コーヒー&シガレッツ

先頃DVDも発売された、ジム・ジャームッシュ監督5年ぶりの公開作、「コーヒー&シガレッツ」。ジャームッシュが好きだという友人と、目黒シネマ でのリバイバルに足を運んだ。

ジャームッシュが、1986年から18年に渡って撮りためたという11本のショートストーリー。登場するのはジャームッシュ映画でもお馴染みの個性派俳優や有名なミュージシャンたち…。ひと癖もふた癖もある彼らが自らの役に扮し、コーヒーを飲みながら、あるいは煙草をくゆらせながら、とりとめもない話を繰り広げてゆく。

ところが、1本1本は一見繋がりのない10分程度の掌編でありながら、そのなかに鋭い人間観察や、ウンチクや、思わずくすりと笑いたくなる皮肉なんかがちりばめられていて、なかなかに油断がならない仕上がりだ。

ジャームッシュ独特のゆるやかに流れる時間と、時に結末もないままに放り出されるかのような不思議な空間の感覚にいつしか心地よく身を任せつつ、この日常にありふれたモチーフから紡がれる物語の意外なほどの豊かさに心を奪われてしまう。
たとえば、それは彼の映像の驚くほどの饒舌さだとかだ。コーヒーの味わい方、煙草の銘柄や吸い方をはじめ、言葉にならないちょっとした視線のやりとりや表情といったディテイルの積み重ねが、さり気ないのにひどくおもしろかったりするのだ。それはきっと、こちらの引き出しの数が増えるほどに、また味わいも深くなるに違いないと思う。

“コーヒーと煙草”のある空間から見えるさまざまな人生の断片をまるで煙草の煙をくゆらすように、いれたてのコーヒーをそっと舌の上で転がすように味わってみる。それはちょっと贅沢な時間だ。

もちろん、計算されつくしたモノクロの美しさや音楽へのこだわりなど、ジャームッシュならではの映画美学もたのしみのひとつ。

見終わった後は誰かとこの映画の魅力を分かち合うのもおもしろい。ほろ苦いコーヒーと煙草の煙を間にはさみながら…。そう、そこにもまたドラマが生まれるかもしれない。

角川エンタテインメント
コーヒー & シガレッツ (初回限定生産スペシャル・パッケージ版)

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「コーヒー&シガレッツ」

【作品データ】
2003年/アメリカ/97分/モノクロ
staff*
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
撮影:フレドリック・エルムズ/エレン・カラス/ロビー・ミューラー/トム・ディチロ
編集:ジェイ・ラビノウィッツ
cast*
ビル・マーレイ/ロベルト・ベニーニ/トム・ウェイツ/スティーヴ・ブシェミ 他

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