処刑ライダー

 

1987年公開 監督/マイク・マーヴィン

出演/チャーリー・シーン、ニック・カサヴェテス

 

1980年に封切られたジェームズ・グリッケンハウス監督の『エクスタミネーター』ではフルフェイスのメットを被ったまま何かと争う姿を見せていた。それより少し前にはリドリー・スコット監督の『エイリアン』(79)も公開された。これらをいちおう知っていると今作のアイデアの融合性も認識できるような、できないような。というよりは当てずっぽうに過ぎないのだが、いずれにせよこの作品もなかなか面白く出来ている。

 

アリゾナ州の砂漠の町。かつては西部開拓時代でも多くの殺戮が繰り返されたといわれるこの田舎町では今では暴走族がこの大陸を縦横無尽に跋扈していた。パッカード(ニック・カサヴェテス)率いる暴走族はコルベット、トランザム、バラクーダ、デイトナなどとカスタム・カーを轟音と共に駆り出し、車でデートしているカップルをひっかけては(何を基準に勝ちを決めるのかわからない)レースをさせて車を奪い取るなど迷惑行為を繰り返し、その街の若者は誰もが逆らえないほどの存在だった。

 

ハンバーガー・スタンドで働く従業員の若者ビリー(マシュー・バリー)は若者たちが海水浴に戯れる湖のほとりでひとりの男と出会う。彼は名をジェイク(チャーリー・シーン)といい、その町では初めて見る顔だった。ジェイクはパッカードの恋人ケリー(シェリリン・フェン)と知り合ったのをパッカードに見られていた。その湖にはパッカードも来ており、ジェイクを見つけては気に入らないとばかりに目をつけることにした。一方ビリーには兄ジェミーを何者かによって殺されたという過去を持っていたのだった。

 

そんなビリーやケリーたちの働くバーガー・スタンドでパッカードたちが絡んでいると黒い車が一台やってきた。いかにもパッカードたちに勝負を申し込んでいるように見える、そのストップしようともしないエンジン音の佇まいでいつまでも答えを待っているクルマにパッカードたちはムキになる。そして対抗すると真っ先に手を挙げたのがオギー(グリフィン・オニール)だった。

 

白昼堂々、砂漠の真ん中をただ一筋に走る舗装された道路を猛スピードで走り抜ける二台のクルマ。謎のクルマは一見すると車体の形がまさにカブトガニのようで地べたを這いつくばるほどに車高も低い。何となく普通に見たらトヨタのスープラだ。そのクルマの車窓からはドライバーの姿がまるで見えないほどにスクリーンが暗い。滑らかに前方へと突き進むそのスピードの疾走感は並大抵のものではなく、留まるところを知らないほどの速さだ。途中でネズミ狩りのため待機していたパトカーも追いかけ始める。やがてそのクルマはオギーの車を突き放すように、追いつかないほどのスピードを出して前方へと去ってしまう。そんなクルマに追いつこうとオギーもアクセルを更に踏み込む。しかし先に行っていたクルマはカーブ先の死角で停止していた。避けきれなかった車はそれにぶつかり崖下へ。大破したはずのクルマは閃光と共に復旧、そのまま何事もなくその場を去っていく。パトカーが追いついた時には既に落下した車も炎上。しかしその焼死体であるはずが火傷も一切なく目玉がくり抜かれただけという現場状況に保安官ルーミス(ランディ・クエイド)はただ首を傾げるだけだった。

 

パッカードたちのアジトは町からかなり離れた砂漠でそこは自動車工房に使える廃屋だったが、そこにも例のクルマのドライバーが道場破り(?)にやってくる。数々のカスタム・カーに狙いをつけてライフルを発砲し、そしていつしか消え去って行く。そのドライバーはフルフェイスを被ったまま素顔を見せず、黒ずくめのコスチュームに覆われていた。体中にはチューブが這っている容貌である。そしてまた懲りずにレースが始まり、今度はミンティが犠牲になった。

 

たまさかの出逢いがあったジェイクとケリーはデートをしていたが、その矢先で暴走族の一味に再び絡まれてバイクを車で追われる。何とか振り切ったが、やはり二人はパッカードの嫉妬心を益々燃やしてしまうことになる。しかしケリーを送ったジェイクのバイクが暗闇の中を微かな光と共に散らばって消えて行ったのをパッカードは目撃した。あの男は一体何者なのか?

 

またある日の白昼、彼らのガレージにパッカードやラッグ(クリント・ハワード)が出かけて行った後に例のクルマが突っ込み、大爆破。この事故を境に、最近族に入ったばかりのメカニックのラッグはパッカードの過去を聞いていたのを思い出した。それを聞いて犯人の目星がついた保安官はビリーの元へ向かっていくのだった。

 

少々面白いのは俳優の顔の揃え方で、主役はチャーリー・シーン、パッカードにはニック・カサヴェテス、族のメンバーからはオギーにライアン・オニールの息子グリフィン・オニール、メカニックのラッグに父ランス・ハワード、ロン・ハワードを兄に持つクリント・ハワード、よくは知らないが劇作家ジェームズ・バリーというのがいるそうでその息子がビリーを演じている。この辺映画一家に恵まれている俳優たちが集まっているのも凄い話である。ちなみに個人的には恐らくはこれが日本で初めてのお披露目となったと思われる、クリント・ハワードの本格的主演映画が『デビルスピーク』(81)だったのでは。あまりにドス黒く、泥臭く、凄くブタブタな映画だった、そんなカルト・ホラーだったのを過去にテレビで見て、不思議と微かにだが覚えている。

 

冒頭では真夜中の砂漠の空を一筋の青光が舞い、一台のクルマと一人のドライバーが颯爽と登場、観る者に斬新な驚きを与えたことだろう。一種のヒロイズムを覚えさせるこの風貌は先に述べたような印象を醸したが、これが原題 " The Wraith " にあるように亡霊、或いは字幕上でも死神と訳されていることだし、一見すると勧善懲悪もののようにも見えてくるが実はそうではなく、リベンジものである。

 

TVM『ナイトライダー』からのデザインの踏襲跡も否定できないかもだが、そのようなデザインと『エクスタミネーター』と『エイリアン』と、色々とくっつけた感じの仕上がりがまた新しくも見えるし、マイノリティともいえるコアなファンがいまだ根強く残るセンスは流行(シンセ入った!)的なポップ・ミュージックと共に当時の若者たちの心を捉えて離さない。この音楽的な流れもジェニファー・ビールスの『フラッシュダンス』(83)やケビン・ベーコンの『フットルース』(84)が出た後だ。そもそも兄弟二人にまつわる青春期が物語の軸となっており、これは若者たちの観客層を確保するのにたとえこれがSFやホラーであっても、音楽面でこれを起用しない手はないかもしれない。もちろん他にも沢山、こうした映画は量産されていたことだろう。

 

ジャンルとしては至って純粋にSFだが、ありきたりの学園ドラマに見るような、これほど現実味に溢れた青春日記が下地にあるとも筆者は少なくとも思わなかった。警察絡みだからちょっと遠いけども兄弟関係についてはちょっとこれは滅多に、というような。人によっては最後にちょっとホロリとくるかも。

 

ちなみに例の車体製造費用は当時のドルで2億4千万円、クライスラー22リットル4気筒ゴスワース、7百馬力で最高時速も360㎞は出せただろうという。