日本銀行の植田和男総裁が、感染症による入院のため欠席という異例の事態の中で、日銀の金融政策決定会合が行われた。重要政策の変更を決定する局面で、植田総裁が、投票も不参加というのは、やや違和感を覚えた人も多いと思う。

長年、日銀を取材している経済ジャーナリスト、原真人さんとニッポン放送で意見交換したが、政策金利を1.0%に引き上げたが、為替は1ドル160円台で、ピクリとも動かなかった。政策効果はないと読むべきだという。私も、企業経営をしている立場から、この程度の利上げでは、実質金利はまだマイナスで、全く物価高は止まらず、意味があるのか疑問に思う。

それよりも問題視したいのが、植田総裁が金融正常化として進めてきた、国債の買い入れの減額を来年から停止すると方針転換を発表したことだ。高市早苗首相は、かねてから政策金利の引き上げに否定的だが、長期金利上昇を抑えるために、国債の買い入れ減額を停止する、その代わり、政策金利の利上げを容認してほしいという交換条件だったのではと、読む声もある。

そもそも政策金利の引き上げは、円安、物価高を抑えるため。しかし、国債を日銀が大量に買い取るという実質的な財政ファイナンスは、市中にお金を増やし、円の価値を薄め、円安、物価高を進行させる要因だ。

俯瞰してみれば、やっていることが、「その場しのぎ」だ。過去に対談本を出した世界的投資家、ジム・ロジャーズ氏は「財政ファイナンスに手を染めた国は例外なく、ハイパーインフレに見舞われている」と警告し続けている。

同じく意見交換した、元モルガン銀行東京支店長の藤巻健史さんも、今回の政策金利の引き上げで、日銀の赤字は拡大する。そう遠くない時期に、日銀は債務超過となり、日本円は世界から信用されなくなるとハイパーインフレを確実視している。

一時的に、長期金利の上昇を抑える策をとっても、その間に、財政健全化を推し進め、日銀が債務超過になった時に、政府が資本注入する状況を作るのが、今、政府日銀がすべきことだと思う。

原さんは日銀と、旧日本軍を比較した例えをよく用いるが、今の日銀は、沖縄地上戦の局面で、ここから先は、玉砕覚悟の金融政策になると懸念していた。ハイパーインフレという形の日本敗戦は、いよいよ避けられないのでとは心配する。いずれにしろ、円安、物価高は止まらず、米ドルなどで資産保全していくしかない。

先日、ワタミの宅食の営業所を視察したが、物価高の声は切実だった。ワタミの宅食のお客さまは年金受給者の方も多い。賃金上昇とは無縁で生活防衛に入っている。来年から食料品の消費税をゼロか、1%にする案が、ほぼ確実になった。外食産業は大きな影響を受ける。消費税のかからないテークアウトを選択するだろう。

コンビニエンスストアが普及したころのように家飲みが増えるかもしれない。ワタミは、宅食や、テークアウト比率の高いサブウェイもあり、こうした事業を強化していきたい。ワタミの宅食の現場からは、居酒屋「和民」の商品を家庭で手軽に食べられる「晩酌セット」を出してほしいと提案された。面白い発想であり、さっそく商品化の検討を指示した。

財源があいまいのまま、与野党賛成の食料品消費税減税は、究極の「その場しのぎ」の政策だ。政治家には「その場しのぎ」の先の、国家経営を示してほしいものだ。

 



【産経ニュース】「渡邉美樹経営者目線」(隔週火曜日連載)より