ROLEX OYSTER PERPETUAL GMT-MASTER II

Ref. 116710LN / Cal. 3186

 

Ref. 1675 への憧れ

 

子供の頃から腕時計が好きだったような気がする。我が家には中学に入学すると厳格な祖父が、腕時計を買ってくれる風習があった。その時、多機能のデジタルウォッチを買ってもらうためにカタログなどで色々調べたことから始まった僕の腕時計への興味関心。

 

はじめてロレックスを知り興味を持ったのはいつのことだっただろうか。

 

舶来時計に興味を持ち始めたのは、高校時代、父親が勤続何周年かの記念品で頂いてきたオメガのシーマスター3針クオーツというものが最初だった。

 

ベゼルがYG(イエローゴールド)のコンビモデルで、茶色い革ベルトにYGの尾錠が付いていたように思う。クオーツであったが、月に1~2秒しかズレない精度の高さは、「さすが舶来」という意識を強く植え付けた。

 

父親はこの頃、若い薄給の頃に買ったラドーの自動巻き金時計や付き合いで買わされたシチズンの2針時計を使っていたように思う。したがって息子に供与されたオメガは、高校生には贅沢すぎる品であった。

 

ロレックスに興味がわき始めた時期は失念したが、購入を具体的に考えるようになったのは社会人になってすぐの頃であったと思う。

 

ロレックス専門店などあまり存在しない時代であり、東北沢にひっそりとあったエバンスも実に親切な個人商店であったと記憶する。主にディスカウントのブランド店で並行輸入の新品を、一六銀行などと呼ばれていた質屋の店頭で中古品の実物を見ていたと思う。

 

その頃、単純にデザインに惹かれたのが4桁モデル1970年代のGMTマスター Ref.1675であった。ドーム型のプラスティック風防と低く設置されたベゼルがUFOを想起させた。ペイントで描かれたインデックスが独特のアンティーク感を醸し出していた。似たデザインのサブマリーナが黒一色のベゼルだったに対し、現代ではペプシ(コーラ)などと称される赤青二色のベゼルが何とも言えず気に入った。もちろん黒一色もあった。

 

3列のオイスターブレスの他、現在ではあまり見かけないが5列のジュビリーブレスの個体も多く見かけ、サブマリーナよりも大人向けの時計にも思えた。

 

刑事モノ世代としては、あのボス・故石原裕次郎氏の腕に巻かれていた時計がGMTマスターであったことにも惹かれた。後に小樽市の石原裕次郎記念館(※現在は閉館)でその実物群を見た時は、軽い身震いさえしたほどだ。

 

モノの本でGMT針で2ヶ国の時刻(マスターIIは3ヶ国!)が表示できるということを知り、また海外を飛び回るパイロットが使う時計というウンチクも知り、スポーツロレックスの中でもGMTマスター系が憧れの時計となった。

 

しかし実際に手にした初ロレックスは、価格的にこなれたRef. 1601と呼ばれた中古のデイトジャストであった。5連のジュビリー・ブレスにWG(ホワイトゴールド)のキラキラ光るベゼルとインデックスが眩しく、真夜中0時にカレンダーが切り替わる瞬間を見たりしたことを思い出す。

 

 

ついにRef.1675を買う

 

その後どうしてもスポーツロレックスが欲しくなり、なぜかGMTマスターより安かったRef.16660のシードゥエラーを購入した。サイクロップが付いていないサファイアガラス風防の中のペイントインデックスが好きだったが、「陸に上がったカッパ」感は否めず、GMTマスターへの思いは募った。

 

当時は並行輸入新品のRef.16750(GMTマスターI)が27万円、Ref.16710(GMTマスターII)が32万円くらいであったと記憶する。特に赤黒ベゼルのGMTマスター2は不人気で中古は格安(10万円台)であったと記憶する。

 

しかし購入に踏み切れなかったのは、今考えてみるとやはりRef.1675の雰囲気が好きだからであったように思う。

 

僕のところにやってきた憧れのRef.1675 GMTマスターは、アメリカのテネシー州メンフィスの小さな時計店で見つけた。シリアルナンバーからは1974年製で、ほぼデッドストックのような品。価格は1800USD位だった。

 

購入後は、海外はもちろんどこへ行くにも愛用し、しばらく他の時計には興味もわかなかったように思う。

 

当初、赤青がついていたベゼルも日本ロレックスで黒に交換し、一生所有するモノと思っていたが、別れは突然やってきたのである。

 

 

オイスターケースの劣化と6桁モデルRef.16710LNの発表?!

