トーキー映画が始まってから既に久しく、我々もすっかり音響に対してもセリフに対しても潤沢に恵まれている。そうした中で筆者もたまたまだが、10数年前にようやく活弁士つきでこの無声映画を鑑賞することができたことがあった。以来、活弁付きの映画上映会にも足を運ぶようになったこともあった。それにしても活弁士を演じている再現シーンも案外沢山見かけたものだが、一方で実際の活弁士の活躍の場に稀に遭遇する機会の少なさを改めて実感してもいる。

 

この時期こそ世界大恐慌、路傍を佇むばかりの名もなき浮浪者。定職にも就けず、寝る場所もない。そんな彼が一人の美しい女性と出会う。街角でただただ花売りを続ける彼女の眼が見えていないことに男は気づく。彼はなけなしの小銭で花を彼女からひとさし買う。彼女はその花を男の服の胸に挿す。二人は静かに手を握る。ところが彼女はその男とは別の紳士と勘違いしていた。だのに男はその女性のために仕事を見つけて金を作る。そのうえ彼女の眼は手術で治ることを知り、やはりもっと金が要るので彼はボクシング試合で賞金を狙ったが空振り、そのどん底に大富豪と再会し、どさくさに紛れて強盗を働いた罪を着せられながらも金を彼女に手渡す。出所後、同じ街中に戻る男は開店した花屋で彼女を見つける。男に金を恵んであげようと彼女はその手で彼の手を握る―。

 

チャップリンはトーキーを嫌ったという。全ての表現は体で表すべく、あらゆる手法を通して戦後の不況をもがくように生きる観客に喜び、怒り、哀しさ、楽しさとそして夢も与え続けてきた。例えば盲目の女性との出会いのドラマが現代に作られても商業的でしかなくなるが、何もなかった時代にこのドラマがどんなに目新しかったか。冗長になりがちなトーキーと違い、このような愛情表現に言葉は要らないことをチャップリンは知っていた。

 

 

街の灯

1931年日本公開

監督・出演/チャールズ・チャップリン

出演/バージニア・チェリル

 

※チラシ画像は1981年再上映時のもの