この二、三年、不思議なのだが自分の映画への見方が随分と変わってきている気がする。上映当時は「あまり面白くなかった」ものが見方が変わると「これは深い」と思うようになってきていたりとかするのである。

 

チラシ等画像の掲載は割愛するが、今回は『踊る大捜査線 THE MOVIE』シリーズの内、『1』と『2』の鑑賞についての記事を簡単に書いてみようと思う。

 

1997年1月にフジテレビで劇場版よりも面白いと思っていたドラマ版が放送された。その翌年に『踊る大捜査線 THE MOVIE』が公開され、その5年後の2003年には『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』が公開された。

 

『1』では、これから観るに際して知っておいた方がいいだろうというのがあって、黒澤明監督作品『天国と地獄』である。『1』上映当時ワイドショーでも話題になっていたオマージュ手法であって、これも幼児誘拐事件を取り扱った映画である。出演も三船敏郎、仲代達矢、山崎努の顔ぶれである。

 

『1』のあらすじは、警視庁副総監吉田氏が何者かに誘拐され、脅迫電話が自宅にかかってきたことから署に通報され、お台場湾岸署に特別捜査本部が極秘裏に設置。情報が所轄へと下りてこず、やきもきしている間にも湾岸署では署内窃盗事件も発覚。さらに管轄の川の土手で水死体が発見され、遺体は司法解剖へ回されたが、鑑定では自殺ではなく他殺と推定、それというのも遺体の胃の中から白熊の人形が出て来たというのだ。そうして初動捜査が始まる中を青島俊作刑事たちはどう事件に振り回されるのか、最悪の3日間がこれから始まる。

 

実は筆者はこの所有DVDを最近観たのが10回目であった。それまで約6年もの間観ておらず、内容もさすがに覚えちゃいるが、改めて観てみると脚本・君塚良一の用意したとされるギャグの数々は相変わらずたいしたことはないが、三つもの事件を抱えた内容のプロットの重厚さには『2』も含めて圧巻であることに気づかされている。

 

『1』では現場刑事と本庁上層部との軋轢が取り扱われており、辛く言えば天然ボケと屁理屈の戦いである。『2』では所轄の土地勘という知識が大いに役立つ点で、湾岸署にみなぎっていた正義感がクライマックスに溢れ出る。本庁の負けだ。

 

『1』ではいかりや長介が日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞している。どこがポイントになったか、よくわからなかったが、鑑賞10回目を迎える今となってはまあまあわかったような気がする。その説明が映画にはなかったから、要するに説明不足な点が多い映画でもあった、とは今更ながら思う。

 

青島刑事がいびきをかいている。このいびきが当時の映画館ではどうしても聞こえないから不満だった。「聞こえないでどうするのかな」と思っていたし、上映から22年を経てこれを許すような時期にあるような今、このギャグは映画史に永遠に語り継がれる名シーンになっているのではという気さえするのであった。それにしても全編通して音が低いのは寂しい。

 

シナリオも当然のように難しい。筆者はサントラが気に入っているが、この映画群もそのうち気に入るんだろうなと予測はしている。まだ納得がいかないのにだ。三つもの事件を矛盾なく、置き忘れもなくしっかりと最後まで描き切る。その完璧主義たる完成度には今でも感心するのである。ギャグを気にしてばかりいると、「面白くない」感想にどうしても支配されてしまい、「駄作」と呼ばわることだって危ういのであった。

 

『2』のあらすじはどうかというと、かつては何もなかったお台場もやがていろいろな建物が建ち並ぶようになり、いよいよ観光名所になってきた。湾岸署も観光案内係を設置し、毎日が観光客で忙しい。それでも窃盗事件は起き、新手の「咬みつき魔」事件が発生、さらに殺人事件も発生する。当然のように湾岸署には特別捜査本部が設置され、湾岸署員たちも相変わらず所轄として差別されては振り回される。今回はネゴシエーター、すなわち交渉人も駆り出された。

 

まず公開当時は驚きだったが、映像本編の画面サイズが冒頭はスタンダード・サイズから始まり、やがてヘリコプターが登場すると画面サイズは一気に広がり、シネマスコープ・サイズへと変化する。これは凄かった。『1』ではビスタ・サイズで撮られており、今度はシネマスコープでますます映画らしくなった感触があった。今ではソフトでのみの視聴しか頼れないのが残念である。しかしプロジェクター上映ではどうかなというのもあるんだけど。

 

細かに登場するギャグもたいして期待しないでいいし、逆に期待しすぎていると低得点を与える結果になってしまいかねない、そんな不安もよぎる。交渉人でさえも女性を相手にしたら敵わないという遠回しなギャグまで用意されているが、そのギャップを楽しんでもらいたかったようである。どうしても笑えないのである。

 

ギャグではなく、これが本当の人間の姿であるとも思いはした。人間だれにも弱みがあり、不安があり、短所がある。それをギャグに仕立てるのは、いざやってみれば難しいかもしれない、否、そう考えたところでつまらないものはつまらないと一蹴する人も多数派であったと思う。それにしても細かいギャグはこの作品も多かった。

 

確かにギャグには飽きた。だけど物語には重厚さが加わって、気に入りでは少しではあるが、それは認めている。

 

『3』、『THE FINAL』やスピンオフもあるので話題力は相当なものとしてフジテレビも大いに期待したのではないかと思う。このシリーズは話題性の面でも内容の面でも相当な強者であった。これらの作品はまたの機会に記事にでもするかな。

 

筆者のYouTubeでは2、3日前に『踊る大捜査線』サントラを2曲載せました。↓

「Moon Light」は特に気に入っています。映画、サントラ共に凄いというのは滅多にないように思います。どうぞご訪問ください。