演技を
始める彼は
両手を天へと差し伸ばす。


いつも思う。

美しい祈りだ。






目を伏せる。

閉じない。


ひどく美しい巫を感じてしまう。


その身に〝何か〟を
降ろして
舞う者。






顔が上がる。

表情は
変わらない。

能面は傾きに全ての感情を表す。

それを思った。





彼は
感情を舞わないのか。


そうか
風に
木々に
水の流れに
彼はなるんだった。





サルコウを降りた。

表情は変わらない。

彼は競技者だが、

演者だ。



〝何か〟に
彼はなっている。






微かに微笑んだ。

僅かに口角が上がる。


広隆寺の弥勒菩薩のような微笑みは、




また
静かに
伏せられる。


美しい。






練習風景でも
ここは
印象的だった。


手が
手の役割をしている。


とすれば、
今、
彼は何をその手にし
何を嘆いているのだろう。





これは、
ピエタなんだろうか。





無惨に奪われたもの





あってはならぬもの

起こってなはならなかったもの


そんなものを見詰めてるんだろうか。







ひらりと身を返し

また慈愛の微笑みを宿す。






身悶える

苦しみがある。


その後に続くジャンプの連続は
静かな表情のままに
それを受け止めようとする試みなんだろうか。






曲想が変わり、
さらに心を掻き立てる楽の音に乗って
山場は続く。


表情は
歪まない

苦しみにも悲しみにも
それあって
なお
舞いは激しく表情は静かだ。







疾走する悲しみ

という言葉を思い出した。





天へ

〝彼〟は
天へと
その手を伸ばす。


最後にちょっとこけかけ
挨拶は
愛らしい笑顔だった。


笑顔を見られ
私も幸せだ。


画像は限界で
載せられない。

残念だ。


次のとき、
どんな表情の挨拶だろう。


ショートは
ロックスターの笑みを覗かせていた。


どんな表情が
挨拶に
現れるのか。


なんだか
それも
楽しみになってきた。