江國 香織, 松尾 たいこ
ふりむく

イラストレーター松尾たいこさんと作家の江國香織さんが、「ふりむく」というテーマでコラボレートした詩画集。昨年2004年の春に、松尾さんの絵から受けた印象を江國さんが言葉にするいうかたちで実現した個展の書籍化。当初は15点だったものに、新たに6点の絵と文章が加えられている。

昨年の個展を見て以来、書籍化を待ちこがれていた本をようやく手にした。
あらためて感慨深く眺めながら、アマゾンに出版社からのコメントとして掲載されているように、私もまたこの絵と言葉とのなんとも幸福な出会いのことを思わずにはいられなかった。
江國さんがあとがきで、「絵と文章が互いに限定し合うのじゃなく、互いのゆるさにつけこんで、勝手に同居している感じ、になっているといいのですが」と書いていらっしゃるのだけれど、私が拝見する限り、それはとても成功していると思う。どちらか一方でもその力加減が強いと壊れてしまうような、そんな絶妙なバランスでこの絵と言葉は成り立っているからだ。お互いを思いやりながら、縛りつけることもなく離れ過ぎることもなく、それぞれが別々にあっても充分に成立する作品。それが一緒にあることで、言葉は絵の世界にさらなる奥行きと広がりを持たせ、絵は言葉が呼び起こすイマジネーションをさらに深いところへと導いてゆく…。さながら、理想の恋人たちのようだ…。
松尾さんの絵のゆるやかな輪郭を持ったタッチと、大胆に繊細に配された中間色の美しさが私は大好きなのだけれど、装幀や本文のレイアウトもそのよさを生かすデザインになっていて、とても素敵な1冊。江國さんの言葉も、松尾さんの絵のそれぞれのトーンに合わせて色を変えているほどの凝りようで、まさしく絵と言葉がそっと寄り添うような優しさを感じさせる。

「ふりむく」というテーマに関して言うと、私は個展で一度拝見していたので、ページを繰るたびおのずとはじめてその絵と言葉に対面した自分ともまた向き合うことになった。奇しくもひとそれぞれのふりむく瞬間を切りとったこの本で、この1年自分の歩いて来た道に多少なりとも思いを馳せてみることになったわけだ。絵も言葉も、見るものにとってはその時どきの自分の心の映し鏡。あの時、自分は何を思ってこの絵とこの言葉と対面したのだろう…。それは思いもかけず、心穏やかでたのしい時間になった。
これからも先もきっと、私は何度もこの本を開くと思うけれど、その度にいったいどんな自分と対面するのだろう。…ちょっと、楽しみな気もする。