ユーズド・カー
1980年日本公開 監督/ロバート・ゼメキス
出演/カート・ラッセル、ジャック・ウォーデン
日本の自動車メーカーの海外進出が著しく発展した時期の影響が多くの映画に反映されてきている。この映画も同様の主張性が見て取れるが、そこはそれとしてただ単純に観ていくだけでも面白い。そして今作はかなりコアなファンが時折点在しようもある作品だ。実際DVDソフトもあまり見かけない現状だと思う。
中古車販売のお店は「ニュー・ディール中古車販売」。店主はルーク・ヒュークス(ジャック・ウォーデン)だが心臓病を患っているからあまり無理はできない。メーターを戻したり、外れかけのリヤバンパーをガムでくっつけてインチキな補修をしたりとあまりにも在庫車管理が杜撰な販売員、ルディ・ルソー(カート・ラッセル)。ルディには上院議員になる夢があるが、選挙候補になるためにはどうしてもお金が要るし、このポンコツ中古車だけの販売店で一生を終えるのは御免だった。同じく従業員のジェフは迷信深く、赤い車は縁起が悪いと言って絶対に乗ろうともしなければ『13日の金曜日』(80)の影響で(らしいが)梯子の下は危険だと信じて絶対にくぐらない(それともジェイコブズ・ラダーか?)。ガレージでガスバーナーや塗料スプレーを点けたまま居眠りする整備士ジム。そもそもこの販売店は消費者保護機関から保護観察を受けており、あまりの杜撰な商売のために問題視されていた。要するに経営逼迫ゆえの詐欺商法だったのである。
この窮地転落を心待ちにしているライバル中古車ディーラーが道路を挟んだ向かいに、店主はとにかく商売にうるさいルークの双子の弟、ロイ(ジャック・ウォーデンが二役を演じているが、これがまたお見事)。心臓病で兄が死んでしまえばその店舗の敷地を相続でき、全米一の中古車ディーラーになれることを待ち望んでいた。そこでロイはルークの店に刺客を送り込む。その新入りの解体屋は他のセールスマンたちの隙を見てロイに試乗に同行させた。しかし解体屋は乱暴運転でルークの心臓を麻痺させてしまい、苦しんで戻ってきたルークの最期をルディは見送ったのだった。
ルークの手に持っていたのはロイの店名が入っているワッペン。一方でロイは双眼鏡でルークの店の様子を窺いながら彼の死を察知し、翌朝に弁護士と一緒に訪問しようとしていた。ルディ、ジム、ジェフたちはルークの死体を愛車エドセルに乗せたまま地中に埋葬した。彼の死を知られてはいけないのでマイアミに釣りに出かけたと口裏を合わせる。そして彼らには次の仕事、電波ジャックがあった。
アメフトのライブ中継で最も視聴率が集まりやすい決勝タッチダウンが放送されるタイミングを狙って映像を割り込ませ、ライブ映像で自店のCMを流して来客を促すのだ。ハプニングで放送禁止用語は出るわ、女性のドレスがはだけて丸い胸がモロ写りになるわ、翌日になってみたら大盛況に(この日の飼い犬トビーの演技がまた素晴らしい)。
これに対抗してロイたちは店舗敷地内にサーカスのイベントを用意して来客を促す。幾らなんでもちょいと派手じゃないかと周りは諭すが、「競争の自由だ」といって一向に聞かない。ところがまたルディたちは今度は店舗にイルミネーションをふんだんに飾りつけ、トップレスの女性ダンサーたちを車の上で踊らせるという豪華なディスコを用意してくる。「インフレを剥ぎ取れ!」とセールストークをぶちまけるルディ。トップレスに目を奪われたドライバーたちは次々と追突事故を起こす。この状況を写しながらロイはこの店を侮辱し、そのままCMに流そうとしていたのだ。
ルディ達の今度の目論みは衛星放送を利用し、大統領演説の放送にまたCMを割り込ませるというものだ。そこにルークの娘バーバラが赤いトヨタ車に乗ってやってくる。彼女は父ルークとは疎遠になっていて10年も会っていなかった。マイアミに釣りに行っていることになっていた話のままで父の死をどうしても伝えることがうまくできない。同時に父の店がここまで大変なことになっているのをCMで知られたくないために、テレビから彼女を遠ざけなければならない。そのため彼女を食事に誘うが、テレビを見させない結果がルディとバーバラの恋の契約締結となる。ジャック電波はおよそ高級とも呼べる中古車を高いといってライフルを放つシーンを映す。さらにダイナマイトまで仕掛けられ、大爆発も起こる。これを見ていたロイは大憤慨。敵地に乗り込んでジェフと乱闘。そこでロイはルークの死体のありかを察知する。
