中東ってどこ? | 中東情勢入門? ~マニアがご説明します~

中東情勢入門? ~マニアがご説明します~

 アラビア語・中東政治専攻、治安分析等々、中東8か国を訪問した男が、「遠くてややこしい」と思われがちな中東をご説明します。

 結論から言えば、万人共通の答えはありませんが、だいたいイラン以西、アラビア半島を含み、エジプトもしくはイスラエル以東の地域を指します。

   よろしければ、こちらのグーグルマップを見ながらお読み下さい。
    (一から地図作る能力がないもので・・・汗)

 「東アジア」や「中央アジア」など他の地域概念もそうですが、世界中の人がそろって同じように解釈する用語ではなく、まさに時代によって変わるモヤモヤしたエリアなのです。
  (例えば、ベトナムが東アジアなのか東南アジアなのか、メキシコが北米なのか中米なのか南米なのか、人によって違いますよね?)

そのモヤモヤ感の原因(?)とも言えるのは、
 ①エジプト以西の北アフリカ諸国②トルコ③アフガニスタンです。
  ・・・どれも「中東」の一部、と思われている方も多いのでは?
 間違いではありませんが、人、公的機関やマスコミなどによって捉え方が異なります。


《①エジプト以西…(別名:北アフリカ)》

 アフリカ大陸の北東端に位置し、シナイ半島でユーラシア大陸とつながるエジプト。まさに、アフリカとアジアの接点です。
(ちなみに、中東は「西アジア」と呼ばれることもあります)

 エジプトの南隣はスーダン、西隣はリビア、続いて地中海沿いにチュニジア、アルジェリア、モロッコ、モーリタニアと続きます。

 「北アフリカ」と呼ばれるこの地域、特にその端にあるエジプトは、【中東でもありアフリカでもある】と見られることが多いのです。
 両地域がオーバーラップしているのですね。

なぜか。
それは、次回のブログでもご説明しますが、これら北アフリカ諸国の人口のほとんどが【アラビア語を話す民族=アラブ人】、つまり多くの中東諸国と同じ民族だからです。

 「民族」とは、平たく言うと「言語と歴史を共有するグループ」、つまり同じ言葉を話し、「自分達のルーツは同じ」と感じている人々のことです。
   (…民族と宗教をごっちゃにする人が多くいますが、両者は全く別のカテゴリー。
    これは中東を理解する上でかなり重要なので、また説明します)

 方言があるとは言え、同じ言葉を話す人々は同族意識を持ちます。現代ではマスメディアが発達し、同じアラビア語のテレビや新聞で、同じアラブ人のニュースを見聞きすれば、他の地域のニュースよりも関心を持つのは当然です。

 そういう背景もあって、北アフリカ諸国の政治・外交・経済は中東諸国と密接に関係していることから、両地域は【中東・北アフリカ】、英語ではMENA(メナ)=Middle East and North Africaと総称されることが多くなっています。

中東・北アフリカ諸国の例

図: 「中東・北アフリカ(MENA)諸国」の一例
        ※ 日本語版ウィキピディアより (日本語版は当てにならないので滅多に引用しませんが、便宜上掲載させて頂きます)
        ※ スーダン(エジプトの南)はMENAに入れていいと思います。
        ※ ソマリア(アフリカ東部の角)は、公用語がアラビア語であることや、アラブ系のイスラム武装組織が活動中であることもありますが、通常は東アフリカに分類されます。  



《②トルコ》

 シリアとイラクに乗っかって、ギリシャと何となくつながっているトルコ。
先に話したエジプトと似ていて、アジアとヨーロッパの接点に当たります。

 それだけに、「トルコはヨーロッパかアジア(=中東)か」という議論は、トルコ国内でも長い間論争を巻き起こしてきましたが、結局のところ、【中東でもありヨーロッパでもある】という他ないのが現状です。

 EU(ヨーロッパ連合)が拡大し、トルコとの経済関係が増大する中、多くのヨーロッパ諸国の政府やマスコミはトルコを暗に「ヨーロッパ」と見なすようになってきました。
 (フランス外務省、英BBCに加え、米国務省もトルコを「ヨーロッパ」、もしくは「ヨーロッパ&中東」に分類しています。)

 当のトルコでは、2002年にイスラム色を帯びた公正発展党政権が誕生すると、従来のヨーロッパ一辺倒外交から、中東諸国を重視した外交へ急転換しましたが、それでもEUとの関係強化に励んでいます。

 ちなみに、日本の外務省は先進国としては数少なく、トルコを「中東」のみに分類しています。


《③アフガニスタン》

 アフガニスタンこそが、先に述べました「中東は時代によって変わるモヤモヤしたエリア」を象徴するようなケースです。

 この国はイランと南アジアの国パキスタンに挟まれており、最東端の国境は中国と接します。
それなのに、特に十数年前からは主にアメリカと日本のマスメディアで「アフガニスタン=中東」という報道が行われてきました。
 
 決して間違いではありません。確かに、アフガニスタンの公用語にはイランと同じペルシャ語が含まれていますし、歴史的にはイランとの関係も深いです。

 特に、2000年代の国際情勢の中で、アフガニスタンは次第に「中東情勢」に組み込まれていきました。
 1996年から2001年の内戦で中東諸国から多くのアラブ人が義勇兵として参加し、その一人であったウサーマ・ビン・ラーディン(サウジアラビア出身)が、同国をイスラム過激派組織アルカーイダの拠点にして以降、米国による“対テロ戦争”の標的にもなりました。

 しかし、改めて今アフガニスタンを見つめ直してみると、アフガニスタンのイスラム過激派の影響力は、南アジアの隣国パキスタンにとどまり、また同国の経済もパキスタンにかなり依存しています。

 こうした背景から、日本の外務省を含め、多くの主要国外務省やBBCなどの国際メディアは、アフガニスタンを中東ではなく、南アジアと分類しているのが現状です。


…以上の理由から、
当ブログでは、トルコを含み、アフガニスタンを除く中東・北アフリカ諸国を主に取り上げることにします。