チャールズ・チャップリン。

 

この映画までの作品は全て約20~30分の短編だった。そしてこの映画が初の長編となり、約60分。であるそれにしても親子愛のぎっしり詰まった名作であることは周知の通りで、捨て子の赤ん坊を育てる羽目になった浮浪者、その5年後にはすっかり可愛らしい子供に育つ。しかし孤児院に連れて行かれることになり、育ての親と役所員との間で子供の取り合いになる。子供をクルマで連れて行かれ、階上の父親は天窓を抜け、屋根を伝って追いかける。父親は屋根からクルマの荷台に飛び降り、その荷台の上で役所の公務員と取っ組み合う。役所員を追い払い、愛する我が子を取り戻した育ての親。

 

チャップリン自身も2歳の時に両親が離婚、自身は母親に引き取られ育てられてきたという。ここに描かれる父子愛はチャップリンが持つ父への憧憬ということになるだろうか。

ここでのクルマとはトラックだ。この荷台の上で二人の大人が取っ組み合い、この荷台上の格闘を並行して綺麗に撮影しているのだ。わずか30秒足らずのシーンだが、ここにカー・アクションの原点があるのではという気さえした。もっともこの大正時代という古きにまで遡るとなると、チャップリンのみならずバスター・キートンもいる。ハロルド・ロイドもいる。彼らもカー・アクションはふんだんに利用した。だから原点をこれと特定するのはなかなかの至難の業だ。それでもそのうちの一本と数えることは可能だ。

 

同じチャップリンの映画で短編だったクルマ映画がある。チャップリン自身は車には乗らない。子供自動車レースが開催され、沢山の観客が集まり、さらにそこにはフィルム・カメラも置いてある。その撮影中にカメラとクルマレースコースとの間に浮浪者が割り込み、次々とポーズをしてみせるだけの「なんだそりゃ」的お笑いを取り続ける短編サイレント映画。タイトルは『ヴェニスの子供自動車競走』、1914年の映画であった。日本公開は不詳、ただ未公開のようではあった。今ではYouTubeでも映像が確認できる。恐らくクルマ映画としてはこれが最古なのではないかと。お決まりの服装、すなわち山高帽、ちょび髭、サイズが大いに違う大きな服、ドタ靴もこの『ヴェニス~』で初めて登場、これが以降の作品群で定番になった扮装である。

 

擬似家族をテーマにし、父子愛を深く見つめ、その愛の強さを屋根渡りとカー・アクションで表現し、その全てをサイレントで力強く見せたチャールズ・チャップリンの渾身の力作だ。ここから始まるとして、全ての映画人はここまで昔の映画の多くから何かを学び、そして現代に受け継がれている。

 

 

キッド

1921年日本公開

監督・出演/チャールズ・チャップリン

出演/ジャッキー・クーガン坊や

 

※画像は1975年リバイバル上映時のもの