ビデオレンタル料が357円。

財布の中にはお札が数枚と小銭が23円。

小銭が増えるのは好きでないので、1012円を店員に渡す。

おつりは655円。

結果、財布の中には666円分の小銭。



すべての種類の硬貨が各一枚ずつ。



この現象、滅多にお目にかかることができないので、僕の中でちょっとした「奇跡」に位置付け、さらに「コンプリート」という呼び名もつけている。



久々のコンプリート。

思いがけない奇跡に胸も踊る。



しかし、今回の奇跡はただの奇跡にとどまらなかった。



ふと思い立ち、先ほど財布に入れた五百円玉を取り出し、眺めてみる。

「平成六年」

と、表面に刻印。



これは…。



続いて百円玉を取り出す。

「平成六年。」



五十円玉。

「平成六年」。



唐突に訪れるのが奇跡。



しかし、本当の奇跡が起きるときというのは、得てして予感がするものだ。

僕は完全に予感していた。

一度財布に入れた五百円玉をわざわざ取り出したのも、そのためである。



人生初のスーパーコンプリートか…?





財布に指を差し込み、十円玉をつまむ。

指先に感じる凹凸のひとつは日本が誇る世界遺産「平等院鳳凰堂」。

そして、もうひとつは奇跡の種「平成六年」か。



いきおいよく十円玉を抜き出す。





「平成十三年」。





見事、箸にも棒にもかからず。



ここで、算数。

6種類すべての硬貨が「平成六年」製である確率は

およそ、16,000,000,000分の1(現存しない年製の硬貨もあるので誤差あり)。

ジャンボ宝くじ1等の当選確率は

およそ、10,000,000分の1。

1億円当てるより1600倍も難しい。

そんな奇跡、起きるわけがない。

そんな奇跡、起きなくていいから1億円ほしい。

無駄な奇跡、起きてほしくない。

コンプリートってなんだ、大の大人が気色悪い。