ここ10年ぐらい筆者が思っている事。10年ほど前は日活映画を中心に研究していたが、たくさん作品がある中でふと気がついて研究を始めた。1964年度作品、日活映画、石原裕次郎主演『赤いハンカチ』である。監督は劇場版『宇宙戦艦ヤマト』の舛田利雄だった。
日活映画は筆者が調べた限りでは、或いは研究をいったん終了してからしばらく経っての些細な記憶に過ぎないが、1950年代を中心に日活直営の映画館でかかっていた日本映画群で、石原裕次郎、吉永小百合、浅丘ルリ子、高橋英樹、二谷英明、小林旭、渡哲也、宍戸錠などを映画スターにしてきた。殊に石原裕次郎は先だって亡くなったばかりの元東京都知事の石原慎太郎の弟でもある。
日活映画には歌謡映画など様々なジャンル映画があり、そのうちのムード・アクションというのもあったそうで、これは石原裕次郎のためのジャンルと言っても過言ではないようだ。二十代には青春映画を撮り続けてきたが、三十代に入ると大人の男と女の恋愛劇を中心に置いてサスペンスをムード良くして展開させたジャンルへと変化を示していったようである。その一本が『赤いハンカチ』だ。
タイトルは歌手でもあった石原裕次郎の曲名と同じで昭和32年に大ヒット、その曲を映画化したのが本作である。
ギターの音色が奏でられ、早速ムードを作り上げる。ラテンギター名手伊部晴美によるもの。ちなみにシングル曲と劇場版と、イントロが異なることから2バージョン存在することになる。
夜中、麻薬の取引現場にふたり、張り込み刑事がいた。三上(石原)と石塚(二谷)だ。
三上は優秀な成績で警察学校を卒業、さらにオリンピック候補の射撃選手でもある。いっぽう、石塚は学校も出ておらず貧乏な家庭の出身であった。
怪しい人物を見つけ、鞄を持ったまま逃げ出したそいつを二人で追いかける。片隅のおでん屋台に鞄を置いて行かれるが、それに気づかぬまま怪しい人物は事故で死ぬ。おでん屋台の店主に目をつける三上たち。
早速おでん屋の店主(森川信、『寅さん』初代おいちゃん)を取調室に招き入れた刑事たち。店主は頑として口を割らない。店主には娘・玲子(浅丘ルリ子)がいる。
店主が護送車に乗ることになった。石塚刑事が乗せようとしたところを店主が石塚から拳銃を奪い取る。発砲を続けた店主は遠くにいた三上に撃たれて死んだ。容疑者或いは重要参考人を死なせたとして二人は査問会議にかけられ、処遇を受ける。玲子はただ一人になった。それから四年。
北海道のある採石場で働く、流し(流浪の身)となった三上。そこへ横浜から土屋刑事(金子信雄)が、三上を横浜へ連れ戻しにやってきた。石塚は警察を辞め、実業家に転身したという。そして彼は結婚し、その妻が玲子だというのだ。これに憤りを抱いた三上は横浜へ戻る。
そこでのバーでギターをつま弾いて歌い続ける三上。しかしシマを荒らしたとしてヤクザに絡まれ、病院送り。施しを手伝ったのは、寿司屋の春吉(桂小金治)。過去に世話になったお礼がしたいと願い出た春吉は、しかし情報集めに出たきり戻ってこなくなった。
粗筋は結末に触れるといけないので、以上にしておこう。
では、表題の通り、『踊る大捜査線』とはどこに共通点があるというのだろうか。
こればかりはくれぐれも記しておくが、『踊る大捜査線』の各資料には『赤いハンカチ』については触れていない。つまり、これは筆者の憶測に過ぎない。共通点があったからといって、この作品で脚本を務めた君塚良一やプロデューサーを務めた亀山千広や東海林秀文らが、かの『赤いハンカチ』を観て参考にしたとは限らないのである。あくまで偶然だろうとは筆者は思うが、どうしても記事ネタ、或いは評論ネタにしないわけにはいかなかったので、あらかじめご理解頂きたい。
劇場版へと続いた『踊る大捜査線』だが、ここでは97年1月からフジテレビ系列で放送されたドラマ版、スペシャルドラマ版をベースにして評論を展開してみようと思う。ちなみにスペシャルドラマでは日本のテレビドラマ史上初めてステディカム撮影を採用したと思われる。
まず3枚目の画像の通り、背景が赤い。「赤」の共通点である。
