娘がバレエを始める。
父は、かねてからバレエをやる娘にあこがれていて、しきりと娘に「バレエをやらない?」と、すすめていたのだが、娘は即座に「やだっ」と、却下して、彼をがっかりさせていた。
それが先日、保育園の誕生会の催し物で、バレエをしている先生が子どもたちの前で本格的なバレエを披露したという。娘は最初から最後まで立ち上がって見とれていたらしい。その日帰ってくると、「あたしもバレエがしたい」と言い出し、毎日毎日したいしたいとせがむ。
先 週末、自転車で行ける範囲にあるすべてのバレエ教室を、娘を荷台に乗せて回ってみた。
ところが時間にならないとお教室が開いていないところばかりで、どこも見学ができずに母娘でがっかりして帰ってきて、先に電話をしてからと、リストの最初のバレエ教室に電話すると「今から幼児教室が始まるので、見にいらして」といわれ、あわてて再び自転車で飛び出した。
ちょうど娘と同じ年頃の娘さんたちが、かわいい練習着に身を包み、明るいスタジオで、ピアノの演奏に合わせて練習している。
娘は目を輝かせて見学し、授業が終わるともう、「ここに入る」と、言い出す。
もっといろいろ見学しても……と、思ったが、少人数でアットホーム的な雰囲気が私も気に入り、とりあえず体験教室で、と、次週から参加することにした。
娘はもう毎日わくわくどきどきだ。渋谷の「チャコット」に練習着を見に行くと、様々色とりどりの衣装にあれこれうれしそうに迷う。
かわいいバレエ着は、なかなかによいお値段だ。
しかしまあ、母なんかもう服への欲求など皆無で、20年着続けている服さえあるくらいなもので、自分が買わない分を娘に回せばいいや、と、解釈する。
指折り数えて待った初めての練習。
1時間、休む間もなくびっしりお稽古。
すでに様々なポーズを習得しているお姉さんたちに混じって、娘は懸命に見よう見まねでついて行く。
終わると「からだがいたーい」
それでも非常に楽しかったようで、娘は当分バレエを続けてみるという。
ここにきて、父の野望がかなったのである。
やはり、目の前の本物の魅力にはかなわない。百聞は一見にしかず、とはこのこと。
仕事が忙しい。
夜明け前に起きて仕事するパターンはそのままだが、その分、昼間に30分ほど横にならないと夕方からの体力が保たない。
布団に寝ると本格的に寝てしまうので、床にごろ寝だ。
その際、漫画や本などぱらぱらながめたりする。
もう漫画家を引退しすべての単行本が絶版になっているが、コアなファンが多い内田善美の漫画などとろとろめくる。
美しく哲学的な世界。
こんな世界を持ちながら、きっぱりやめてしまう。
再販の希望も多いのに、本人は再販はしないという。
細密画のような絵柄と深い世界観の漫画を見ると、これを描き続けて行くのは大変だろう、と、察しがつく。
それでも、そんなにあざやかに幕引きをできるものか。
しがなく、ぼそぼそずるずると仕事を続けている私にはとうていできない生き方だ。
しかし、娘のバレエ代のためにも、仕事をやめることなど、思いもしない。