消えたメッセージ
毎晩届いていた「おやすみ」のメッセージが、
ある日突然こなくなった。
3年間、続いていた習慣が、まるで夢のように消えた。
香奈子と連絡が取れなくなって、半年が過ぎた頃、私は、ふと古いスマホを手に取り、香奈子との思い出をたどった。
そして、最後のメッセージが、未送信のまま保存されていることに気がついた。
「本当はまだ、香奈子が好きだ!」
ためらいながらも、私は、そのメッセージを
送信してみた。
すると、不思議なことに、すぐに返信がきた。
「ずっーと、待ってた。」
画面に表示された「ずっーと、待ってた。」の文字を見た瞬間、心臓が大きく脈を打った!
まさか半年も経って、こんな形で返事が来るなんて!信じられない思いで、私は、震える指でさらにメッセージを打とうとした。
しかし、その瞬間、スマホが鳴った。
画面に表示された名は、香奈子。
半年間、ずっと音沙汰がなかった香奈子からだ。

「嘘。」私は思わず、呟いた。応答すると、
少し途切れた電波の向こうから、懐かしい声が聞こえてきた。
「もしもし?」
その声は、確かに香奈子だった。しかし、どこか不安そうで、隠しきれない戸惑いを感じたが、
「なんで急に、返信してきたんだ?」
私は、真っ先に聞いてしまった。
「急にじゃないよ。」
香奈子は、小さなため息を付きながら続けた。
「ずっと、返信しようとしてた。でも、できなかったの。」
「なんで?」
しばらく、沈黙が続いた後、香奈子は、静かに話し始めた。
「実はね。あの頃、私、ずっと入院してたの。」
私の胸に、冷たい衝撃が走った。何も知らなかった。香奈子が消えたのは、私との関係が終わったからじゃなかった。
「連絡しようと思ったけど、……なんて言えばいいのか、分からなかったの。」
香奈子の声は、かすかに震えていた。
「だから、毎晩、あなたに『おやすみ』って送りたかったのに、……途中で止めるしかなかったの。」
私は、しばらく言葉を失った。
香奈子の一人で抱えていた孤独と不安が、胸に刺さるように伝わってきた。
「もっと早く言ってくれれば、よかったのに。」私は絞り出すように言った。
「それができなかったから、今でも後悔してる。」香奈子の声は、小さかったけれど、そこには、誠実さがにじんでいた。
「俺も後悔してるよ。」私はそう言いながら、スマホの画面をもう一度見た。「あの未送信のメッセージを、もっと早く気づいていれば……」
香奈子は、くすっと笑った。
「でも、今届いたから、いいじゃない?」
「そうだね。」私は少し笑い返した。
「ずっと待ってたんだもんな。」
「うん、だから、これからまた始めよう?」
香奈子の声が、少しだけ明るくなったのを感じた。

「もちろん!もう一度、やり直そう。」
スマホの向こうから、香奈子の深い息の音が、聞こえた。その音が、何かが解けていくような温かさを持って、私の胸に響いた。
それから私と香奈子は、毎晩「おやすみ」のメッセージを送り合っている。それは、あの頃と何一つ変わらないようでいて、確かに前に進んだ証だった。
失われた時間は取り戻せなくても、これからの時間を一緒に紡ぐことはできる。香奈子との人生が、再び動き出した。今度こそ、終わらせないと誓いながら。
おわり