虎、無事保護 | 渡辺やよいの楽園

渡辺やよいの楽園

小説家であり漫画家の渡辺やよい。
小説とエッセイを書き、レディコミを描き、母であり、妻であり、社長でもある大忙しの著者の日常を描いた身辺雑記をお楽しみください。

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  昨日も炎天下、娘と夫と近隣のおうちにチラシをポスティングしてまわった。
 するとまだ通りでポスティングしている最中に、チラシを見たこの近所の野良猫保護対策に熱心な方が電話して来てくれて
「私、すぐそちらに行くわ」と。
 もともと虎は、この人が捕獲した野良の子猫を獣医さんから貰い受けたものだったのだ。
 こんなに反応が早い人は初めてで、恐縮しながら帰宅する。
 家に入ると夫が台所で
「猫だ!」というので、急いで見に行くといつもの野良猫だった。
 その猫はいつも通り塀伝いにうちの庭に歩いて行く。
 その姿を目線で追いかけたら、お隣の塀の上に見慣れた猫の姿が見えた。
「あ、虎だっ」
 私はあわてて庭に回った。
 しかし、庭に出るとすでに虎の姿は無い。
「あの野良猫の姿を見たら急いでお隣の敷地の方に降りてしまった」と、夫が言う。
 塀の上にはゆうゆうとその野良猫がいるだけだ。
 家族で名前を連呼したが、虎は現れない。
 しかし、虎は確かにお隣の敷地内に潜んでいると核心が持てた。
 そこへ野良猫対策の方が我が家にやってきて、今さっき虎の姿を見たというと、
「きっとまだ近くにいるはずだから猫捕獲器をしかけてみましょう」という。
 その方はすぐにお隣のお家を声をかけて、捕獲器を置いてもいいかと訊ね、お隣さんも快く了解してくれた。
「じゃ私、夜に捕獲器をしかけて離れた所で待機していますから」と、その人が言うので
「そんな、私がやります」
「いいの、慣れている私がやったほうがいいから」と。
 とにかく居場所が確認出来て、希望がふくらんだ。

 午後8時頃、我が家の猫たちが一斉に庭に面した窓に集まって庭の方を見つめているので、これはと思い暗い庭に出て、餌入れを鳴らしながら虎の名を呼ぶ。するとお隣の塀の上に、黒い虎の影が浮かぶ。
「あなた、缶詰、缶詰とってきて!」と、私が家の中に叫び、夫が急いで窓越しにネコカンを渡す。
 私がぱかっとネコカンを開けて、餌入れに中身を入れて呼ぶと、虎がそろそろと近づいて来た。あと少し。
 食器に首を伸ばした所を、さっと首輪を掴んで抱き上げた。
 興奮して暴れる虎を、すぐさま窓を開けてもらい、家の中に放り込んだ。
 ふーぅっと興奮して、洋服掛けの奥に潜り込む虎。
 でも無事確保した!
 そこへ野良猫保護の方から電話が。
「今まで待機してみたけど現れないから、今日は引き上げるわ」今までお隣で捕獲器をしかけてくださっていたのだ。
「今、たったいま無事保護しました!」
「ああよかった!」

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 保護された虎は、30分くらい興奮して身を潜めていたが、娘が名前を呼びながらなでているとごろごろ言いだし、落ち着いたのか出てくると、いつも通り私に甘え始め、それから少し餌を食べた。汚れてすっかりやせ細っていたが、怪我も無く元気な様子だ。
 家族で安堵する。

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 16日の未明に失踪して5日目、ずっと近隣で飲まず食わずで身を潜めていたのだろう。途中土砂降りもあったし、ずいぶんと心細い思いをしていただろう。
「しかし、帰れないなら出て行かなきゃいいのに」と、夫。
「ほんとだよ」と、やっと笑える私である。

 心配してくださった皆様。
 ありがとうございます。

 今朝はいつも通りの甘えんぼう虎に戻っていました。


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