HUBLOT BigBang BlackMagic 41

Ref. 342.CX.130.RX  / Cal. HUB 4100

 

成功者が惹かれる時計?

たまたま立ち寄った書店で手に取ってしまった書籍がある。

『成功者はなぜウブロの時計に惹かれるのか。』幻冬舎刊、1,404円。幻冬舎の見城さんは、ウブロマニアであるし、単なるマーケティング本と言えなくもない。

かつてオメガが、ミハエル・シューマッハやシンディ・クロフォードを使ったセレブリティー・マーケティングによって再起したことは知っていたが、それがジャンクロード・ビーバーなる人物の仕業であり、彼がまたウブロも復興させたことを、その本で知った。

ウブロは、F1やサッカーのチームがメンバーにチームのオリジナルのモデルを配布したり、FIFAワールドカップの選手交代告知板のロゴ広告などでも知られるが、なるほどさもありなんという印象である。

芸能人、プロスポーツ選手、アグレッシブな企業経営者……。成功者が好むということが事実であるなら、それは、マーケティングが功を奏しているのであろうと思っていた。


ウブロは、マーケティングに長けたETAポンの側(ガワ)時計なのか?

この質問に対し、僕は明確な回答を持っている。それはノーである。

ガワ時計たる所以は、誰が見ても比較的カッコいいのに、ETA7750ベースのムーブメントを採用しているから。しかもクロノメーター規格すら通っていない(通していない)から、どうせ精度もイマイチなのだろうというところにあるのだが、いやはや、ウブロは損をしている。

 

まず写真写りが悪いと言える。

 

ウブロのダイヤルやケースがかなり質感の高い作りであることは、実際に手に取るとよく分かる。特にエナメルのダイヤル、インデックスの造形は、この手のスポーツウォッチの最高峰とも言える出来映えだと思う。

次にメカの側面。


Cal.HUB 4100その他がETA7750ベースのムーブメントであることは周知であり、ムーブメントにはこだわっていないように感じる。しかし同じ7750ベースのブライトリングCal.13同様、マニアックなまでのレベルの高さを持っている。

これは自動車で言えば、ベントレーやポルシェがVW製のエンジンをベースにしつつも、別の本物を作り上げていることと事情が似ている。

コラムホイールでこそないものの、クロノグラフ・プッシャーを作動させた時の針飛びは皆無。自動巻きローターの作動もなめらかで音もせず、タイムグラファーで計測すると精度に関しても振り角に関しても恐ろしい性能を叩き出しているのである。

かつて所有していたポルシェデザインのダッシュボード、クロノグラフは、同じETA7750ベースのムーブメントであるものの、まさにETAポンであった。例を挙げれば、プッシャーの針飛び、竜頭OFFでの針ズレ、ハンドワインディングのフィーリング、自動巻きローターの作動音・・・。

 

そういったETAポンとは、明らかに一線を画すのであるが、実際に手にしなければ、そこは伝わらない。


 

 

僕の選択・・・

僕のウブロは、王道ビッグバン。その中でもセラミックベゼルと黒いチタンケースの組み合わせに惚れブラックマジックを選んだ。

 

正直、この時計が167万4000円という価格は、数日間の熟慮を要求した。


しかしピアジェやハリー・ウィンストン、もっとチンケなフランク・ミュラー、ブルガリ、カルティエといった取り立ててメカに特筆すべき点がない時計に散財することを考えたら、ウブロにこの値段は妥当だと、不幸にも思えるようになってしまったのである。

 

件の書籍のタイトルではないが、ウブロはある意味で「カッコいい」というだけでこの金額をポンと出せる人のための時計。正に成功者が惹かれる時計。そういう意味で、誰でも買えるが、時計の方が買い手を選ぶとも言える。別の意味で「選ばれた者のみが買える」時計なのである。

 

ウブロはほとんどのモデルにおいてケースのサイズは44mmと41mmがあるが、実物を見比べ迷うこと無く41mmを選んだ。ウブロはド派手な44mmこそ本命という意見もあり、芸能人やプロスポーツ選手などにも愛用者が見られるが、41mmの凝縮感がなんとも言えずたまらない魅力に満ちているのである。

なんというか、両者を比べるとこの精緻なダイヤルが44mmだと間延びして見えるのだ。もちろん44mmも素晴らしい時計であるが。

ケースやメカの良さは前述の通り。シリコンのベルトが非常に手に馴染むことも特筆できる。

ウブロのベルトは相互間に交換可能であり、シリコンでも別の意匠のモノ(全て付け替え工賃込みで30,000円弱と高価)や、レザー・グミのモノ(恐ろしく高価であるが)も装着できる。ウニコに装着される赤いステッチの入ったシリコンバンドに惹かれるが、オリジナルのイボイボ形状も実物に手に取ると捨てがたいのである。

ダイヤルのインデックスとクロノグラフ秒針の赤い差し色は、芸術的なセンスの良さを見せていると思う。ただ単に無作為に差し色を入れたがる国産メーカーは、センスを磨くべきだ(特にCASIO)。

ネガは、強いて言えば、ホールディング・バックルが少々ちゃちなこと(でも腕には馴染む)、交換用のベルトが高額なこと、Cal.HUB 4100をハンドワインドする際の使い勝手の悪さ。竜頭を引かない状態でのワインドはしにくいのなんの。

しかし、そんな些細なことはどうでもよろしい。


もしあなたが僕と同じクロノグラフ・マニアであるなら、ガワ時計という潜入感を捨て、ぜひ一度実物を見てそのクオリティの高さに触れてみて欲しいと思う。

 

[追記]

マーケティングに優れる印象のHUBLOTだが、自動車のダッシュボードには、未だ採用されていない。ベントレー→BREITLING、AMG→IWC、GM→BVLGARI……。

 

関係の深さで言えばフェラーリに装着だろうが、現代フェラーリはアナログ時計の似合うダッシュボードになっていない。

 

そこで私見だが、ポルシェのスポーツクロノパッケージに装着されたらどうだろうか? スポーツクロノにHUBLOTの文字。連動した腕時計も発売。

 

イケると思うのだが……などと夢想する昨今。