 

最近は値上がりの傾向にあるが、少し前までロレックスOHは日本ロレックスが一番リーズナブルというのが常識だった。

 

OHの際に研磨が不要なほど大切に扱っていた僕の1675も、何度か日ロレに出した。しかし……

 

ある時、日ロレから「オイスターケースに歪みが生じており交換が必要」という宣告を受けたのである。よく問いただすと必要ということではなく、単に防水の保証ができないということらしかったが、オイスターケース(=牡蠣の殻)は万能と信じていたためそのショックはは大きかった。


この宣告が一生モノと思っていた1675を手放す発端になったように思う。

 

そして6桁モデルRef.16710LNの発表は衝撃的であった。LNとは仏語のルーネット・ノワール(黒い環)、つまり黒ベゼルを指す型番である。

 

GMTマスター系のベゼルは、これまでペイントが普通だったが、6桁モデルからセラミックにエングレイブ(刻印)されたタイプとなったのである。しかもプラチナを流し込むという凝りよう。

 

それまで赤色で普遍であったGMT針の色がロレックス社のコーポレートカラーである緑に変更されたことも大変気に入った要因だった(個人的にグリーンはラッキーカラーであり、自分の会社のコーポレートカラーにもしている)。

 

そして時同じくして、デイトナから始まったアンテークロレックスの信じがたい高騰がGMTマスターにも及んだことも、1675から116710LNへの買い替えを決定づけたのである。

 

しかし、他の時計の購入を優先させたことなどもあり、実際に買い替えをしたのは16710LNがいわゆるランダム番になった頃であった。

 

 

ポイントはどちらがいい時計なのかではなく、どちらが好きなのか

 

僕が購入した頃の167510LNは、新品で70万円前後であり品もふんだんに流通していた(※現在は驚くなかれ120~130万円程度)。
 

LNの他にBLNと呼ばれる青黒ベゼルも存在し、こちらとの価格差もあまりなかったと記憶する。BLNの方が高騰することは容易に想像できたが、投機ではなく日常使いが目的なので気に入っていたLNしか考えなかった。

 

実際に手に取ると、前述したセラミックのベゼルは黒ではなく、光源によっては金属質でプラチナのように輝き、これも魅力と感じている。

 

 

またデイトナで既に承知していたが、6桁モデルで無垢になり重量感と硬質感、装着感が飛躍的に向上したオイスターブレスは、ステンレスモデルであってもやはり最高である(5桁モデルまでは安っぽい中空の駒)。装着時にパチンとはめる時の感触だけでも所有する価値があると思っているクラスプ、身体がむくんだ日にはワンタッチで駒を伸ばす便利なエクステンション機構ももはや手放せない。

 

好き嫌いが分かれるという中駒ポリッシュも、この時計には似合っているように思う。

 

機能面では、Ref.1675でははめただけ、その後の16750~ではキリキリといったゼンマイのような感触で動いたベゼルが、0.5時間毎にクリックされるという実用的な仕様になった。

 

メカではパラクロームヒゲゼンマイの採用など、昨今の6桁モデルの改良が施され、僕の個体はもはや日差1秒程度となっている。

 

別記事「ステンかコンビか? 5桁か6桁か? デイトナ狂想曲(ロレックス デイトナ 通称パンダダイヤル)」でも書いたように、ここのところのアンティークロレックスの高騰は、GMTマスターもその例に漏れず、私が90万円位で手放してしまったRef.1675も今なら120万円位はすし、今後は高くなる一方だろう。

 

しかしそんなことはどうでもよろしい。

 

自動車でも時計でも、真面目に進化を考えているメーカーに限っては、デザインの好き嫌いを除けば最新のモノが最高の性能であることが多い。

 

ポルシェ911で言えば伝説の73カレラであっても、性能面では現代の991の素のモデルの足元にさえ及ばない。

 

どちらが優れているかではなく、どちらが好きなのか。

 

どちらが後に高く売れるかではなく、どちらを所有した方が満足できるか。

 

ましてや雑誌の煽りや人気などどうでもいい。

 

そして6桁モデルの完成度の高さと満足感は、僕にとってGMTマスター史上、最高のものなのである。

 

自分の時代のロレックスとして、今度こそ一生モノになるだろうか。

 

<追記 2018.12.3>

昨今のロレックスの高騰は馬鹿馬鹿しいほどのものであり、このRef. 116710LNが新品で120~130万円もする。僕が買ったのは70万円という妥当な金額であったが。

 

200万円はゆうに超えるデイトナなど、ロレックスは今や雲上時計になりつつあり、先行きを懸念している。