昨日の夜、帰京しました。2日間滞在した石川県でしたが、充実した時をすごすことが出来ました。とても貴重な体験もしましたがそのことは、明日以降に書いていきますので楽しみにしていてください。

今日は、9日の事を書きます。

まず、午前中は、本広監督立会いのもと、「UDON」の音楽のスタート・ポイントなどの確認作業をしました。

先日書いたブログの中で、映像音楽には、映像に合わせて作曲していく場合と選曲方式の二通りのやり方があると説明しました。「UDON」は、映画作品なので大半の音楽については、前者のやり方、すなわち映画音楽の基本通り映像に合わせて作曲をしました。

ただ、その場合でも音楽のスタート・ポイントが、0.5秒ずれるだけでも自分が意図したものと違ってしまうため、その位置の最終確認をする必要があるのです。

また、本広監督の場合は、映画であっても選曲方式を部分的に使います。特に笑いが含まれるシーンについては、音楽を程良いタイミングで抜いたりする(音楽をそのポイントで一時的に止める)と効果があるので、出来上がった音楽を色々な行き方になるように編集して使用します。

映像に合わせて書いた音楽についても映像に合わせた結果、スタート・ポイントを変えたくなったり、あるいは、本来必要ないと思っていたシーンに音楽を欲しくなったり、逆に書いた音楽をはずしたくなったりすることも有ります。その場合でも音楽の編集作業が必要になることもありますが、どのように編集するかは、選曲を担当した方の音楽的センスが問われることになります。

この編集作業も含む選曲等を今回担当しているのは、スポットという会社の藤森義孝社長と岩本泰及さんです。お二人とも本広監督の厚い信頼を得ている方々で、とてもセンスの良い編集で嬉しく思いました。(音楽的に破綻しないように映像に合わせる編集と言うのは、なかなか難しい作業なのです。)

作品を頭から最後まで8等分したものを1ロールずつ見ながら、本広監督と共に修正すべきことの確認をし、この作業を終えました。後は、本格的なダビング作業の中で効果音やセリフとのバランスなどを考えながら音楽をどの位の音量で出していくかという部分が残されますが、そこは監督にお任せすることにしました。

私は、映画は基本的に監督の作品と思っているので監督の意向にできるだけ沿うように考えて仕事をしています。その意味からもバランスについては、全体を最も把握している監督の感覚に委ねるのが良いと思うのです。



「UDON」の選曲担当の岩本さんです。12月にお母さんになります。

この日の午後からは、前日に録音した「新・人間交差点」のTD(トラック・ダウン)でした。TDについては、先日のブログで書きましたので作業内容については、大体お分かりいただけると思います。

今回のエンジニアは、鈴木勇一さんです。鈴木さんとのお付き合いは長く、私がNHKの中で最も信頼しているエンジニアの一人です。(もう一人は、同じくベテランの深田晃さんです。)それぞれ音楽的個性が違うので、音楽の内容(サウンドの傾向の違い)によってどちらかにお願いしています。

鈴木さんは、実力があるのはもちろんの事、長年のお付き合いの中で私の音楽をよく理解してくれているので、TDについてお任せでもほとんど問題なく、最終確認をするだけでほぼOKという感じです。たまにイメージと違った場合、「ピアノの音色をもっと水のような冷たい感じにしてほしい。」というような極めて抽象的な言い方をしてもすぐにイメージどおりの音にしてくれます。

最近のTDは、コンピューターの中で行われるので、何曲か出来上がった時点でまとめて聴くことも出来ます。それを利用して、このTDの合間に、別の仕事の打ち合わせをしました。以前作曲した「葉っぱのフレディ」というビデオ・アニメ作品の音楽を編曲し直す仕事です。(この仕事をこれからやります。)

以前の演奏は新日本フィルハーモニーでしたが、この作品を「霧島国際音楽祭2006」でアニメを上映しながら音楽を生で演奏することになり、編成的にオーケストラを使用できないため、ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、クラリネットという編成に編曲し直すことになったのです。(語りは、石坂浩二さん。)

構成・演出の宇井孝司さんは、長年の友人でもありますが、音楽をとても大切にする演出家で、絵コンテの段階で彼が出したタイムに合わせて作曲した後、多少のタイムのずれを気にすることなく先に録音し、後でその録音した音楽に合わせてアニメを作っていくというような方式で仕事をする人です。

この方式を採ることにより、クリックと呼ばれているメトロノーム代わりのものを使用することなく、音楽的にテンポを揺らしながらの演奏も可能になり、質の高い極めて音楽的な録音をすることが出来るのです。

そして結果、映像の内容に音楽が完全にシンクロした作品が生み出されるのですから言うことありません。これほど音楽にこだわる演出家は私の知る限り、日本では彼だけです。(もしかすると世界でも彼一人かもしれません。)若かりし頃に手塚治虫さんの下で「森の伝説」というディズニーの「ファンタジア」のような作品を手がけたこともある宇井さんらしいこだわりの作り方です。

「新・人間交差点」のTDは、順調に進み翌日の2時ごろ完成しました。後は、これから出来上がる映像にどのように音楽を当てるかという作業が残されていますが、仕上がりがとても楽しみです。第1回目の放送は7月29日の21時からですが、その後の放送は特別番組が入るため、隔週になるようです。みなさん是非忘れずに見てくださいね!




「新・人間交差点」のエンジニアの鈴木さん

「葉っぱのフレディ」の演出家の宇井さん