
「仕事のやる気がない」
という結論に行きがちですが、
これは半分しか当たっていません
(多々そのような理由もあるのですが…)。
これは、日本とは違う契約社会をベースとした
「双方が対等である」という意識に基づいています。
たとえば上記のケース。問い合わせをしている
お客の立場からすれば
「こちらは興味を持っていると言っているのだから
キッチリ対応するのは当たり前」という意識があります。
しかし冷静に考えてみましょう。はたして問い合わせを
してきた相手はお金を落とす「お客」なのでしょうか?
もし、その会社が1日30件問い合わせを受けても
1件決まるか決まらないかという商売をしていたら・・?
「またどうせ決まらないだろう」と思うでしょう。
また逆に、既存のお客で手一杯で新しい顧客の開拓に
熱心でないという可能性もあります。
そんな時、日本でしたら
「オタクは対応が悪いからつきあわない!」と言って
終わりかもしれません。が、連絡するところするところ
全部同じ対応だったらどうしますか?
欲しいものが手に入らず途方に暮れてしまいます。
日本人の心の中には「お客が偉い」という意識が
大きく根付いています。
「お客様は神様」という教育が行き届いた国であり、
お客さんを放ったらかしにすることは許されないと
教育されているからです。
(それはもちろん、素晴らしい文化です)
人間、自分がそうすべきと教えられてきたことを
相手ができないと、得てして腹が立つものです。
実際に商売をしている人からすれば、お客が偉いのは
世界共通の真実です。しかし厳密には
「利益を確実に落してくれるお客」が偉いのであって、
「興味だけ持って話だけ聞くお客」や
「支払いが滞るお客」は、お客ではないのです。
当たり前のことです。
シンガポールに限らず外国の場合、日本のように
いきなり連絡しただけで無条件に買い手が
信用されるということはありません。
物を購入する場合もまず
「自分が有望客であり金払いもしっかりしている」
という匂いを出さないといけないのです。
例えば先ほどの店舗の備品について問い合わせた
場合でも、
「スターバックスが問い合わせしている」と
「しがない個人が問い合わせしている」
では、受ける側のやる気が変わるわけですから、
スムーズに仕事を進めるためには、相手にどんな
メリットがあるかをわからせないと、まともな
対応をしてもらえなくても仕方ないとも言えます。
買う側は値段や内容で購入先を選ぶことができます。
同様に、売る側も買い手を選ぶことができます。
売る側も買う側も対等、という考え方です。
これはデフレが進んで消費が冷えてしまった日本で
働いていると、知らず知らずのうちに忘れてしまう
考え方です。
一度そのような観点に立てば、
「なぜ取引の度に契約書が必要なのか」
「なぜシンガポールの会社は対応が悪いのか」
といった理由が見えてきます。
我々中小・零細企業は常に
”SHOW ME THE MONEY!”
と言われていることに気が付かなければ、
こちらでの取引はスムーズにいかないものですね。
(『ザ・エージェント』のトム・クルーズのように…)

JERRY MAGUIRE (Tom Cruise) - SHOW ME THE MONEY (『ザ・エージェント』より)
http://www.youtube.com/watch?v=OaiSHcHM0PA