次に第1話の冒頭では、早速取調室のシーンから始まる。そこに流れるBGM。ギターだ。(筆者の営むYouTubeでも同番組サウンドトラック「取調室」をUPしている)
同じく第1話で青島刑事(織田裕二)が湾岸署刑事課へ着任すると、恩田すみれ刑事(深津絵里)が課内で事情聴取を行っている。
「どうしておでんを盗んだ?」
と聞いている。テレビではなんとなく聞き流してしまいがちだが、ノベライズ小説では第1話冒頭の取調室のシーンはなく、のっけからこの台詞で始まっており、「なんだそりゃ」と思わせる。
『赤いハンカチ』での取り調べる相手がおでん屋だったことから、この作品において少なくともギャグにすり替えているのだ。
また、『赤いハンカチ』の石原裕次郎は衣装の緑色をしたジャンパーを着ている。よく見ると袖の部分は茶色だが、ベースは緑色であった。そうして見比べると、青島刑事の普段、着用しているコートも、ノベライズ版曰く「オリーヴグリーン」である。
『赤いハンカチ』の二谷英明演じた石塚刑事は、三上刑事に対してコンプレックスを抱いていた。ここは『踊る~』の室井慎次(柳葉敏郎)のかねてから持っているコンプレックス(東大出身と東北大出身と比べられている)へと移行しているかもしれない。警視庁や警察の中では、常に嫉妬で渦巻いているのだろうと想起させる。
こうして読んでみていくと、『赤いハンカチ』のキャラクター設定を大幅に書き換えていってはいるが、その一方で拝借しているようにも考えられる。
まだある。寿司屋である。
これは『踊る大捜査線 歳末特別警戒スペシャル』に登場する。97年12月30日に放送され、視聴率も25.4%を叩き出した名作である。内容が忙しいので粗筋は書けないが、これは劇場版よりも面白い。ちなみにこれらの放送当時、筆者は脱サラする前だったし、残業も忙しかったのでこのドラマは観たことがなかった。
ここではある小学校で傷害事件が発生し、美人教師がナイフで切りつけられた。そこに寿司屋がある形で絡む。『赤いハンカチ』でも寿司屋は登場、まさかこんな形で書き換えられるとは。
ドラマ版のDVDソフトは各巻とも入手困難である。レンタルビデオ店でもあるところはある。『赤いハンカチ』はレンタルが難しいらしい。どうしても読者各位にも確認しにくいことだが、『踊る~』ファン各位にはどうしても確認してみてほしい。
YouTubeではスマホ限定だと思うが、「赤いハンカチ」と入力検索すると購入もしくはレンタルができるサイトへとヒットできる。本編97分、まるまる視聴できるようである。
劇場版に至っては、小泉今日子演じる犯人の笑い声がこだまする有名なシーンも『赤いハンカチ』にあてはまる。三上刑事が再び玲子の家を訪れる時に三上の脳内に響き渡る玲子の笑い声。あのエコーが全く同じなのだ。
以上である。
これだけ? と思うかもしれないが、映画の作り方というのはリメイクでない限り、こういうものなのである。共通点が目立たず、案外にして判りにくいものなのだ。
『踊る~』の有名なエピソードに、タイトル名の由来(『夜の大捜査線』と『踊る大紐育』)や『天国と地獄』の転用、松本清張『砂の器』があるが、『赤いハンカチ』も同様に1949年『第三の男』(監督:キャロル・リード)から参考されているという話も聞かれる。ここでは設定が大幅に変更されており、登場人物の人数を同じくしている格好であった。
『第三の男』本編ではカメラを斜めに構えたシーンが多用されており、『赤いハンカチ』のクライマックスでは少しだが同様にカメラを斜めに構えて心情の揺らぎを表現している。また最も有名なラストの並木道のシーンが『赤いハンカチ』でも模倣されてもいる。
人は誰でも映画を観てそこから学び、自分の記憶を参考にしながら物語を綴っていくことができる。君塚良一をはじめとする各者が何を観て、映画を学んだのか、それが判っただけでも筆者には喜ばしいものであった。あくまで推測の域を出ないが。
筆者のYouTubeです。↓
最近は2曲。
『インセプション』
『ハリー・ポッターと賢者の石』ヘドウィグのテーマ
どうぞ聴いて遊んで行ってください。