SEIKO ASTRON 8X CHRONOGRAPH 8X82-0AH0-1

Ref. SBXB031 / Cal. 8X82

 

とにかく品番を増やし、廃版の山を築くメーカー

 

僕は、依然SBXB055がアストロンの中で一番良いデザインだと思っている。

 

最近発売されたExclusive Lineと称するハイエンドモデルに至っては、バームクーヘンのような盛り上がったベゼルが採用されているが、どういう時計デザイナーとしての審美眼や見識なのだろうか。

 

高級スポーツ時計は、ベゼルを含めなるべく薄く平面的な構造の中で立体感を出すことに、世界のメーカーが粋を集めているのに。

 

よしんば、カシオのGショックのような、あえて分厚くゴツく野暮ったく見せる手法なら理解できるが、高級ラインなのになぜ?

 

それでもカッコよければそれでいいが、リューズガードの廃止も含め不格好と言わざるを得ないのが残念である。

 

そしてセイコーとて日本のメーカー。細かなカラバリや素材違いを別モデルとして沢山発売し、古いモデルはどんどんディスコンにしていく。

 

そんな中、8X初期のSBXB055は未だラインアップに残っている訳だが、ディスコンになったモデルは破格で販売される宿命にある。

 

処分価格で店頭に並んでいた品の中で、つい衝動買してしまったのがSBXB031である。

 

 

格安ステンレスモデルの黒時計

 

相変わらず重量が不自然なほどに軽いチタンモデルには違和感を持った。先にも書いたが、日本製品における軽薄短小の正義は、今後も変わらないのかなという印象を持っている。

 

その中で、ステンレスにブラックPCV加工を施したモデルは、ルックスもよく重量感とのバランスも良いように感じた。ベゼルとブレスの中駒がセラミックなのも見た目に心地よい。これのクロノグラフ版(8Xクロノグラフ)が捨て値で販売されていて、つい興味が湧いてしまった。8XデュアルタイムのSBXB055が気に入っているので、8Xクロノグラフはどんなものかと。

さてショーウィンドーには似たようなブラックの時計がいくつかあった。差し色が赤/黄/白と異なるのだ。そしてベゼルの表記に二種類あることがわかった。

 

すなわち都市名の3レターが表記された8Xデュアルタイムと同じベゼルと、クロノグラフらしいタキメーターのベゼルである。

クロノグラフでしかもデュアルタイムの時計ではないのに、都市名があっても無用の長物である。なぜこのような組み合わせになるのか理解に苦しむ。

 

クロノグラフにはもちろんタキメーターを選びたい。無地があればそれでも良かったが、その設定はない。タキメーター表記のステンレスモデルとなると差し色は自ずと決まり、赤しか選べない。

 

アストロン全体に言えることだが、どうもバリエーションが豊富あるようで実際には選択肢は少ない。自分的に譲れないポイントを決めると、品番は絞られてしまうのである。

しかし黒時計で赤の差し色となると、所有するウブロ・ビックバン・ブラックマジックのイメージだ。結果往来。リファレンスはSBXB031。

価格はローンチ時の市価の半値以下と破格。完全なる衝動買い。

 

 

 

残念な点
 

GPSの受信上の制約等、ネガティブな部分もポジティブな部分もSBXB055と同様であるところは割愛し、このクロノグラフモデルに限ったインプレッションを書く。

 

まず差し色。黒時計で赤の差し色は定番とも言える。しかし一応はデザイナーと呼ばれる人が決めているのだろうが、赤の差し色が少々くどい。

 

3本の赤針は1本の赤針でもよかった、、、否、3本赤いままでも良いが「TACHYMETER」の文字は赤である必要がないと思う。

 

もっと言えばベゼルの表記は全て「彫り」だけの無色でも良かったと思う。

 

猥雑感が、せっかくのセラミックの品位を喪失させ、安っぽいルックスにも見えてしまうのがとても残念である。


次に6時位置のスモールカウンターの小針は、クロノグラフ機能時以外は9時方向を指しており、これが非常に気になる。ローマ神話の海の神ネプトゥーヌス(ネプチューン)の持つ三叉の槍のように上を向いた針がクロノグラフの魅力のひとつなのに。一本だけ横に向かせるセンスが理解できないのである。

 

極めつけは、クロノグラフ稼働後何分かすると(何分かは失念)針がゼロ指針に戻ってしまい、クロノグラフを停止させると時分秒を示す仕様になっている。節電のためだろうが、これでは経過時間を知ることができない、クロノグラフとしては使えない。

 

動作ボタンの位置や9時位置のスモールセコンドなど、通常のクロノグラフを意識したこだわりは評価しているだけに、残念でならない。

 

アストロンは本当に時計のことがわかっている人が開発しているのだろうか。否、人間というものを理解した人が開発しているのだろうかという疑念を抱いてしまう。

 

 

残念な不具合の顛末

 

実はこの時計、秒針が0秒を指しても分針がおよそ1/4分遅れており、非常に気持ちの悪いものであった。

 

正規販売店の店頭で見た一本はこの状態、ストックで出されたニ本も同様であったが、後にSCで調整しますよの一言で購入をした。

 

それで後日、有楽町にあるセイコーのSCに持ち込み、事情を説明した。保証書の他、保証書とどう効力が違うのかわからないアストロンカードなるものや、正規販売店の保証書も添えて。

 

思いつめた顔で技師が言う。

「お客様。仰る意味はよくわかるのですが、これ公差の範囲で正常品なんですよ」

おやおや、恐れていた通りの想定内の回答だよ。

 

「まあ今回は調整させてもらいますが」

 

調整はしてもらえると確信はしていたが、最後の一言が余計である。これはメーカーではなく担当者の資質の問題かもしれないが、この一言でセイコーというメーカーへの期待も吹き飛んでしまう。

 

「いやいや細かいこと言ってすみませんね~。セイコーさんは日本のトップメーカーだから応援したいと思って衝動買いしたのだけど、ここまでの出来のアストロンをこの<安価>で出しているのだから公差くらいは仕方ないですよね」

 

セイコーに誇りや威信はないのか?

 

「申し訳ございませんでした。完璧に調整させていただきます」

OH後に日差がマイナス1秒だっただけで(通常はプラス側への調整が好まれる由)、日本ロレックスの技師は平謝りでこう頭を下げた。

 

リップサービスでもセイコーの技師にそう回答して欲しかった。モノづくり大国とやらの日本のトップメーカーとして。