ムンクが聴いた「叫び」の正体は? | Yuri's blog; Sa-dou, Piano, Opera, Investment, Southeast Asia, Mideast,

ムンクが聴いた「叫び」の正体は?


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競売大手サザビーズ(Sothebys)が5月2日に米ニューヨークで競売にかけるノルウェーの画家エドヴァルド・ムンク (Edvard Munch) の代表作「叫び」(The Scream)は落札額が8千万ドルを超えると予想されていて、世界中の耳目を集めているので、インドネシアの視点から作品の時代背景について書いてみたいと思います。


この絵は、ムンクが感じた幻覚に基づいており、彼は日記にそのときの体験を次のように記しています。


“私は2人の友人と歩道を歩いていた。太陽は沈みかけていた。突然、空が血の赤色に変わった。私は立ち止まり、酷い疲れを感じて柵に寄り掛かった。それは炎の舌と血とが青黒いフィヨルドと町並みに被さるようであった。友人は歩き続けたが、私はそこに立ち尽くしたまま不安に震え、戦っていた。そして私は、自然を貫く果てしない叫びを聴いた。”


この毒々しいまでに赤い夕日は、1883年の夏から一年にわたり世界中の人々が見て驚き、気味悪がった記録があります。さてその正体とは。


1883年の大噴火


1883年5月20日、スマトラ島とジャワ島の間に位置するクラカタウ島で水蒸気爆発を伴う噴火が始まり、同時に発生した地震は数年にわたって観測された。8月11日、同島の3つの火山が噴火した。そして8月27日月曜日バタヴィア時間午前10時02分(現地時間9時58分)に大噴火を起こした。噴火で発生した火砕流は海上40kmを越え、スマトラ島ランプン湾東部の Ketimbangで人間を殺傷した。また、噴火により発生した津波が周辺の島を洗い流し、航海中の船を激しく揺さ振った。死者は36,417人に及び、2004年にスマトラ島沖地震が起こるまではインド洋における最大の津波災害であった。この噴火は海底ケーブルによって全世界に報道された、史上初の大規模災害でもあった。


噴火の影響

噴煙の高さは38,000m(48,800m説有り)。爆発音は4,776km先(インド洋のロドリゲス島)まで届き、人間が遠く離れた場所で発生した音を直接耳で聞いた最長距離記録となる。衝撃波は15日かけて地球を7周した。5,863km離れた東京で1.45hPaの気圧上昇が記録されている。津波は、日本では鹿児島市の甲突川にも押し寄せ、17,000km離れたフランスのビスケー湾の検潮儀にも記録された。成層圏にまで達した噴煙の影響で、北半球全体の平均気温が0.5~0.8℃降下し、その後数年にわたって異様な色の夕焼けが観測された。画家エドヴァルド・ムンクの代表作“叫び”は、この夕焼けがヒントになっている。アメリカの児童文学作家W・P・デュボアはこの噴火を題材に長編小説『二十一の気球』を書いた。日本では1884年の歴史的な大凶作をこの噴火と関連づける向きもある。


ということで、地球の反対側の火山噴火によって起きた異様な夕日がムンクに芸術的なインスピレーションを与えたのでした。


クラカタウ火山についてはいろいろエピソードあるので、もう少し続けます。


416年と535年には、1883年以上に大規模なクラカタウ火山の噴火があったと推定されていて、ヨーロッパと中近東の歴史はそれにより大きく変わったらしい。たとえば、416年の噴火により地球の気温が下がり、緯度の高い土地に人間が住めなくなり、西ゴート族、東ゴート族と呼ばれる人々が南下してヨーロッパに流れ込み、ローマ帝国は崩壊したとか。535年の噴火の影響で、同様の理由で東ローマ帝国の支配力が弱まり、中近東に部族単位の政治力がつき、そこに預言者ムハンマドが登場して6世紀後半にイスラム政治勢力が形成されたとか。なお、わざわざ「とか」とつけているのは、大噴火の証拠が十分ではなく、歴史学説の一つであるという意味です。


では現在のクラカタウ火山はどうなっているのでしょうか。1883年の火山で千数百メートルの山容のすべてが吹き飛び、海底火山となってしまいました。しかしながら、この火山の場所は世界で一番早く地盤が互いに離れる場所と言われているだけあり、造山活動がとりわけ盛んで今ではまた海上に顔を出しています。


新山の名前は、アナック・クラカタウ (クラカタウの子ども)。現在は、月に50センチ、年に6メートル高くなっていて、二百メートルを超えてだんだんと立派な火山に育ってきました。


さて、世界を再び驚かし、世界の生物を寒気の中に閉じ込める次の大噴火はいつ起こるでしょうか。


そこに居合わせたくない人も、ムンクの「叫び」を鑑賞しながら、世にも不思議な自然の暴力的な雰囲気を追体験しましょう。



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現在のアナック・クラカタウ