今日の僕なんかは、だいぶ粋なほうだったな。前髪が伸びてきて、分け目が付けられるようになったっていうのももちろんあるけど、なにより、りんごをかじりながら歩いていたわけだからな。釜山の街をりんごを片手に歩いていた奴なんて、今日に限って言えば、僕一人だったんじゃないかな。そのりんごは甘くておいしかったな。なんで僕がりんごを持っていたのかというと、宿のおばちゃんがくれたからなんだな。いつものように宿代を払おうとすると、ちょっと待って、って言って、皿に盛ったりんごとカキとキウイをくれたかもんだから、びっくりしたな。私とお父さんの2人じゃ食べきれないから、とか言ってくれたんだけど、こんなの僕にも食べきれませんよ。あ、もちろん、おばちゃんは韓国語だから、ホントにそう言ってたかは定かではないんだけどさ。いや、びっくりしたよ。びっくりした、といえばもうひとつあったな。今夜、観た映画の前のことなんだけどさ。映画が始まる前に映画祭のスタッフの子がマイクでなんか言ってんだな。いつもの、お越しいただいてありがとうございます、とか携帯の電源を切ってください、とかいうやつかな、と思ったんだけど、それとは少し違うんだな。韓国語がわかるみんなは話してる途中で拍手とかしちゃってるし。どうやら、この会場でやる映画祭最後映画だから抽選をしていたみたいなんだよ。2人くらい座席番号で呼ばれて、DVDとかもらってたな。その呼ばれてる座席番号を韓国語で読むもんだから、僕は気づいていないだけで自分が当たってたらどうしよう、って気が気じゃなかったけど、幸い僕の座席番号のA5は呼ばれていなかったんだな。それはそれで少し残念だったけど。びっくりした、っていうのはその抽選のことじゃないんだよ。その抽選が終わった後にも、マイクを持った子はまだいつもの諸注意とは違うことをしゃべっていたんだ。で、どうぞみたいな感じで合図すると、扉からたくさんの映画祭スタッフの子たちが入ってきた。30人くらいいたんじゃないかな。でその30人がずらーっとスクリーンの前に並んだんだ。最初は詰めて詰めて、って感じでどんどん詰めてたんだけど、そこまでは人数はいなくて、後ろの方はスキスキになってて、最初から4番目の子なんかはそれに気づいているから、もうちょっと後ろ行ってよ、って言うんだけど、逆に8番目の子はうしろのスキスキさに気づいていないから、打ち合わせ通り「詰めて詰めて」ってどんどん詰めちゃって、5番目から7番目の子はなんだかかわいそうだったな。少ししたら8番目の子も気づいて、すぐにいいバランスで30人が1列に並ぶことができたから、まあ良かったんだけどさ。で、マイクで話してた子とは違う、キャップをかぶったリーダーっぽい男の子が、その帽子を脱いで、列の中央で話し始めた。マイクなしで。これがこの会場最後の公演です、つらいこともありましたが、皆さんのおかげで乗り切れました、みたいなこと言ったんだろうな、きっと。途中感極まって涙声とかになるもんだから、聞いてるお客さんもみんなあったかい感じだったな。で、そのリーダーが、ありがとうございました、って言ってで、ズラーっとならんだ30人もありがとうございました、って言ったから、これでおしまいかな、と思ってたら、次の瞬間そのズラーの30人がズラーの30人で、土下座したもんだから、ぶったまげたな。僕がさっき言ってたびっくりした話ってのは、この話なんだよ。30人がみんなうずくまってるさまはなかなか見モノだったぜ。でも、その光景を写真に撮るのを僕は忘れちまったんだ。実に惜しいことをしたもんだよ。早く映画始まんないかな、とか考えちゃってたのがまずかったんだな。そうそう、今日観た映画は3本なんだけど、朝一で観た『Lost Paradise in Tokyo』以外の2本は話についていけなかったんだな。英語の字幕がわかんなくて。その代り、『Lost Paradise in Tokyo』は日本語で、内容も面白かったから、良かったよ。知的障害者の兄を持つ電話営業の男と、秋葉原で地下アイドルやってる女の子が出てきて、、まあ、その三人の話なんだけどさ。僕は全く知的障害を持った人と関わったことがないから、実際のところがよくわからないんだけどさ。この弟は、兄の存在を会社の人に隠したり、人のウチの壁や窓にに落書きをする兄を叱ったりはするんだけど、嫌いだったりはしないんだな。兄と自分の世界に誰かが入ってきたり、誰かに見られたりするのは嫌なんだけど、兄自体には特にネガティブな気持ちを持ってはいない。むしろ、兄と自分と2人だけだったら良いのに、って思ってるんだよね。へーそうゆうものなのか、って僕だったら、兄自体に耐えられなくなってしまいそうだけどな、と実に差別的で不道徳なことを思ったりしたわけなんだけれども。タレントが一切出てないところも良かったな。24時間テレビでやるドラマもそうなんだけど、障害者の役をタレントがやると、結局そのタレントを観てしまって、リアリティというか、生々しさにかけるところがあるからな。でも、タレント出てないし、テーマがこれだし、あまり売れないんだろうな。実に惜しいですね。これ読んだ人はぜひ観てくださいね。やってる劇場も少なそうだけど。

0910152419

$Michina(ミチナ) 世界一周旅行の記録