テーブル席で向かい合って飲んでいる川瀬絵梨(32)と後輩・蓮見陸(24)。

 

陸 「だからやっぱ先輩は俺と付き合ったほうがいいですって!」

 

 

慣れた様子で聞き流している絵梨。

 

絵梨「はいはい……」

陸 「あー、先輩俺の話、本気にしてないですよね。ちゃんと聞いてないでしょ!」

絵梨「聞いてるよ、ね、もうちょっとペース落としたら?明日も会社……」

陸 「全然平気です。すいませーん!」

 

店員を呼ぶ陸。

 

絵梨「もっと声小さくても大丈夫だよ」

陸 「(気にせず)先輩も頼みます?あ、俺、お替りで……(グラスを持ち上げ)え、これ何でしたっけ?」

絵梨「いやどう見ても生でしょ!」

陸 「先輩も声でかいし」

絵梨「だってさっきから何杯飲んでんの! 全然平気じゃないじゃん」

陸 「(店員に)じゃあ、やっぱやめてハイボールください。先輩は?」

絵梨「……私はもうちょっとしてからでいいや」

 

(落ちちゃダメだ。落ちちゃダメだ。落ちちゃダメだ。可愛いけど落ちちゃダメだ…しかし、コイツの大胆さときたら)

 

 

【回想・社員食堂】

絵梨と陸、同僚が居合わせるランチの最中に堂々と発言する陸。

陸 「好きなタイプは絵梨先輩ですね。凛としてて……カッコイイですし」

「始まったよ!」「はいはい」などと言い合う同僚たち。

 

 

絵梨 「蓮見くんあのね、私なんて8個も上だから」

陸 「年の差とか、考え方古いっすよ」

絵梨「(笑って)普通にないでしょ」

陸 「普通ってなんすか」

絵梨「上司だからって気遣ってるんだよね」

 

後輩女性「え、でも絵梨さんもまんざらでもなかったりして」

絵梨「ないないない!」

慌てて否定する絵梨。

やり取りを見つめている陸。

 

 

 

 

(でも、飲みたい時いつでも付き合ってくれるからついつい甘えてしまい…)

カウンターで飲んでいる絵梨と陸。

陸 「あれ、お通し。食べないんですか?」

手つかずのおからに目を落とす陸。

絵梨「ああ……あんまり好きじゃなくて」

陸 「じゃあ、俺もらっていいすか?」

絵梨「(渡しながら)おから、好きなんだ」

陸 「ばあちゃんがよく作ってくれたから。きんぴらとか、ひじきとか子供んときからそんなのばっか好きですね」

絵梨「へえ~。若いのに珍しいね」

陸 「(食べながら)先輩も好きです」

絵梨「(笑って)何それ、ついでか」

陸 「先輩って……弟か妹います?」

絵梨「うん、妹が一人」

陸 「あー、やっぱり」

絵梨「なんで?」

陸 「何か長女の雰囲気」

絵梨「真面目ってこと?」

陸 「何だかんだ面倒見がいいとこ」

絵梨「……」

陸 「え、俺はどっちだと思います?あ、これうざいやつだな」

絵梨「めんどくさ(と言いながら笑い)……お姉さんがいる?」

 

陸、絵梨のグラスの底にくっついているコースターをそっと外し、テーブルに置く。

絵梨は酔っていて気付いていない。

陸 「残念。一人っ子です。兄弟とか、いいすよね。喧嘩とか憧れたな」

絵梨「そんなもん?結構ハードだよ喧嘩」

陸 「姉妹もそうなんだ」

絵梨「そうそう!中学ぐらいまでは取っ組み合い。勝手にプリン食べたとか、黙って服借りたとかね」

 

笑いながら楽しそうに聞いている陸。

絵梨は素で話している自分に気付く。

 

陸 「あ、じゃあ休みの日って何してます?」

絵梨「…洗濯?しながら寝てるけど」

陸 「うわ、リアルー」

絵梨「リアルだよ! で、寝過ごして干すの夜」

陸 「え、俺気になって寝れねっす」

絵梨「時間もったいなくない?」

陸 「シワになりますよね?」

絵梨「なる」

陸 「うわ〜、アイロン掛けに行きてえ〜」

 

笑い合う陸と絵梨。

ふと笑いやんで陸の横顔を見つめる絵梨。

 

 

(正直、好きと言われて悪い気はしない。でもこんな年下の子が冗談でしょ、と思うし)

 

 

 

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