SEIKO ASTRON 8X DUALTIME 8X53-0AC0-2
Ref. SBXB055 / Cal. 8X53
僕は舶来品かぶれなのか?
旧知の友人が、僕に言った言葉が心に残った。お前は、クルマも時計も最初から国産には興味が無いのだろうと。
いやいやそうではない。生産国の区別などせず、欲しいものを自分の目で選択しているだけだ。結果として輸入品ばかりになっていることは認めるが。
例えば学生時代、最初に購入したクルマは中古の日産ブルーバードであったし、次に買い替えたのもスカイラインGT。社会人になってBMWを買ったのは、スカイラインが目指していたのはBMWの世界感だと知り、興味が湧いたからにすぎない。
時計だって、中学の進学祝いに祖父に買ってもらった最初の一本は、国産のデジタル多機能時計だった。今でもカシオのプロトレックやGショックは所有している。
「いや、カシオは愛用してるよ」
「そうなの? どんな時計?」
「アウトドアウォッチのプロトレックと言って……」
「アウトドアウォッチは別だよ!」
そんなことがあったからという訳ではないが、日本製をうたうプロトレックに一定の満足をしていたこともあり、国産のある程度高級な時計を買ってみることにした。
僕だって、本当は日本のメーカーに世界中のマニアを震撼させるような時計を作って欲しい、使ってみたいと願っているのである。
かつてアストロンが機械式時計を排除したのか?
といってグランドセイコーのような機械式は、日本代表として本筋ではないとも思う。
「グランドセイコーの仕上げはロレックスを凌駕する」などと持ち上げるメディアもあるが、僕に言わせれば噴飯ものである。
日本のリーディングカンパニーはセイコーで間違いないとして、いま一番日本らしい時計は何か。僕の答えはGPSを搭載した、アストロンしかなかった。
あの美しい国を目指す、内閣総理大臣も愛用するGPSアストロン。
アストロンは1969年に登場した世界初のクォーツ式時計である。アストロンが世界中の機械式時計を駆逐して、世はクオーツ全盛となった……というのがマスコミの好きな記載であるが、それは違うと思う。(現に雲上ブランドやロレックスなど全く影響を受けていない)
そんなうんちくはさておき、アストロンを買ってみようじゃないの。日本代表セイコーのお手並み拝見という心境である。
選んだのは、チタンではなくステンレスモデル
さて、いざアストロンを買おうと思っても、僕には知識がほとんどなかった。量販店で実物を見つつカタログを眺め目についたのが、Ref. SBXB055。ゴールドのケース(ステンレスのPCV加工)にブラックのラバーベルトとホールディングバックルを装備したモデルだった。
8Xデュアルタイムという、第二世代のGMTモノであり、シンメトリーに配置されたレトログラード針が、美しいダイヤルデザイン。個人的には、アストロンで一番いいデザインだと思う。
デュアルタイム用の12時間小時計、小時計用のAM/PM指針、曜日指針と機能も充実。
ちなみに第一世代の7Xシリーズは、僕的には実用性の面で問題がある。すなわちデュアルタイム用の小時計が24時間計になっており視覚的に今何時なのかがわからないのである。これを読み取るのは、老眼気味の世代には困難ではなく、不可能である。
そして幸運なことに、このモデルがラインアップ中一番廉価だということをもあり、購入決定と相成った。
このモデルがライン中で値段が安いのはケースがチタンではなくステンレスにゴールドのPCVコーティングをしたものだからである。
僕はチタンモデルには違和感を持った。重量が不自然なほどに軽いのである。日本製品における軽薄短小の正義は、仮にも高級と言われる腕時計にまで貫かれているのである。
この姿勢には少々共感しかねる。モノには、視覚的にも感覚的にも適正な重量があると思う。日本人が守られ弱体化している中で、金属アレルギー対策としては有効かもしれないが。
少々ネガティブなインプレッション
購入してみて気づいたことがいくつかある。
まずメーカーが万能の時刻合わせとうたうGPSは、時刻合わせのデバイスとして万能ではないことである。これはこの時計の根幹の部分でありショッキングなことであった。
毎日夜中にGPSを受信させるため、自宅の窓の上方を向けて置かなければならない。この窓への向け方が、従来の電波式よりも繊細で、普通に窓辺に置いたレベルでは受信できないのである。
さらに悪いことに、GPSを受信しなかった場合のクォーツ時計としての精度は、そこらへんの安時計レベルに過ぎない。オメガやルクルトのクォーツ時計のような精度は出ていない。そこに日本のメーカーとしての威信は全く感じない。
メーカーはこのことは理解しているようで、「太陽にあたった時間を記憶し、毎日同じその時間にGPSを受信する」機能を付けている。
しかし、これは毎日同じ時計を付けて会社に出社するサラリーマンのライフスタイルに合致するものであり、沢山の腕時計の中からその日の気分や行き先で時計を選ぶライフスタイルは想定されていない。あまりに発想が貧困なのである。
ただ救われるのは、マニュアルでGPSを受信する場合の操作の簡単さと早さ。ベゼルに都市の表記があるのも、GMT時計としては有効だと思う。
時計としての世界観は、トヨタ車のハイブリッドによく似ていると感じる。そのハイテクなイメージも、クオリティ感も、反面中途半端な先進性も。
小改造
このモデルの派生モデルに、テニスの強豪ノバク・ジョコビッチモデルがある。同じケースに、少々光り物を変更したダイヤル、茶色の革バンドを装備した内容である。
カシオは修理扱いでしかベルトを出さないが、セイコーは部品として供給しているので、このベルトも取り寄せてみた。
もとから付いていたいたラバーベルト同様、調整が楽なホールディングバックルが装備されている。
ただし生産本数に限りがあるとのことで、数ヶ月の待ちとなった。
目下のところ、冬は革でその他の季節はラバー。
GMTマスターの代わりに、アジアを中心とした海外には持ち出している。