一昨日にNHKで放送された「課外授業 ようこそ先輩」は、とても興味深い内容でした。
今回の課外授業の先生は、アニメ映画の監督として世界的に活躍されている押井守さん。
授業のタイトルは「見方を変えて退屈をけとばせ」でした。

押井監督は、自分がかつて卒業した小学校を訪れ、今感じるその小学校の風景が自分が記憶していたものよりずっと狭く小さく感じたということを生徒たちに伝え、実際の風景の方は変化していないが、自分が大人になることで感じ方が変わった訳で、今回の授業で伝えたい事は、まさにその事なのだという事を説明する所から始まりました。(「自分が変われば景色も変わる」)

そして、それを生徒たちに体感させるために隅田川を船で走り、そこからしか観る事の出来ない東京の風景を観て行きます。普段は観る事のない船から観た東京。日本橋や高速道路やビル群などを下から見上げる風景は、独特で巨大な未来都市のような風景として感じられ、生徒たちも驚きます。

次に向かったのは、都心の高層ビル。
その最上階から下の風景を眺め、その前に船から見上げていた風景が今度はどのように感じられるかを体験するのです。

同じ風景が今度は、鳥のような視点から見下ろすことで模型のように感じられ子供たちに新鮮な驚きがありました。

自分の視点を変えることで同じ風景が変わって見えるというのは、言われてみればあたりまえのことですが、常にそれを意識して生活すると生活の楽しみが増すように感じられ、あらたな発見があると思いました。押井さんのような映画監督や画家やカメラマンのような仕事をしている方々は、普段こういったことを意識して生活しているのだろうなと想像しました。

子供にとって大人が偉そうに感じられるのは大人の目線が子供より高い位置にあるからだとか、様々なことをこどもたちに伝えて行きます。

自分の作品を見せてその風景の中に人物や犬猫などの生き物が全く登場しない映像を描く事で、非日常的な効果を表現した事を伝え、色々な事を想像してみる事の面白さを伝えようとします。

自分たちが通っている小学校でも昼間と誰もいなくなった夜とでは感じ方が変わる事を想像させます。『夜ここにきたらどうなるか?」の監督からの問いかけに、子供たちは、即座に「怖い。」と応え、監督はそれがなぜだかを考えさせます。

「普段見慣れている町の風景も、あるものをなくしたり、あるものをプラスすることで違う風景に見えてくるのではないかと気付いた。」という監督ならではの創造の秘密に迫るヒントを子供たちに伝えます。妄想の面白さをこうやって子供たちに伝えて行きます。
監督は、子供の頃から妄想家だったそうですが、芸術的な創造力や気付きをのばすヒントが感じられました。

「世界の果てに行ってすごい風景を撮影する事が映画じゃない。見慣れたものが恐ろしく違ったものに見える瞬間、その時間を形にする。それを探し出すのが映画の仕事。」と監督は語ります。

違う世界を観る事の楽しさをさらに子供たちに伝えようとする中で、「東京に朝、雪が降っていたら楽しいでしょ。」と問いかけます。そして「雪が降る事で普段見慣れた風景が変わって見える訳だが、それを雪が降るのを待つのではなく、雪が降ったらと想像してごらん。」と提案します。非常に判りやすい妄想への入り口です。作家、映画監督、音楽家などの分野には欠かせない感性のトレーニングだと思いました。

押井監督の創造の秘密についてのヒントが満載の興味深い内容の番組でした。