庭、シジュウカラ | 渡辺やよいの楽園

渡辺やよいの楽園

小説家であり漫画家の渡辺やよい。
小説とエッセイを書き、レディコミを描き、母であり、妻であり、社長でもある大忙しの著者の日常を描いた身辺雑記をお楽しみください。

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 我が家の猫の額ほどの庭には、目隠し代わりに樹木が何本か植わっている。
 この季節、木々の葉はぐんぐんそだち勢いを増し、日に日に緑の影が濃くなってくる。夏にはざわざわした緑の茂みが涼やかで気持ちいい。
 しかし。
 東京の住宅密集地なので、この樹木たちはけっこう手がかかる。
 隣家が境界ぎりぎりまで家を建てているので、目隠し代わりのうちの木々の落ち葉が隣家の屋根やといに落ちてしまう。それでたびたび注意をされる。上に伸びる木なので、高枝ばさみくらいではおっつかないので、自分だけでは始末におえないのだ。掃除しにいったり植木屋さんに剪定を頼んだりしなくてはならない。しかし、毎年樹木は葉を生い茂らせる。お金がかかるのだ。
 もういっそ全部伐採して、隣家のうちに面してる窓には目隠しをつけてもらおうかと思っていた。
 そういうやさき、庭を猫とながめていた娘が、パソコンに向かっている私に
「おかあさん、庭に鳥が来ているよ、あの小鳥なんていうの?」と、声をかけてきた。背中ごしに庭の鳥のさえずりを聞いた私は
「シジュウカラじゃない」と、答えた。
「尾っぽが長いからオナガじゃないの?」と、娘。世田谷区の区鳥がオナガなので、娘は知っている鳥の名前をいってみたらしい。
「オナガはぎゃーぎゃーと汚い声だから、違うよ」と答える。
「えー?ほんと、ね、見てよ見てよ」と、娘が腕をひっぱるので、縁側に出て、娘と二人で息をひそめて庭の木々の間を見つめる。
「ほら、いた、あれあれ」娘が指差す辺りに、何羽かのシジュウカラたちがさえずりながら枝から枝に飛び移っている。
「やっぱりシジュウカラだよ」と、私。
「ほんと?」と、娘。
そこで、素早くパソコンで探してシジュウカラの画像と声を出してやる。
「あ、ほんとうだ」と、娘。
「でしょ?お母さんは声だけでわかるんだよ」と、少し自慢。
それから二人で縁側にもどって、またしばらくシジュウカラたちをながめる。
「お腹がかわいいね」「うん」
 庭の木々を全部伐採してしまったら、野鳥たちの訪れもなくなってしまうだろう。
 やっぱり木たちはこのままにしておこうかな、と思う日曜の昼下がりなのである。