前回書いたバッハの演奏会の二回目、平均律の二巻の演奏会ときのこと。
午前中にテニスをしてそれから青葉台に向かったので到着時間ギリギリ、
走ってホール二階席に入った。

席に座ると左は空席、右は50~60代くらいの女性が座っていた。
別にどうするってことも無いけど隣が空席だとちょっと「ラッキー」と思っちゃう。
隣のひとがどういうひとかというのは真剣に聴きたいときに大問題なのである!
右隣の女性はひとりで来てるっぽいつつましやかなおばさまだし今回は集中して聴くことが出来そう

そして演奏会は幕を開けた

第一曲が奏でられ「今回のピアノはスタインウェイだなあ」(前回はベヒシュタインだった)とうっとりしていたとき


「ンゴーーーーーッ、ンゴーーーーーッ」


まだ開始1~2分で右隣から寝息が聞こえ、
その寝息はすぐにいびきに変わった。




前に座っているひとも振り向くまではしないが、
聞えて来るいびきが気になっているそぶり。


私は考えた。
休憩に入ったら女性に言ってみようかな、、、
「私埼玉に住んでるのでここまで2時間以上かかるのだけど、
どうしても聴きたい!と思って楽しみに来たのです。
集中して聴くことが出来ないのでどうにか音を立てないようにお願いします!!」

いやいや、、そう言われてもひそひそ話と違っていびきだからね。
お願いされてもどうなんだろう、、。
そんな自問自答する中休憩に入った。
結局一曲目から休憩に入るまでの間、絶えずいびきが聞えていたのだった

休憩中、その女性の知りあいらしき同年代のおばさまが来た。

「こんにちは~
今日は3時間くらいの演奏会になるんですってよ。
どうかしら?素晴らしい?」

「え、ええ

そんな会話を横目に
「一音も聴いていなかったのに?」とつっこみを入れたくなったがかろうじて我慢した。
そう、休憩が終ったら少し気を取り直して下さるかもしれない。
それに期待しよう!

そして休憩後、、、、、
その期待は見事に裏切られたのであった

その日の演奏会は長丁場だったので二回休憩があった。
たぶん一回の演奏は一時間くらい。
なのでおばさまは二時間くらいは昼寝したと思う。
本当に今度こそ、休憩後にはすっきりされて聴く体制になってくれるだろう。
自分に言い聞かせるようにして席に座り最後の演奏が始まった。

思ったとおり、
今度は寝ていない
あー、やっとゆっくり聴ける

しばらくは平穏な時間が流れた。
そうしばらくは、、、、、


「ズズズッ。 
ズズズッ。」




今度聞えてきたのは鼻をすする音だった
詰まった鼻水というより、水ッ鼻が垂れてきそうになりすするみたいな?
10秒に一回くらいの間隔。

これも悪意は無いのだろう。
それはわかっているのだけど、、、。

結局最初から落着かないまま最後の曲が終った。
そしてアンコールの時間。
心の中でつぶやいた。

「もう帰れば?いや、お願いだから帰って下さい!!!」

その念が届いたのか?
拍手の中女性は立ち上がってホールを出て行った。

「わ、やった


アンコールに弾かれたのは平均律一巻の一番のプレリュード。
その短い時間がその日の至福の時間になったのでした、、、。