コンボイ

 

1978年日本公開 監督/サム・ペキンパー

出演/クリス・クリストファーソン、アリ・マックグロー

 

カントリー・ウェスタン、バンジョーだろうかリズミカルに音色が弾かれていく。地面は白い砂に覆われ、何も存在しない地平線の彼方から貫き通すように敷かれたただ一本の舗装道路。靄のかかるオアシスの中から浮かび上がる18輪トレーラーの前方に突き出たフロントグリル。フロントの上にはゴム製のアヒルの人形。

 

その車体の陰から一台のジャガーが追い抜こうとする。ジャガーはコンバーチブル、女性カメラマンが運転している。トレーラーの運転手と目が合い、目配せで会話をしている。女性は写真を撮る。途中でパトカーに出会ってしまったために彼女とははぐれてしまう。彼は名をラバー・ダックといった(クリス・クリストファーソン)。パトカーが去って行くと他のトラッカーたちとCB無線で交信し合いながら、次第に合流していく。ここで出会うのは黒人トラッカーのスパイダー・マイク(フランクリン・アジャイ)、白人のピッグ・ペン(バート・ヤング)だった。しかし、その無線に割り込んでくる声。

 

その話に煽られ、スピードもオーバーすると、その先でパトカーが一台待ち伏せしていた。これは紛れもなく罠だった。これを仕掛けたのはインチキ保安官ライル(アーネスト・ボーグナイン)。不適切なネズミ捕りで悪名高き保安官だった。

 

気分がしょげたところで食堂に立ち寄る三人。後からライル保安官がやってきて乱闘が起こる。殴る、蹴る、テーブルはひっくり返り、カウボーイたちもビリヤードプールの上でひっくり返り、それはもう大乱闘。隙をみて逃げ出すトラッカーたち。

 

トラッカーたちはパトカー全て配線をいじくってスターターを止め、喜び勇んで出て行った。ジャガーの女(アリ・マックグロー)も同乗することになった。手錠で動きを食い止められるも辛うじて(いとも簡単に)抜け出したライルは、一般客の車を借りては逃げ出していったトラッカーたちを追いかけるが、いきおい脱線して車をお釈迦にする。

 

別から応援に来た警官たちのパトカーに乗り、執拗に追跡する保安官ライル。その先は未舗装道路だった。走れば走るほどに砂という砂による白煙が巻き上げられ、たちまち視界を失ってしまう。18輪トレーラーたちが舞い踊るメリー・ゴー・ラウンド。ようやく抜け出して、ライルたちの乗るパトカーは二台のトラックに挟まれ、またぞろお釈迦。

 

無線でたまたま傍受したのか、次から次へとトラッカーたちが合流してくる。ただニュー・メキシコに向かうだけなのに、移動教会のバンまで紛れ込み、いつの間にかトラック約100台がこの行列についてきていたのだ。

 

ニュー・メキシコ州警察に応援を依頼、ヘリコプターに同乗するライル。その目線の先では数多のパトカーがバリケードを組んでいた。ところがこのトラック一団の先頭を走るラバー・ダックの荷物は爆発物だとわかり、バリケードが解かれる。回避に間に合わなかったパトカーはまたしてもお釈迦になった。

 

一台のピックアップが横に並行してついてきた。州知事の付き人がラバー・ダックにインタビューをしかけ、宣伝に利用しようとしているのだ。速度違反の過剰な取締り、石油価格高騰など問題を数多く抱えているトラック業界に、上院議員候補を狙う州知事は興味を示している。その知事が軍隊出動を要請され、それを抑えるために交渉に出たのだ。

 

この先のアルバカーキで宿泊施設を提供され、休息を楽しむトラッカーたち。スパイダー・マイクはおかみさんがお産だというので行列から外れたが警官の取り締まりにかかり、テキサスで拘留される。この状況を知った署内の管理人が、署内の無線から中継を頼んでマイクが捕まって暴行を受けたことを伝えた。トラックからトラックへ、西から東へ延々と伝えられていく。

 

知事と交渉していたラバー・ダックはその話を聞きつけ、交渉は残りの者に任せてアルバカーキからひとりで助け出しに行った。ところがみんなついて行った。目的の町に着いたトラッカーたちはGメンよろしく横一線にトラックごと並び始める。警笛を一斉に鳴らし、マイクを助け出すため、町へ向かって一目散に駆け出していくトラックたち。

 

これも一種のアメリカン・ニュー・シネマとみなせると思うし、実際その扱いとなっていると思う。警察の横暴とも呼べる取締処遇に対する不満が反抗心にとって代わるのは、言うまでもなく他の数多くの映画でも取り上げられているし、車を運転する者としてはスピード制限に対して反抗を露わにしたのは乗用車のみには留まらなかった。

 

