SUUNTO CORE Lime Crash

Ref. SS020693000 / Cal. -

 

入院生活と腕時計

 

私事になるが、僕は2016年の年末、大学病院のICU的な所で二十日間ほど人生初の入院生活をした。

 

病名:椎骨動脈乖離。脊椎から脳内に出た動脈の部分が乖離する病気。ゴルフのスイングの瞬間や、最近ではスマホネックといってスマホを見るために下向きになり、血管に負荷がかかることによってなる人も多いらしい。僕の場合、徹夜がなんとも思わない生活をしていたところに、80kgのベンチプレスをしたことが原因らしい。

 

さておき、入院生活となると時計がいる。今どき病床には、スマホでもタブレットでもノートPCでも持ち込めるので腕時計などいらないように思う。ところが検査での移動や、寝ていてふと時間が気になった時に、習慣的に腕時計が欲しい性分である。そこで何を病床に持ち込むかが、大きな問題となる。

 

人生と惜別するような入院でもない限り、愛用の品とはいえ世間で言ういわゆる高級時計は問題がある。セキュリティ上も良ろしくないし、自分の美学としていやらしい印象になってしまう。

 

そこで、失くしても後悔しないくらいの価格帯の時計で、少しだけ思い入れのある物が良いと考えた。自分の所有している物の中では、セイコーのアストロンやカシオのプロトレックがそれに該当する。しかし、ここで大きな問題が……。

 

僕はブレスレットの時計や、ベルトの時計でもホールディングバックルの時計しか持っていなかったのだ。ホールディングバックルの時計では、ベッドの手摺にくくりつけておくことができず、自分の入院中に使う腕時計のメージと合わないのだ。しかし、尾錠の時計は当時一本も所有していなかった。

 

僕は、とりあえず丸腰(=時計なし)で入院をし、病床で物色しようじゃないの、と考えた。自分の病状よりも時計。。。我ながら阿呆な人生である。

 

 

SUUNTO(スント)はどうか?

 

SUUNTO社(スント=北欧流に読むとスウーント)は、フィンランドで80年の歴史を持つ計測器メーカーである。液体封入式コンパスの製造に端を発するらしい。現在は、スマートウォッチのようなPC連携の計測機器の他、電池式腕時計を製造している。

 

アスリートや登山家に愛用者が多く、日本でも山小屋に行くと山愛好家の上級者や山岳ガイドにスントの使用者が多いとも伝え聞く。

 

入院すると日がな一日、医療や福祉に関しても思いを馳せることがある。日本と違い、高福祉で知られるのが北欧である。腕時計探しのさなか、そんな北欧から僕はスントを想起した。

 

病院と計測機器メーカーという親和性もあるような気もする?

 

そして、こういう機会でもなければ、買うことにならなかったであろうスントにご縁的なものを感じ、触手が動いてしまった。

 

気がつけば、僕はメーカーサイト、AMAZON、量販店の通販サイトで商品を物色していた。ネットでクリックすれば、自宅以外にも数時間あるいは一日で商品が届く。お支払いは後日、クレジットカードで。いい時代、否、恐ろしい時代になったものである。

 

 

僕の選択・・・

 

家電量販店の何とかエクストリーム便が、病棟にスントコアを届けてくれたのは、それから数時間後であったと記憶している。結局、スマートウォッチではない電池式デジタル時計の”コア”を選んだ。

 

コアには数種類のデザインがあるが、その中でジェンタ物(ジェラルド・ジェンタの作品)に似た平たいベゼルを装備したモノ。この商品は、スントコア○○○という商品名(○○○はベルトのカラーが入る)で、ベルトの色とコーディネートされる形で、通常液晶か反転液晶が装備される。

 

僕のスントは、スントコア・ライムクラッシュという、昔のカワサキのバイク乗りなら涙がちょちょ切れるであろうライムグリーン色のベルトが装備されている。何となれば色違いのベルトも数千円で容易に手に入る楽しさがある。

 

 

 

 

スントを購入して感じたことは、日本製品・・・象徴的にはにデジタル時計を得意とするカシオのテイストと、こうも違うものかということである。ある意味で既成概念の範疇外にあり、軽い感動さえ覚える。

 

例えば2万円も出せばソーラー充電式が当たり前になりつつある日本の時計に対し、スントコアは電池交換式。しかしその電池交換も、100円ショップで2個108円(つまりは1個54円)で買えるCR2032が使われている。しかもご丁寧に電池蓋にはコインで回せるような溝も入っている。DIY前提とも言える作りなのである。もちろん数回に一回はOリング(パッキン)も交換した方がベターなのだろうが、自分で交換できる安心感は何者にも代え難い。

 

登山の前夜、きちんと満充電されているのを確認すればいいのも安心だが、念の為新品の100均電池に交換し財布に予備電池も放り込んでおくのもまた安心である。

 

さらには、液晶の表示が日本製品で標準の何本かの「線」で構成される見慣れたデジタル数字ではない。全面が細かいドットの集合体であるから、デザインされた「いい形の数字」が表示される。このデザインも北欧流と言えなくはない。

 

特に細かいドットの液晶の効果として、気圧傾向のバーグラフが非常に見やすいものとなっているのが特筆できる。

 

ベルトは例えばカシオは山用=ヘビーデューティという決め込みで硬くごついベルトやブレスを付けようとする。しかしスントは、ソフトなシリコンで手に馴染むベルトを装備している(最近のカシオ・プロトレックPRW-6600ではスントを模倣した少しソフトなベルトになった)。ソフトな分、装着には少々手間がかかる。

 

その他、ボタン配置、表示メニューの階層構造や操作方法、ビッピッではなく時代を感じる長めのビープ音など、詳細は割愛するが日本製品との違う点は多い。正直、違和感を感じる場面もあるが、計測器的な不思議な感覚を感じる場面もある。

 

何より北欧流の「シンプルモダン」的なデザインが魅力的で、山愛好家のみならず例えばボルボを愛車とする人、エコーネス社のリラクゼーションチェアで映画鑑賞をしているような人、マリメッコのワンピースが似合う女性等・・・にも、お試しをオススメしたい。

 

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健康についてはもちろん、お金について、時間について、家族について、友情について、さらには人生について。いろいろな気付きを与えてくれた僕にとっての入院生活。

 

普段は全く使わないスント・コアであるが、その大切な入院生活を共にした戦友として、コレクション棚に大切に陳列している。気圧計にして同時表記を気温に設定、僕のデスクの気象計である。