先月末にマカオ、香港、台湾のアジア各国のワタミの店を視察してきた。

初日はマカオに向かった。カジノを含む巨大IR(統合型リゾート)施設「ギャラクシーマカオ」には、今年1月にオープンした高級ブランド「饗和民」がある。天井も高く、内装に数億円をかけた店は、1日200万~300万円を売り上げている。

中国経済は失速しているといわれているが、マカオをみると、閑散期にもかかわらず、多くの利用客であふれかえっていた。カジノで一晩に1000万円、2000万円使う人で、すごい熱気だった。富裕層のパイの大きさを実感したが、現地では「1年働いて、1日でマカオで使い切る」という中間層の人も多くいるという。

この世界一売り上げるワタミの店は、10年がかりだった。コロナ禍などもあり、なかなかプロジェクトが進まなかった。しかし担当社員が粘り強く、先方と関係を続けたことで出店にこぎつけた。ウサギとカメで言えば、カメが大きな成果をもたらした形だ。リゾート内に2号店の出店も決まり、今後も期待できる。

翌日は香港に移動したが、2020年に導入された香港国家安全維持法の影響もあり、中国の色彩が濃くなり若者や外資系企業が次々と海外に流出している。街も驚くほど活気がなく、売り上げは苦戦している。ただ現地の社員には「だからこそできることがある」「香港で一番の店にするという大きな発想を持ってほしい」と逆境なりのエールを送った。

これに対し、絶好調なのが最終日に訪問した、台湾のワタミだ。台北駅の駅ビル内の薩摩牛食べ放題の焼肉店「かみむら牧場」が大ヒットしている。さらに「手作り厨房和民」という定食屋が絶好調で出店攻勢を続けている。経済にも勢いを感じる。一方で、国民が台中関係について気にしているのが印象に残った。台湾が香港のようにならないか、現地の社員もとても心配していた。

ワタミは今月、創業40周年を迎える。日本では「ミライザカ」「鳥メロ」などのブランドで展開しているが、海外では「和民」の屋号を背負った業態が繁盛しているのは非常にうれしく思う。そうした中、40周年の感謝企画として、5月13日の月曜日に東京・大井町駅前の「和民のこだわりのれん街」で一日店長として数十年ぶり店に立つ。夕方5時半から9時頃までの予定だが、往年のおもてなし接客をしたい。

ワタミは、居酒屋なのに、ひざをついてご注文を伺い、両手でおしぼりを渡すサービスで、それまでの居酒屋チェーンのイメージを変え、文化を創ってきた。時代は、タッチパネル注文だが、ホスピタリティの原点は変わらず大事にしていきたい。当日は夕刊フジ読者のみなさんともぜひ、お会いしたい。

円安が進行しているが、日本の外食企業が世界に進出するには好機到来だ。日本の食とおもてなしは世界に通用する。経営とはどんな時も「だからこそできること」がある。 

 



【夕刊フジ】「渡邉美樹経営者目線」(毎週火曜日連載)より