🔄 前回までの流れ
ここまで、日本が置かれている二つの拘束を見てきました。
一つ目は、敗戦後の軍事・外交構造です。
二つ目は、減税、給付、防衛費、社会保障費、国債費が絡み合い、どの選択肢を選んでも別の負担が膨らむ国内財政です。
日本は、円安を止めるために金利を上げれば、国債費と民間経済が傷みます。
金利を抑えれば、円安と物価高が国民生活を傷めます。
そして為替介入を行えば、外貨準備として保有するドル資産を動かさなければなりません。
そのドル資産の中心にある米国債を、今度は米国自身が売り続けなければならなくなっています。
今回は、米国債を支える新しい仕組みとして進められている、デジタルドルとステーブルコインの構造を見ていきます。
第3回
🌐 米国債を支えるデジタルドル
世界中の利用者を、新しい買い手に変える仕組み
日本だけが借金に苦しんでいるわけではありません。
米国もまた、国債を発行し続けなければ、政府機能を維持できない状態にあります。
米国債は世界金融の中心です。
各国政府、中央銀行、銀行、年金、投資信託、企業が保有し、ドル金融の担保として使っています。
だからこそ米国債が揺れれば、米国だけではなく世界が揺れます。
しかし、米国債を買う側にも限界があります。
外国政府が無限に買い続けるわけではありません。
金利が上がれば米国政府の利払いも増えます。
米国は国債を売りたいのではなく、
売り続けなければ国家運営を維持できない
状態にあります。
🪙 ステーブルコインの裏に置かれるもの
そこで現れたのが、ドル連動型ステーブルコインです。
ステーブルコインは、1枚を1ドルなど一定の価値に保つよう設計されたデジタル資産です。
米国のGENIUS法では、決済用ステーブルコインを原則1対1で準備資産により裏付け、その準備として現金、銀行預金、短期米国債、米国債を担保とするレポ取引などを認めています。
仕組みを単純化すると、こうなります。
世界の個人・企業が
ドル連動ステーブルコインを買う
↓
発行会社がドルを受け取る
↓
準備資産として短期米国債を買う
↓
米国債の新しい需要が生まれる
これまで米国債を支えてきたのは、外国政府や中央銀行、大手金融機関でした。
これからは、
世界中の個人や企業がデジタルドルを使うことによって、間接的に米国債を支える
構造が広がる可能性があります。
米財務省の諮問機関でも、ステーブルコインに伴う米国債需要が、今後の国債需要構造の一つとして議論されています。
もちろん、ステーブルコインだけで米国の財政問題が解決するわけではありません。
銀行預金やマネー・マーケット・ファンドから資金が移るだけなら、国債需要の純増にならないこともあります。
それでも政策の方向は見えます。
外国政府による米国債購入
↓
民間金融機関による購入
↓
デジタルドル利用者を通じた購入
ドル圏をデジタル空間へ拡張し、その裏側に米国債需要を組み込む。
これは通貨技術の話だけではありません。
米国の国家債務を世界へ薄く広く配分する仕組みでもあります。
🕸 日本と米国は、互いに動けなくなっている
米国は国債を売り続けなければならない。
日本はその米国債を大量に持ち、簡単には売れない。
日本の円安を止めるには、ドル資産を売る必要がある。
しかしドル資産を大量に売れば、米国債市場を傷つける。
米国
国債を発行し続けたい
↑
│
日本
米国債を持ち続けざるを得ない
│
↓
円安時には売って円を守りたい
これは一方的な支配だけではありません。
互いに依存し、互いに抜けられなくなった構造です。
ただし、軍事・外交・通貨の力関係を考えれば、同じ依存でも両者の立場は対等ではありません。
日本は米国を支えてきました。
米国債を買い、ドル体制を支え、低金利の円を世界市場へ供給し、海外投資や融資を通じて多くの国と企業を支えてきました。
日本の対外資産や金融機関、機関投資家、企業の資金は、世界経済の土台の一部です。
だからこそ、日本が弱れば、日本だけでは終わりません。
日本の資金余力が失われる
↓
海外資産の売却・投資縮小
↓
世界の金利上昇・流動性低下
↓
借金依存の国家・企業が傷む
↓
その損失が日本へ戻る
日本は、世界に支えられてきた国であると同時に、世界を静かに支えてきた国でもあります。
この島国が沈み始めれば、その上へ寄りかかっていたものも連鎖的に倒れます。
🔜 次回予告
米国は、世界中の利用者がデジタルドルを使うことで、その裏側に米国債需要が生まれる構造を作ろうとしています。
日本は米国債を大量に保有し、米国は日本を含む世界の資金に支えられてきました。
同時に、日本もまた低金利の円、海外投資、融資、米国債保有を通じ、世界経済を支えてきました。
だから、日本が弱れば、日本だけでは終わりません。
しかし、その連鎖が始まったとき、政府が最初に守るものは何でしょうか?
国債でしょうか?
通貨でしょうか?
社会保障でしょうか?
それとも国民生活でしょうか?
次回は最終回、
《債務不履行は宣言されない――国家が止まらないなら、まず自分を整える》
として、国家債務不履行がどのように選択され、どこから暮らしが削られていくのかを見ていきます。