著者: 江国 香織, 荒井 良二
タイトル: モンテロッソのピンクの壁

先日、最新詩画集「パンプルムース!」の発刊を記念して新宿紀伊國屋ホールで開かれた松本猛さん(いわさきちひろさんのご子息/安曇野ちひろ美術館 館長)との対談のなかで、江國さんが「モンテロッソのピンクの壁」のハスカップがいちばん自分に近いかもしれないといたずらっぽく話されていたのがかわいらしく印象的で、遅ればせながら手に取ってみた。といっても、私が買ったのは1992年にほるぷ出版から発刊された大型本ではなくて、2004年に集英社から発刊された手のひらサイズの文庫本のほう。荒井良二さんののびやかな絵が大きなサイズで見られないのは残念だけれど、書き下ろしがたくさん加えれらているという点ではちょっと得した気分。

これは夢に出てくるきれいなピンクの壁を見るために、まだ見ぬモンテロッソを目指して旅をするハスカップという猫のお話。
「モンテロッソへ
  モンテロッソへ 
   モンテロッソへいかなくちゃ」

理由はわからないけれど、とにかく行かなくちゃいけない気がする。そんな直感だけを信じて、ハスカップは大好きな飼い主のおばあさんに別れを告げ、海を渡り、丘を越えて旅をする。
「何かを手にいれるためには
  何かをあきらめなきゃいけないってことくらい、
   私はよく知っている。」

途中さまざまな冒険や出会いや別れを繰り返しながら。それでもどんなできごとも彼女の心を揺らしはしない。ただひたすらにつき進み、ハスカップはとうとう目的のピンクの壁を探し出し…。

子どもにはハスカップの冒険を、大人には自分の生き方を照らし合わせてたのしめる絵本だと思う。夢で見たピンクの壁を思うあまり、とうとうその壁のしみになってしまったハスカップは、まさに自分の居場所を見つけられてしあわせだと言える。一途で、ときに無鉄砲で、それゆえに魅力的なキャラクターは江國さんの小説にも通じるものがあって、小さなお話のなかに江國ワールドが凝縮されている感じだ。

荒井良二さんの絵は発想が大胆で、とてものびのびと自由な感じ。ハスカップが「白ワインで蒸した鮭みたいな壁」とうっとりするピンクの壁を見開きいっぱいにどん、と見せてしまうあたりはちょっとわくわくさせられる。

このラストには正直どこか切ない気持ちを感じてしまうのもたしかだけれど、それでもページを開くとその言葉と絵から広がってゆく豊かなイメージの世界に、満たされた嬉しい気持ちになる。繰り返し開いてみたくなる、そんな絵本だ。