山形県酒田市が生んだ写真家、土門拳さんの作品を観に土門拳記念館を訪れた。

ご存じの方も多いと思うけれど、パンフレットから土門拳さんと記念館のご紹介を少しだけ…
彼は1909年にこの土地に生まれ、ライフワークであった「古寺巡礼」や「ヒロシマ」、「筑豊のこどもたち」などの多くの優れた作品により、世界的にその名を知られている。リアリズム写真を確立し、報道写真の鬼と呼ばれた時代もあったが、その芸術性は日本の美、日本の心を写し切ったところにあると言われ、数々の輝かしい賞を受賞している。1974年に酒田市名誉市民第1号となり、その全作品を郷土酒田市に寄贈、1983年にこの記念館が誕生したということだ。また、ここは日本最初の写真専門の美術館として、また個人の写真美術館としては世界でも唯一のものとしてつくられたものであるらしい。現在、約70,000点の作品を収蔵、保存をはかりながら展示している。

実はここは、先にご紹介した藤城清治の世界展を観た酒田市美術館のすぐ近く。酒田駅から車で約10分という交通に恵まれた立地にありながら、この時期は雪を戴く鳥海山とその裾野に広がる緑豊かな自然を身近に感じることができる。この記念館も飯森山公園のなかにあり、広々とした空間のなかに日本芸術院賞を受賞された谷口吉生さんの設計による建物と勅使河原宏さんの手がけられた庭園が穏やかに溶け込んで、心地よい静寂をつくり出している。遠くから見るとちょっと不思議な感じで、広い池の真ん中に四角い平らな建物がどん、とあるように見えるのだが、広く窓のとられた記念館のなかから中庭につくられた美しい庭園と、その穏やかに波打つ池を臨むことができる。普段都会で生活していると、こういう空間で過ごせる時間をとても貴重で、また幸福だと感じる。館内のゆったりとしたソファに身体を預けて、物思いにふけるひとがちらほらいたりするのもなんだか納得。

写真のほうは、私が来館した時は「古寺巡礼 斑鳩から奈良へ」「筑豊のこどもたち」からの展示だった。これも空間を広くつかってゆったりと展示してあるため作品数自体は多くないのだが、それもまた一枚一枚を丁寧に見せたいという気持ちのように思えてちょっと嬉しくなる。

彼は子どもを撮っている時も、仏像や仏閣を撮っている時も、常に大胆なアプローチで被写体に迫りながら、それでいてスッとその懐に入り込むというか、非常に繊細な表情をとらえるところがすごいと思う。写真からは土の匂いがするけれど、感じるのは荒々しさよりむしろ温かさや柔らかい肌触りのようなもの。それはきっと、彼の被写体への愛情なのだろう。前に立っていつまでも眺めていたいと思わせるような、そんな写真だ。

私はというと感激のあまり売店で本やらポストカードやらをあれこれ買い、すっかり心許なくなってしまった財布を握りしめながら、それでも気持ちはちょっとホコホコしていた。笑。

写真集も多く出ているけれど、もし酒田に行く機会があれば一度来館をおすすめしたい美術館。

【土門拳記念館サイト】(作品画像も何点か見られます)
http://www.domonken-kinenkan.jp/setup_file/setup.html