ルディの家でひと時を過ごしたルディとバーバラ。整備士ジムから電話で知らせを受けたルディは現地へ急行。残ったバーバラはその通話記録を聞いて初めて事実を知った。翌朝、ロイは警察を呼んで死体の入った車を掘り起こすのを手伝わせようとした。しかしルディたちはすでに先回り、ルークの車を衝突事故に見せかけた。このあまりにもひどい状況に娘は怒り、ルディたち三人をクビにし、この店舗の跡継ぎとなった。しかしバーバラのCMに犯罪となる誇大広告を仕組ませたロイ。バーバラの店舗には全長1.6㎞のクルマが在庫してあるというムチャクチャな解釈を伴う広告が結局裁判沙汰となる。ルディもその裁判沙汰を聞いて法廷へ向かうが、バーバラは追い込まれていた。ルディは彼女を救い出すためにどんな対抗策を講じるのか。
筆者にはこれが最も解釈が厄介な映画だったかもしれない。大団円で何台ものクルマが大草原を走破しようと群がる最中にカート・ラッセルが車輌から車輌へと飛び移り、かつてジョン・フォード監督の『駅馬車』(40)で伝説のスタントマン、ヤキマ・カヌートが見せた名アクションを再現しているのは至極有名な話。
舞台は恐らくデトロイトだったと思うが、中古車販売店が集中している地域での中古車販売競争だから先ずは自動車生産が最も盛んに栄えていたデトロイトが思いつかれるところ。看板が「ニュー・ディール中古車販売」とあることから大統領がフランクリン・ルーズベルトの時を知っているといいらしい。1930年代の政府が経済市場に介入することがないとする自由主義経済から逆の社会民主主義経済へのシフトをもって世界恐慌による不況時代の克服を目指した。結果は賛否両論あるが、この方針に影響されたシナリオ作りになったようである。何しろ中古車が次々と爆破するのもそのデトロイトはあちらこちらが元々第二次世界大戦が始まる前までは枢軸国に対する民主主義の兵器庫として政府が使わせていたというのだ。
規制がある程度制限されることでは独占禁止法もニュー・ディール政策も変わらない印象だが、具体的にはともかく自由競争を益々激戦に陥れたことに変わりはなく、ましてやオイルショックを経た後の日本車の襲来によってその激戦は更に大きな火花を散らせ、しまいには労働力の確保すら難しくなったのだった。そうした経緯を見てきた映画人も少なくないのが当時の傾向だったのではないか。
更に言えば、この販売合戦はある意味においてパロディみたいなものだと思う。テレビや映画で特別見かけたものではないが、誰もがどこでも見かける販売呼び込みのシーンの数々をこうして再現したようなものと思うし、更に中古車セールスマンを極端な方向へとパロディ化したというようにも筆者は解釈している。モノは言いようとはよく言うが、全長1.6㎞の車なのか、並ぶのか、どっちでもいいような極端な解釈の是非を法廷で突きつけるに至る誇大広告もしくは詐欺行為、賄賂などあらぬ行動をパロディ化して自動車業界を茶化し、電波ジャックを大統領演説放送中に行ったりするなどと政府サイドの活動を皮肉るよう全てをひっくるめて茶化す。ゼメキス監督としては大人チックなシーンもあるなど、そこまでして販売したいのか、競争に打ち勝ちたいのか、と皮肉っている。
なんだかんだ言ってややこしい国だが堂々と茶化すことができる点でもアメリカ合衆国は相当に自由な国のような印象を与える。日本じゃこんなものは到底作れないと思うのだが何かあったかな。そしてこの作品はソシアル・パロディとも指摘されている。ソシアル・パロディとはこういうものをいうのだなと思った。かつてそれまでの映画には表現されえない社会での出来事をパロディにしているという、チョイスしようと思うとかなり難しい取捨選択が迫られそうな作業が映画人を待っている気がする。よほど日本人がいい加減じゃないといけない気がするなんていうと怒られる。
ああ、そうか、現実に起きた話をパロディにしているのか。