フィスト F.I.S.T.

 

1978年日本公開 監督/ノーマン・ジュイソン

出演/シルベスター・スタローン、ロッド・スタイガー

 

全米トラック運転手労働組合の前身ないし起源なるものは1903年に複数の労働組合から併合設立されたとされている。世界大恐慌の余波が当然のようにまだ残っていた1930年代にほぼ完成し、このブルーカラー労働者たちから構成されるIBT(International Brotherhood of Teamsters)が繰り返し勃発させた労働ストライキによって家族手当や残業手当などの不払い、健康保険制度の不備などに対する不満を解消、その活動の勢いは留まるところを知らず、長年にわたって今も続いている。その歴代会長の一人にジェームズ・R・ホッファ(1913~1975)がいた。

 

人望も厚く、人を惹きつける魅力の持ち主のホッファが着任していたその期間では、最も危険な問題を抱えていた渦中の傷痕がまだ残っていた。アル・カポネを始めとするマフィア犯罪組織の組合内への参入に起因する、組合資金からの政治献金、贈収賄などマフィア絡みの汚職続きで、ホッファはこれらを常に洗浄、かつその犯罪組織との関連を断ち切ることに専念しなければならかったようだ。しかし法廷では上院議員ロバート・F・ケネディに糾弾され、正当に弁論するも虚しく1967年には投獄される身となった。その出所後の1975年、人に会うためにデトロイト州郊外のレストラン外で目撃されたのを最後に失踪したといわれているが、その消息、真相はいまだ謎のままだ。この事件は20世紀最大の未解決事件とも言われており、1982年には未だ失踪中の彼はようやく死亡認定を受けた。2009年時点ではその息子フィリップが理事長に就任していた。

 

 

ホッファ

 

1993年日本公開 監督・出演/ダニー・デビート

出演/ジャック・ニコルソン、アーマンド・アサンテ

 

このホッファ像が映画化されたことがあり、日本でも1993年に封切られたのがダニー・デ・ヴィート監督の『ホッファ』、このホッファを演じたのがジャック・ニコルソンだった。何年も前なので内容もすっかり忘れてしまい、筆者の限られた記憶のみになるが、力を振り絞る全身を使った演技でジャック・ニコルソンの身体からホッファの存在感がヒシヒシと伝わり、相手していた俳優たちも思わずタジタジしていたことだろう、と思うほど。組合の存続のために必要としていた合法財テクに対する糾弾に身をやつすケネディ兄弟と争いを見せる権力の象徴が体現されたことになるだろうか。

 

そのホッファをモデルとした男を描いた映画が本作『フィスト』である。1930年代、雇用問題も深刻化していた不況時代、主人公ジョニー・コバック(シルベスター・スタローン)も倉庫作業で仕事にありついていたが現場監督の粗暴な扱いに労働者全員が反発や怒りを露わにして暴動を起こす。これを聞きつけた代表は待遇改善を約束し、ジョニーたちは一度は信用したものの翌日には見事に裏切られて解雇された。バーで労働仲間のエイブ(デイビッド・ハフマン)らと飲みながら失意に明け暮れているとトラック運転手労働組合の役員マイク・モナハン(リチャード・ハード)に声がかかる。歩合手当支給や車つきを条件に組合員加入促進を依頼されるジョニーたち。そこに経営者側専属の弁護士が参入を促してくるが、それを拒むと暴力行為による脅迫が相次ぐ。

 

不当な扱いを受け続ける労働者たちの怒りは日増しに膨れ上がり、労働ストの凄惨さもこれに比例して益々激化する。これに怖気づいたのか、経営者側はその労働者の生活や待遇を保障する契約に署名することをようやく決めた。ここまで辿り着くのに数多くの怪我人や犠牲者が多数、その中にはモナハンも数に入っていた。この落命による犠牲が、純潔を保とうとしていたジョニーにマフィアの力を借りることを決意させたのだった。

 

ジョニーたちが結成した労働組合フィスト(Federation of Interstate Truckers)も規模はやがて広大化し、全米規模での集会も頻繁に行われる一方、組合会長同士の対立も顕著、その一人、マックス・グラハム(ピーター・ボイル)のジョニーへの態度もあまり協調的なものではなかった。組合加入促進もいよいよままならず、そこではついにはマフィア、ベイブ・ミラノ(トニー・ロ・ビアンコ)の力を新たに借りざるを得ない時もあった。黒社会との関係を断ち切れず、相変わらず暴力を好まないジョニーが苦汁の決断を迫られる様子を親友のエイブは心配していた。社会的権力に立ち向かうには、如何なる手段をも選ばないことも、嫌でも学んだはずだったがそれでも学ぼうとはしなかったジョニー。

 

20年も経つと労働組合は既に大手となり、マスコミにも注目の的とされていた。しかしその裏ではマジソン上院議員(ロッド・スタイガー)は黒社会関与疑惑を理由に、ジョニーたちの動きを虎視眈々と監視し続けていた。そしてジョニーたちは自分たちの犯したとされる汚職疑惑について告訴される日を迎えることになる。

 

広き東西に渡る輸送手段に依存しなければならないアメリカ大陸ゆえの姿のひとつ。そうした姿が長らく続き、また労働ストのように一度止まれば多くの世帯の生活にも支障をきたしてしまうためにその影響力も馬鹿には出来ない。そのためにネズミ狩りには相当に反発心がより一層強くなることも詮無きことなのである。このトラックによる主張に込められた社会的意義がこのアメリカ合衆国のひとつの局面を説明してくれている。この点は日本でも同じことが言え、深夜の幹線道路には急いで翌朝までに届けなければならないトラックが今もひしめいていることだろう。

 

また脚本ジョー・エスターハスにシルベスター・スタローンも加わっているが、スタローンならではの脚色も添えられていることがやはり着目されるだろう。これはスタローンの人生がそのまま反映された形の表れでもあり、それは『ロッキー』(77)に始まっていることは恐らくファンにはもはや常識であろう。自分は虫ケラではないことを証明しようとした人間のもがき苦しむ生き様、これを踏まえた状況を今作でも組織経営者と労働者との対立に重ねていることがわかる。以後、スタローン監督作の多くはこのコンセプトで表現されることが顕著となった印象が強く残されている。少なくともこれは延々と繰り返し提示されなければならない教訓である。どん底の生活から抜け出すようにアメリカン・ドリームを体現したスタローンの主演第2作に数えられ、更に翌年には監督作が2本(『ロッキー 2』(79)、『パラダイス・アレイ』(79))も日本で公開されるという快挙を成し遂げ、ノリに乗った時期が始まったスタローンの栄光は尽きせぬものとなるのだった。