映画監督の市川崑さんが先日お亡くなりになりました。

市川監督とは、「細雪」という作品でご一緒した事があります。
それは、ちょうど今から25年ほど前、アメリカ留学を終え帰国したばかりの頃でした。

その時からさらにさかのぼる事4年前に音楽を担当した映画「関白宣言」の時にお世話になった音楽プロデューサーの岩瀬さんに声をかけていただいた事がきっかけでした。

当時の市川監督は、映画「炎のランナー」の音楽(ヴァンゲリス作曲)をお好きで、「細雪」の音楽に関しては、監督が指定したクラシックの名曲(ヘンデルのラルゴやパッヘルベルのカノンなど)をシンセサイザーのみで映像に合うように編曲して欲しいという内容でした。

ですから、音楽を担当したと言っても、私の作曲という要素は、残念ながらほとんど出て来ません。

それでも、市川監督と言えば、もうその当時、巨匠と呼ばれる存在で、とにかく音楽を担当出来るというだけで、大きな喜びでした。

当時は、現在とは違って、シンセサイザーもとても高価で、同時に発音する音の数も5音だったりと非常に少なく(現在は少なくても127音。コンピューターの性能が良ければ、無限。)、一つの和声を作り上げるのにも何度も音を重ねる事を繰り返し、膨大な時間を費やして作り上げました。当然の事ながら、今、聞いてみると、今の市販されている音源を使用すれば、もっと簡単により魅力的な音色で作り上げられたのにと思ってしまう訳ですが、時代の差とは、そういうものなのです。

録音の大橋さんが音楽に関して市川監督の女房役のような存在で、監督の要望を聞いては、私に伝え、私がそれを元に編曲・演奏を繰り返し、砧の東宝の録音スタジオに泊まり込み状態に近い感じで何日もかけて作り上げて行った事を懐かしく思い出します。(音楽には、私の名前の前に大川新之助という名前がクレジットされていますが、実は、この大川なる人物は架空の存在で、市川監督と録音の大橋さんを表しているのです。大橋さんと市川監督のそれぞれの名字から一字を取り大川として、新人という事で新之助にしたのです。)

巨匠と呼ばれる存在は、圧倒的な才能をお持ちの反面、とても我が侭なところもあるものです。

ある時などは、監督の希望に合わせて何時間もかけて音楽を修正し、やっと出来上がって監督に伝えると、「そこは、映像の編集を変えてしまったから・・・・。」とあっさりと言われ、がっくりとくることもありました。

また、音楽の使用の仕方も、常に映像と縦の時間軸でサウンドが合っている事を優先されるので、横の時間軸で考えると納得のいかない音楽の編集をされているところもあります。

正直に言ってそういった音楽家としての不満も持ちながら携わった仕事でありましたが、出来上がった作品を見て、その映像美の素晴らしさ演出力に感嘆し、そういった不満もどこかに飛んで行ってしまいました。とにかく映像が美しく、それぞれのカットが斬新で効果的で圧倒されます。偉大な才能です!

その「細雪」が本日の夜9時からNHK BS2で放送されます。
市川監督の映像美を是非、堪能して下さい。




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