今日夕刻、筆者は松本清張の小説「霧の旗」を読み終えたところである。1959年に初めて連載発表された小説である。

 

兄が殺人事件の容疑者にされ、死刑を宣告された。

妹は兄の無実を信じ、九州からわざわざ東京くんだりまで訪れ、日本でも有名な弁護士にこの裁決を覆してほしいと懇願した。

しかし弁護士はこれを断った。高額な弁護料を支払う能力がないようであれば諦めてもらうしかないということだった。

さらに悪いことに刑務所に入れられた兄は獄中死を果たしてしまう。汚名を着せられたままに終わってしまった兄の報復を妹が果たそうとする。

 

この小説が実は二度も映画化されている。

まずは1965年の松竹映画。

 

 

監督は山田洋次。この作品のしばらくのち、1969年以降からシリーズ『男はつらいよ』を撮影、主演渥美清が病死するまでの健在時において全部で48本、逝去後の特別編を監督、さらに2019年は『お帰り 寅さん』と、全てひっくるめて50本を監督してきている。

またコメディや家族ドラマが多い山田洋次監督だが、サスペンスはこの一本しかないという稀有なジャンルの作品である。

 

主演は倍賞千恵子。現在セコムのCMに出演しているあのベテラン女優で、最近作では『PLAN75』という映画で大きな話題を呼んだ。松竹歌劇団出身。シリーズ『男はつらいよ』でも主役の寅次郎の妹さくらを全シリーズにわたって演じてきた女優でもある。更に言えば宮崎駿監督『ハウルの動く城』でも声優として主人公ソフィーに命を吹き込んできたあの人である。

 

それにしても意外過ぎる。映画デビュー当時から恐らく清楚な存在であったはずの(映画の中の歌劇団のダンサー踊り子を演じたところのフォトも見かけた)倍賞千恵子だが、この映画では最後まで、死んだ兄の仇討ちのために、兄の弁護を下らぬ理由で断った弁護士への復讐を果たす役を演じ切る。この復讐がまたオイタであった。弁護士役は日活映画でも活躍していた滝沢修、兄を演じたのはテレビシリーズ「太陽にほえろ!」の山さん、露口茂だった。他にも新珠三千代という名女優も出ていた。松竹DVDでも発売されている。

 

 

次に二度目の映画化の東宝作品。1977年。

 

 

この映画はあいにくと観れていないような。

重宝されているせいか観る機会がなかなか持てない。

 

70年代から各映画作品にゴールデン・コンビとして出演し続けた山口百恵と三浦友和の第7作めにあたるという。他にも『泥だらけの純情』や『風立ちぬ』、『春琴抄』や『古都』などがあった。『古都』は最近でも松雪泰子主演で確か三度目の映画化になったかな。1作目(1963年)は主演が岩下志麻であった。山口百恵に至っては引退記念作品となった。市川崑(こん)監督、1980年。

 

本作の場合においては、登場人物の相関関係の設定はおよそ変更されてはいるらしいが、この映画には原作の良さや出演キャストの豪華さが大いに話題を席巻、今や伝説となっている。なお、最終作にあたる『古都』の上映のタイミングだと思うが山口・三浦の結婚が発表されたのかしら。『霧の旗』では三浦が山口にプロポーズするというシーンもあるというほどで、筆者には全12作しょっちゅうプロポーズしまくりだったのではという憶測が流れた。これではしつこい。

それにしても長年共演していると出会いの場も他にないせいか、二人の間柄はうまくいった結果だったのかな。とにかく素敵なニュースだった。

 

キャストには主演のお二人と兄役には関口宏、かたきの弁護士役に佐藤浩市の父親である三國連太郎が務める。監督は西河克己、黄金時代の日活映画作品の監督常連のひとりで『絶唱』や『伊豆の踊り子』など日活所属時に一度撮っては同じ文学作品を70年代以降に東宝でも今一度撮るなどの特徴があった。

 

とにもかくにも、内容の結末は意外とショッキングで、女は怖いと感じた作品でもあった。クリント・イーストウッド監督・主演『恐怖のメロディ』でも女ストーカーが出ていたもので迂闊に女には近寄れない気がしてならないのであった。

 

次回の記事アップの日程は未定です。

また近いうちに。