なかでも注目すべきは、当時大流行していたCB(Citizen's Band/市民ラジオ)無線が使用されていること。現在でも日本では申請手続きも簡単で資格不要だったと思う。シリーズ『トランザム7000』(77、81)でも大いに活躍しているアイテムであり、これが使われて国内の物流業界でさえも交通状況報告や情報交換が可能なことで大いに役立っている。CB無線の傍受が可能なのは、機種にもよるが少なくとも近距離で、従ってこの映画の場合でもスパイダー・マイクが捕まった情報が拘留する場所からダックに伝わるまで何台ものトラックを転々としていく。

 

更に、今で言うパソコンの向こうの相手が一体どんな人物なのか分からないのと同様、保安官ライルが素性を偽ってトラッカーたちの会話に割り込むことも可能という、いかにもずるい方法も見出されてしまう。怪優アーネスト・ボーグナインのあからさまな悪徳ぶりではあるが、一方のトラッカー同士がいかに深い信頼関係にあるかも見えてこよう。

 

エンドで流れる主題歌「CONVOY」はこの映画のために歌詞が変更されたもの。というよりも、そもそもこのオリジナル曲を元にこの映画は作られたものだ。曲自体はビル・フライズが作詞、チップ・デイビスが作曲して書き上げたものだったが、今回の映画のためにこうして書き改められた。唄うC・W・マックゲイルはビルのペンネームだ。

 

オリジナル歌詞の内容自体はいわゆる専門用語ないしスラングが多く、さすがにどうにも意味が読み取りにくい筆者。基本はラバー・ダックとピッグ・ペンの無線のやりとりで成り立っていることぐらいは察しがついたぐらいだった。そして書き換えられた曲がエンドに流れる際には、シーンもそれに合わせてカッティングがなされており、スパイダー・マイクと唄われたらスパイダー・マイクが出てき、pigsと唄われたら豚が出てくるのもわかるのだ。

 

ところでサム・ペキンパー監督の特徴といえばやはりスローモーション映像(以下、スロモ)もひとつ。これは多くの映画人に影響を与えてきたし、『フェイス/オフ』(98)や『M : I‐2』(00)のジョン・ウー監督もそのひとり、習得したうえで更に尊大なものにしてきたことだろう。観てみると人が倒れる瞬間にスロモがかかっているのが殆どである。まるで事故に遭った時の噂の瞬間のようだ。殴られる瞬間もああなのか? スロモのシーンはもちろんそれだけではないだろう。クライマックスでトラックの数々が家屋に次々と衝突していく瞬間も然り。観客も含めた全ての者にとって衝撃と呼べるものが全て印象的に映るように仕組まれたクルマ。爽快なり。

 

少ないながらもまだ色々観ていくと黒澤明監督の名作『七人の侍』(54)でもかようなスロモがあった。村を盗賊から守るため用心棒を探しに行く村人たちが初めて見つけた武士、勘兵衛(志村喬)が相手する盗人(東野英治郎)が倒れる瞬間、また刀使いの久蔵(宮口精二)が絡んできた野武士を斬りつけた後の瞬間、少なくともこの二つのシーンだ。体内をほとばしる生命の大きな動き。サム・ペキンパーももしかするとこの映画を観たのではないか。そしてこれがスロモの源泉なのか。さて、共通ではあるものの果たしてそれはいったいどこで確認できることやら。

 

また、この『コンボイ』はサム・ペキンパー監督の晩年期にあたる作品である。かねてからアルコール依存症やドラッグ中毒に冒され、もはや誰もが手をつけられなくなっていた時期であり、撮影中でも倒れることが多かった。そこに盟友ジェームズ・コバーンが監督を代行していた。これはコバーンを助監督として話題になった。ペキンパー監督は1984年に他界したが、それまでTVシリーズを一本、日本未公開作品を一本作った。従って日本で封切られたのはリバイバルを除いても、どうやらこの作品が最後となったようだ。

 

筆者が入手したDVDではVHSと違ってカットがあった。車上でインタビューしているシーンが少なかった気がする。なんだかんだ、この映画を含めたトラッカー映画はこの時期、割と多く作られた。ピーター・フォンダの『ハイローリング』(78)やジャン・マイケル・ビンセントの『爆走トラック’76』(76)とか。残念ながら両者ともソフトの存在が怪しく未見なり。

 

マイナーだが『地獄のデビルトラック』(87)にも影響が丸見えであることと勝手に思う。それというのもトラックの行列がこの映画でも観られるのだ。そういうわけであの映画はある意味ごちゃ混ぜにしか見えないのだが。本題での「convoy」とは護送、護衛という意味があり、映画における俗的な意味としては神格化されている存在について行く集まりみたいなものだと揶揄できよう。だが伝説とされているラバー・ダックはその気がない。「知らねえよ、みんなただついてきているだけだ」、あくまでナルシストぶらず、なんという爽快か。

 

 

トランザム7000

 

1977年日本公開 監督/ハル・ニーダム

出演/バート・レイノルズ、サリー・フィールド