$Michina(ミチナ) 世界一周旅行の記録


イスラム圏の人には特有のウザさがある。

「うざーい!」とテンション高めに言う時の
マルチに使える“ウザさ”ではなく、

「ウザったいよね。」と冷静に言う時の
本来の意味の“ウザさ”。

まぁ、言葉の本来の意味なんてどうでもいいことなんだけど。


ポジティブに言い換えるなら、“親切”。

受け取り手に解釈を預けるなら、“世話好き”。

でも僕は感じたままに“ウザい”と表現する。


トルコにいたトルコ人にも感じたしイラン人のサイードにも感じた。ルーマニアで会ったモジーブにも感じた。

マドリッド出会ったサイには感じなかったかな。


タンジェの町で会ったムネからはガンガン感じた。

シェフシャワン行きのバスが出発するまで、5時間ほどあった。

僕は値段の割にえらくきちっとした制服を着て、ビジネス以上の愛想のよさを見せないウェイターのいる食堂で25DH(ディルハム)チキンライスを食べた。彼の愛想からは“ウザさ”を感じず、むしろ仕事に対する誇りを感じて、気持ちが良かった。


その浜を歩いているとムネが話しかけてきた。

ムネ//チャイニ―か?
僕//いや、ジャパニ―だ。
ムネ//ジャパニ―か。グーッドグーッド!ジャパニー、グーッド!

例の“ウザさ”にはこの「Good」を言いすぎる、と言うことも含まれる。

ムネ//いつ来たんっだ?
僕//今来たんだ。
ムネ//ウェルカムウェルカム。今日ここに泊まるのか?
僕//いや、すぐにシェフシャワンに行くんだ。
ムネ//おーシェフシャワン、グーッドグーッド。

砂浜にはサッカーをする青少年たちであふれていた。
100人はいただろうか。

試合をしているものが大半だった。
ミニゲームから、イレブン対イレブンで本格的にやっている試合もある。

その中に熱心にキーパー特訓をする二人組がいた。
彼らのそばにリュックを下ろし、その上に腰かけた。

すかさず「リラークス」とさも自分がここに招いたかのように言ってくるムネのこの発言も“ウザい”ところだ。


ムネは一通り、僕のことを聞きだした。

アジアとヨーロッパを旅してきた。グード。
モロッコに1か月いる。ウェルカム。
そのあとベルギーとオランダに行く。グード。
両親と姉と弟がいる。グード。
スペインから船でここまで来た。ウェルカム。
21歳。グード。
学生。グード。
経済学専攻。グード。
…その他いろいろ。グードグード。

ゴールネットのないところでキーパー練習をするので、たったひとつしかないボールは、すぐにどこかに飛んでいき、特訓はしばしばしばし中断される。僕とムネの二人がいる方向にボールが飛んでくる頻度が高く、その度にムネがボールを追いかけていき、蹴り返した。

話はモロッコのオススメスポット、オススメ料理に移っていく。

オススメはごまんとあるらしく、ムネのトークは止まらない。

数を並べれば並べるほど、一つの価値が下がる、という考え方はしないのだろうか?


ムネ//酒は飲むか?
僕//強くないけど、ビール以外なら飲む。
ムネ//モロッコでは酒を飲まないんだ。
僕//へー。
ムネ//ブタも食べない。
僕//牛は食べるんだろ?
ムネ//牛は食べる。
僕//へー。
ムネ//鶏も食べる。
僕//へー。
ムネ//ムートンも食べる。
僕//へー。
ムネ//ウサギも食べる。
僕//へー。
ムネ//ピジョンも食べる。
僕//そうなんだ。そろそろ行くわ。

ほっといたら、ブタ以外の動物すべてを食べてしまいそうだったので、僕は砂浜を離れた。
でもムネは街を散歩する僕からしばらく離れなかった。